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変わる時

変わる時は思いがけなく訪れる。これは紺色が赤に変わった物語・・・

遠い日のことです。
母がわたしのワンピースを2着縫ってくれました。紺色の布地と赤色の布地を畳の上にパーッと広げ、どっちにしようかな、と言いながら、
結局3本白線の入ったセーラーカラーの同じデザインで色違いを2着。

ミシンを踏む母のそばで、もらった端切れで私はお人形のギャザースカートをチクチク縫っていました。

手先が器用で縫物上手の母の部屋は、どっしりと重いミシンの周りに、奇麗な布や糸やボタンなどの裁縫道具が拡がって、布が素敵な洋服に変身してゆく魔法の部屋のようでした。

私は母のそばで真似をして、新聞紙に型紙を書いたふりをして遊ぶのが大好きな末っ子でした。

桜の花も咲き前日の雨も上がって、小学校の入学式の朝となりました。
赤いランドセルだし、ほかの子たちの服装も紺色だと聞いたから、入学式
らしい紺色の方がいいわね、と、仕立て下ろしの紺色のワンピースを着せられた私は外に出て、飼い犬のルルと遊びながら母の支度ができるのを待っていました。

隣の子の三輪車がうちの前に置いてあったので、脚の余る小さなそれを漕いでルルと追いかけっこ。そのうち、昨夜の雨の名残の大きな水たまりの中にバシャン!転んで全身どろんこに。

そこへ黒い羽織の着物姿で出てきた母は怒る暇もなく、顔や手足を拭いてくれ、もう1着の赤いワンピースに着かえさせてくれましたが、バツが悪い思いで黙りこくっている私には、小学校までの道のりがとても長く感じられたことでした。そのあとのことはほとんど記憶にはありません。

のちに満開の桜の下で撮った写真を見て、姉から「あれ?紺のワンピースじゃなかったの?」と聞かれましたが、「赤にしたの」と、もごもご答えて。

私の小さな失態は誰にも知られることなく、私だけの亡母ははとの大切な思い出になったのでした。

                 おわり

シロクマ文芸部「変わる時」で始まる物語と、虎ちゃんの企画「春の季語を使った」(今回の季語は入学)に参加させてください。
小牧さん、虎ちゃんよろしくお願いいたします。

#シロクマ文芸部
#虎吉の毎月note
#入学

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