多くの労働者が不当に低い賃金しかもらえない10の理由


非常に多くの労働者が、正当な賃金をもらえていない。
この記事では、その理由を説明する。

(1)若者が搾取されるパターン

たとえば、年収600万円の価値のある若者が、年収400万円で働かされていることは珍しくない。

そういう若者の多くは、自分の年収を600万円にできるということに気がついていない。

いわば、200万円分、会社にぼったくられている状態である。

これは、認知心理学における「参照点」によって引き起こされる。

まず、新卒の若者の多くは、会社にとって、年収以下の利益しかもたらさない。
新卒が戦力になる前は、会社の方がぼったくられているのである。

ところが、若者が戦力になりはじめると、わりとすぐに、これが逆転する。

戦力化した若者は、教育コストが大きく減る一方で、
会社にもたらす利益はぐんと上がる。

問題は、「過去の年収」が「参照点」になってしまうことで発生する。

もともと年収240万円だった若者は、会社への貢献度が大きく上がっても、
240万円よりも少し給与が上がれば、それで満足してしまう。

なぜかというと、「240万円」が心理的な参照点になってしまっているからだ。
だから、240万円より上がっていれば、それで満足してしまうことが多いのだ。

これは、とくに、成長スピードの速い若者に起きやすい

企業が若者を採用したがるのは、
この認知バイアスを利用したボッタクリができることを、知っているからだ。

もちろん、新卒を採用した場合、会社としては投資を回収する必要があるから、しばらくは実際の実力よりも低い賃金で働いてもらうのは仕方がない。

しかし、すでに戦力化した若い労働者を中途採用する場合、会社側としては、この認知バイアスを利用した搾取ができるので、非常に美味しい

中年の労働者は、このタイプの搾取ができないので、採用しても、旨味に乏しいことが多いのだ。


(2)転職で年収が上がるのに、下がると錯覚する

「転職した方が年収が上がる人」が、
「自分は転職すると年収が下がる」と信じ込んでしまっていることがよくある。

これは、損失回避傾向という認知バイアスが原因だ。

たとえば、転職すると、50%の確率で、年収が200万円上がるが、
50%の確率で、年収が150万円下がるとする。

この場合、期待金額を計算すれば、転職したほうが得であることがわかる。

ところが、人間には「損失回避傾向」という認知バイアスがあるため、
「年収が150万円下がる痛みの絶対値」を、「年収が300万円上がる喜びの絶対値」と同じに感じてしまう。

このため、合理的に考えれば、転職した方が年収が上がる場合にまで、年収が下がると錯覚してしまうのである。

こういう人は、不当に低い賃金のまま、同じ会社で働き続けることになる。


(3)確証バイアス

自由形式の採用面接だと、
最初の5分間の評価が、そのまま面接の評価になってしまうことが多いことが、研究で分かっている。

なぜそうなるかというと、「確証バイアス」という認知バイアスのせいだ。

人間は、「自分が正しいと思っていること」が正しいという証拠ばかりを探し、
「自分が正しいと思っていること」が間違っているという証拠は、なかなか目に入らない。

これが、「確証バイアス」だ。

この認知バイアスがあるせいで、
面接官は、最初の5分間で、「この人は優秀だ」と思うと、
残り55分間を使って、その人が優秀である証拠ばかりを探し、
その人が無能であるという証拠は、目に入らなくなる。

逆に、最初の5分間で「この人は無能だ」と思うと、
残り55分間を使って、その人が無能である証拠ばかりを探し、
その人が優秀である証拠は目に入らなくなる。

結局、最初の5分しか、実質的な判断ができていないのである。

もちろん、たった5分間で、人間の優秀さなど測定できるわけがない。
したがって、最初の5分間で無能だと思われがちな人は、
実際に会社に提供できる価値よりも、低い年収でしか採用されない。

しかも、そうやって会社に低い年収で採用されてしまうと、
その年収が参照点になってしまうため、
かなり長い間、本来の賃金よりも安い賃金で使われ続けることになったりする。


(4)レモン市場

労働者は、自分は年収いくらぐらいの働きができるかを知っているが、
採用面接官は、たった1~2時間の面接で、それを見抜くことはできない。

面接官は、年収400万円の価値のある人材と、年収600万円の価値のある人材の、区別がつかない。
区別がつくと思っているのは、大体が認知バイアスによる思考の錯覚だ。

売り手側と買い手側の持つ情報に、非対称性があるのだ。

年収400万円の人材か、600万円の人材か、面接官が判断できない場合、
面接官にとっての、その人材の期待価値は、500万円である。
だから、面接官は、その人材を500万円で雇おうとする。

すると、年収600万円の人材は、転職するだけ損なので、転職しなくなる。
一方で、年収400万円の人材は、転職すると得なので、どんどん転職する。

すると、市場に出回る人材の期待価値は、さらに下がる。
そうなると、ますます優秀な人材は出回らなくなる。
会社側は、いくら面接を繰り返しても、ろくな人材に行き当たらなくなるのだ。

このような状態に陥った市場を、レモン市場と言う。

このように、情報に非対称性があるため、
自分を正当な賃金で会社に雇ってもらえず、
不当に低い賃金で働かなければならない労働者がたくさんいる。


(5)ラッキーが参照点になってしまうパターン

年収800万円の人材を、運良く年収600万円で採用できてしまうことがある。

そのようなラッキーに連チャンで当たってしまった企業は、
「年収800万円の人材を、年収600万円で採用できること」
が参照点になってしまうことがよくある。

そうなると、その企業は、自社の年収600万円の人材(実は800万円レベル)と、面接している人材を比較して、劣っているという理由で、
その人材が年収700万円を要求するのが高すぎると思ってしまう。

