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最低辺の僕が、社内政治スキルを駆使して銭湯の主っぽいお爺さんと戦った結果…


実は、私は、最底辺の人間です。
近所の銭湯カーストにおいて。

その銭湯では私は非常に弱い立場にあり、誰も私の意見なんて聞いてくれません。

私の立場が弱いのは、私のせいです。
銭湯で身体を洗った後、私はよく、風呂椅子と桶を片付け忘れてしまうのです。
そのたびに、その銭湯の主みたいなお爺さんに、公衆の面前で叱責され、私の立場はどんどん弱くなっていくのです。

そのお爺さんは、背は低いけど、背筋をピンと伸ばし、堂々と胸を張っています。城主さまのような威厳があり、とても平民の私などが逆らえるような雰囲気ではありません。

その銭湯では、天井付近に窓がずらりと並んでおり、いつもその窓が開いているせいで、かなり寒かったです。
そのことを番台のお婆さんに相談すると、銭湯の端にあるレバーを回せば、その窓の開閉ができると言うのです。

いいことを聞いた!
と思った私は、さっそくレバーを回して、窓を閉めようとしました。
すると、例の城主様の風格を漂わせるお爺さんに背後からどやしつけられました。
「閉めちゃ、ダメだ」
そう言うと、お爺さんは私からレバーを取り上げ、また風呂の窓を全開にしました。

じょ、城主様、そんなご無体なー。

その時はまだ1月。凍てつく風が吹き込んでいました。
私は大きなくしゃみをしてしまいました。
城主様はそれをあてつけだと解釈したのか、私をものすごい目で睨みつけました。
無礼討ちにされそうな雰囲気で、とても逆らえませんでした。
銭湯の他の人達は、みな、無言です。

その場で、銭湯の他の人達の意見を聞いてみようかとも思いましたが、それは踏みとどまりました。
もし、ここで多数決を取り、みなが城主様に同調したら、私は、その窓を閉めることが永遠にできなくなってしまうからです。
そんなリスクを犯すのは、賢くないです。

そもそも、「窓を開けた状態と、窓を締めた状態で、どちらが快適なのか?」を尋ねたら、全員が誤った判断をするリスクが高かったと思います。
なぜなら、みな「窓を開けた状態」しか経験しておらず、「窓を閉めた状態」を経験していないからです。
そういう場合、人々は、「窓を閉めた状態」を想像して回答します。
しかし、その想像は、往々にして、実際とは大きく異なるのです。
「実際に経験してみると、全然違った」などというのは、よくあることなのです。

そこで私は、別の日に、番台のお婆さんに、そのことを、それとなく話題にしてみました。
すると、番台の近くの椅子に座っていた別のお婆さんが、その会話に割り込んできました。
「女湯の方は、窓が閉まっているのよ」

      な   ん   だ   と


これは戦局を覆す、重大な情報でした。
私はこのチャンスを逃すまいと、そのお婆さんに詳しく話を聞いてみました。

すると、そのお婆さんは、以前、窓を開けようとしたことがあるとのこと。
そうしたら「寒い!」と反対され、それ以来、暑いときでも窓を開けられなくなってしまったとのことでした。
銭湯社会の政治ゲームの仕組みが垣間見えたと思いました。

「この政治ゲームをハックして、なんとか窓を閉めるように政治工作できないか?」という考えが浮かびました。

私は番台のお婆さんに「女湯で窓を閉めていて大丈夫なら、男湯で窓を閉めても大丈夫なのでは?」と尋ねました。
すると「男の方は、ダメなのよ」との答え。
「? 男性と女性で違うんですか?」
「そりゃあ、違うわよ」

ええ?男性と女性で、そんな差があったのか!?
いや、まてよ。
なんか怪しい気がする。男性と女性で、そんな生物学的な違いがあるという話を、私は聞いたことがない。
念の為、もっと解像度を上げてヒアリングしてみよう。

「『男性は、窓を開けておかないといけない』というのは、どのように確かめましたか?」

お婆さんは、少し考えてから答えました。
「あの人が、開けるのよ」
城主様のことでした。
他の人たちには、直接聞いたことがあるわけではないとのこと。

「じゃあ、黙っている人たちが何を考えているかは、わからないですよね?」
「。。。そうね」
すると、そのお婆さんの認識が変わったのか、お婆さんは追加情報を語りだしました。
「あの人は、すごい暑がりなのよ。冬でも半袖でね。。。」
なるほど。
たしかに城主様は、いつもやたらと長時間水風呂に入っている。
。。証拠が揃ってきた。

得られた情報を総合すると、次の可能性が浮かび上がりました。

・「窓を閉めた状態」と「窓を開けた状態」でどちらが快適なのか、ほとんどの人は知らない。
・現状、声の大きい人の意見が通っている。
・たまたま、暑がりの城主様が声の大きい人であるため、その人の意見が通り、「窓を開けた状態」になっている。

ということは、城主様さえハックしてしまえば、窓を閉めることができる可能性が高いということです。

これは、やり方次第では、一揆が成功するかも!?

