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動かないボーナス

 お釈迦様が、ふと下界を見ると、地獄の血の池でおぼれている男が見えました。あの男は生前経理部長で、皆のボーナスを上はねしていた男・・・もらえるはずのお金が入らず、自殺した社員も何人かいた、という許せない男・・・

 でもただ一度だけ、横断歩道を渡り切れなかったおばあさんのエプロンの紐をひっぱって、歩道に引き上げ、命を助けたことがあったのです。お釈迦様はそのエプロンの紐を長~く伸ばし、地獄まで垂らしました。男はそれを見ると必死でしがみつき、少しずつ登って来ました。下を見ると大勢の罪人が男に続いている!「これは俺の紐だ、降りろ!」と男は足にまで迫ってきている罪人を蹴落としました。

すると体が硬くかたまり、動かなくなってしまったのです。

「命を救ったのは、お前へのボーナス、その代わりお前はもう動けない。
一生そこで、宙ぶらりんでいるのです」

お釈迦さまの声がはるか天上から聞こえました。


             おわり (406文字)


参考作品 芥川龍之介作「蜘蛛の糸」 畏れ多いことです・・・


たらはかにさんの企画に参加させていただきます。
よろしくお願いいたします。



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