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天の川は渡れない

 圭と知り合ったのは、私のブログ。「君の詩は素敵だね。いつか僕の住む町のイルミネーションの下を手をつないで歩けたらな」というコメント。まぁこんなこと書く?と、思ったが、そのコメントがいつのまにか私の心を
とらえ、メール交換に発展。そして、ついに圭の住む町で初めてのデートをすることになった。

 圭の住む町は、七夕飾りであふれていた。通りの両側からくす玉や短冊が重たげに垂れ下がり、通る人たちの肩に振れんばかりだった。圭はついと私の手を握り、「イルミネーションまだないけど、今回はこれでいいにして」と、笑った。写真で見ていたとおりの優しい笑顔だった。

 僕のアパートにおいでよ、と言われたが、わたしにはそんな勇気はなく、予約した駅近くのホテルに荷物を置くと、圭の車でドライブに出かけた。海に行こう、と広い通りを抜けたところで、圭は突然「あっやば!」と顔色を変えた。
「どうしたの?」
「いや、知り合いと会っちゃて」
 あきらかに狼狽した表情から、それがただの「知り合い」ではないことにすぐ気づいた。
「え?もしかして彼女?」
「いや、そんな人いないよ、あの、ときどき煮物なんか届けてくれる人で」
 圭は正直だ。その「彼女」は、圭のことが大好きなんだろうと想像できた。

 海に着くとすぐ、圭のケータイが鳴った。
「ごめん」と圭。砂浜の離れた場所で真剣な顔でなにか話している。

 しかたなく波を眺める。年に一度織姫が彦星と会う日なのに、私たちはなんてこと。天の川は海ほどに広く果てしない。

 やっと戻ってきた圭は、「ごめん、一度家に帰る。ホテルまで送るよ。また迎えに行くから、夕ご飯は一緒に食べよう」と、困った表情。
「ふうん、じゃ、さっきの七夕飾りの通りまで送って」と私。

 町を散策し、お茶を飲み、ホテルに戻っても、圭からは連絡がなかった。
こちらからかけてみると、呼び出し音はしても、出ない。何回かかけているのちに、呼びだし音させしなくなった。なんてこと!怒るより、悲しくなった。

 圭は、優しい人だった。悩みがあって電話すると何時間でも話を聞いてくれた。お休みメールのあとには必ず「ゆっくりね」と添えられていた。その優しさを失いたくなかった。けれど、優しい人はだれにも優しい。優しさのとりあいになる。もう、そんな争いはしたくなかった。2日後に、圭から丁寧な心のこもったお詫びメールが来た。私からも負けないくらい優しいメールを送った。


突き離せない
君の優しさを
最大級の
優しさで
突き離そう


           おわり


企画に参加させてください。よろしくお願いいたします。


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