ここで私は一計を案じました。

第一に、花粉の季節が始まるのを待ちました。

第二に、サンコーの花粉ブロッカー2を購入しました。





















これを装着し、ズボンも上着も全て黒で統一し、全身黒づくめの格好で、城主様が番台の横で相撲を見ながら涼んでいる時間帯に、その銭湯に行ったのです。

私の目論見どおり、銭湯にいた人々全ての視線が、私に集中しました。
番台のお婆さんが私に聞きます。
「あなたは、蜂を飼っている人なのかい?」
「いえ、これは花粉を防ぐためのものなのです」
お年寄りたちが、口をあんぐり開けて、私の方を見ています。
「かなりひどい花粉症なんですよ。
花粉が入ってくると辛いので、浴室の窓、閉めてもいいですか?」
城主様が、ジロリとこちらを見ました。
私は、すかさずそこで、いい添えました。
「女湯の方は、窓は閉まっているようですし」
城主様が固まりました。
番台のお婆さんが、怪訝そうに言います。
「湯気のあるところでも、花粉は飛ぶの?」
私は、一瞬、返答に躊躇しました。飛ぶかもしれないし、飛ばないかもしれない。わからない。
でも、私は言い切りました。
「湯気があると花粉は少なくはなりますが、それでも、少し飛ぶんです。重度の花粉症の私には、わかるんです」
みな、全身黒ずくめの伝説の養蜂家のような出で立ちの私の方を見ながら、黙っていました。
誰も重度の花粉症になったことがないから、私の言っていることが本当かどうかなんて確かめようがなかったし、なにより、強烈なビジュアルのせいで「重度の花粉症」に説得力があったからです。

結局、城主様は、私が窓を閉めることに、反対できなくなりました。
第一に、「女湯の方は窓が閉まっている」という事実を突きつけることで、「窓は開けておくものだ」という常識論が通用しなくなったからです。
第二に、花粉症の人を苦しめてまで、窓を開け続けることの、正当性を見つけられなかったからです。

こうして、私は、少なくとも、花粉の季節の間は、窓を閉めることができるようになったのです。

銭湯内で発言力がほとんどない私は、銭湯内の政治を動かし、自分の意見を押し通すことに成功したのです。
平民の私でも、城主様の決定を覆すことができたのです。

なんでもそうですが、立場の弱い人間が、自分の意見を押し通すには、以下の8つのポイントを抑えると効果的です。


(1)自分の意見を正面から主張しない。
自分の意見は表に出さず、裏に手を回して、自分の意見が通るように政治工作する。

(2)正しい判断ができない人間の多数決で物事を決めない。
今回の例だと、「窓を開けた状態」と「窓を閉めた状態」の両方を経験していない人々で多数決をとったら、誤った判断がなされるリスクがあった。

(3)情報収集する。

(4)表面的な情報を懐疑し、深掘りして、情報の解像度を上げる。

(5)集団内による意思決定がどのようになされているか、意思決定メカニズムを高い解像度で把握する。

(6)複数の方向から、圧力をかける。
今回の例でいくと、「女湯は窓が閉まっている」という圧力。
「花粉症の人のために、窓を閉める必要がある」という圧力。

(7)多くの人が見ているところで、政治的決着をつける。
対立している相手と1対1で言い争っても、不毛な水掛け論になるだけ。
大勢の人が見ているところで、その場の全員に自分の意見を認めさせると、対立している相手は、反対できなくなる。

(8)勝負に出るときは、ド派手な花火を打ち上げ、多くの人の注意を自分に引きつけ、主導権を握る。
今回のケースだと花粉ブロッカー。
※この技だけは、リスクを伴うので、センスのない人はやらないほうがいいです。


この8つのポイントをおさえれば、社内政治においても、自分の意見を通しやすくなるのではないかと思います。

以上、「弱い立場の人が、集団内で自分の意見を通すための方法」をお送りしました。新入社員の方など、いかがでしょうか。
この記事はほぼ実話ですが、面白文章力クラブで議論する中から生まれた、「実用的な内容をわかりやすく伝える文章設計技法」の実験です。

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※この記事は、面白文章力クラブのみなさんに添削していただいて出来上がったものです。



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