このため、どの人材も割高に見えてしまって、
「正当な価格」で雇える人材が、いつまでたっても採用できなくなる。

しかも、既存社員の年収も、ずっと低く押さえられたままになってしまう

そういう企業では、「人手不足なのに、年収が上がらない」という状態がずっと続く。
参照点が、「人手不足なのに、年収が上がらない」という状態を作り出してしまっているのだ。

だから、転職する際は、転職先の会社がそういう参照点トラップに陥っていないかどうかを、チェックしておく必要がある。
年収1000万円もらってもいいような、すごい人材が年収700万円で働いていたら、その会社は、かなり危険だ。


(6)社内価値と市場価値が乖離

たとえば、会社にとっては、山田さんは、1000万円支払っても雇う価値があるとする。
しかし、山田さんがその会社以外に転職しようとしても、500万円でしか雇ってくれるところが見つからない。

こういうケースは、割合、よく発生する。

その会社でしか通用しない技術を蓄えたエンジニアや、
ものすごくニッチな業界でのノウハウを貯めた人材などで、よく起こる。

この場合、山田さんに550万円ぐらいしか支払われていないことも、わりとよくある。
もちろん、会社側とうまく交渉し、800万円、900万円の年収を得ている人もいる。

このように、社内価値と市場価値に乖離がある場合、
そもそも「正当な賃金」とはいったい、いくらなのか?
というのが、あいまいになる。

しかし、少なくとも550万円の場合、「不当に低い」と言っても良いのではないだろうか。


(7)転職ガチャ制約

転職して年収がいくらになるかは、かなり大きく運に左右される。
相性のいい会社に転職すれば、人間関係がうまくいき、才能が発揮でき、成果が出て、年収も上がっていく。
相性の悪い会社に転職すれば、その逆のことが起きて、年収はむしろ下がったりする。

だから、自分と相性のいい会社が見つかるまで、転職ガチャをじゃんじゃん回し続ければ、必然的に、年収は上がることになる。

ところが、会社は、転職回数の多い人を雇いたがらない。

戦力化するまでには時間とお金がかかるので、短期間で辞められると、会社としては損する。
だから、短期間で辞めそうな人は、雇いたがらないのだ。

このため、転職ガチャは、ごく少ない回数しか回すことができない。

これにより、転職ガチャでハズレを引いた人は、その人のポテンシャルよりも、不当に低い賃金で働き続けなければならなくなるのである。


(8)単独交渉

給与を上げる交渉は、一人でやった方が、賃上げされやすいように見える。
なぜなら、会社としては予算総額が決まっているので、一人だけ抜け駆けして賃上げした方が、その予算を一人で総取りできるからだ。

しかし、社員全員がそう考えて、それぞれバラバラに賃上げ交渉をするため、会社側に各個撃破されてしまう。

実際、賃上げ交渉してくる社員を、見せしめとして潰しにかかる会社は、珍しくない。
「社員の賃金をいくらにするかは、会社側が決めることであって、それ以上の賃金を求める社員は、強欲だ」という理屈で、そういう社員を糾弾するのだ。

それを見せつけられた他の社員は、怖くて、賃上げ交渉をできなくなってしまうのだ。

こうして、各人がばらばらに賃上げ交渉することで、賃上げ交渉で得られる期待金額は小さくなってしまう。

社員が一人辞めたぐらいでは、会社はさしたるダメージはない。
だから会社は、一人で賃上げ交渉をしてきた社員を潰すことができる。

しかし、社員全員が協力して賃上げ交渉をやった場合、会社は、全員を叩き潰すことはできなくなる。
社員全員に一斉に辞められたら、会社が回らなくなってしまうからだ。

このようにして、社員が協力して賃上げ交渉をやった場合、市場原理は、機能しなくなってしまうのだろうか?

そんなことはない。

会社が健全に成長していくための資金は確保した後で、残りを、株主、経営者、社員で分配することになる。
社員側が過剰に要求すれば、会社の成長が止まってしまうので、社員自身も将来利益を失う。
このため、きちんと話し合って交渉すれば、株主、経営者、社員の取り分は最適化される。

社員の給与が低すぎる競合他社がいる場合、競争に負けてしまうのでは?

そんなことはない。
その場合、たとえ社員が団体で交渉しても、競争に負けてしまうような賃金は勝ち取ることができない。
なぜなら、競争に負けるような賃金に設定すると、会社自体が潰れてしまうので、それは社員の利益にもならないからだ。

結局、社員が団体で会社と交渉しても、ただ単に、「株主や経営者が過剰な利益を手にし、その分だけ、社員の賃金が不当に下がる」ことを防ぐという結果になるだけである。

もちろん、これは、社員側がバカではないということを前提としている。実際には、無理な要求をするバカな労働組合のせいで衰退した会社はたくさんある。
しかしそれは、全ての労働組合がバカだということの根拠にはならない。会社側と共存共栄している労働組合の方が、むしろ、ずっと多い。


(9)騙しやすい人だけ採用するから

実質的な賃金は、以下のものに左右される。

・有給休暇の消化率
・サービス残業の時間数
・自腹を切らなきゃならない経費
・仕事に必要な勉強を就業時間中にできるか
・飲み会など労働時間外の拘束

同じ年収500万円でも、有給休暇を全部消化でき、サービス残業は無く、自腹を切らなきゃならない経費はほとんどなく、業務に必要な勉強は就業時間中にやることができ、飲み会などの時間外の拘束がない人と、
これらが全部逆の人では、実質的な年収は、200万円ぐらい違ったりする。

そんなのが問題になるのは、一部のブラック企業だけだって?

そんなことはない。
かなりの有名IT企業でも、サービス残業は当たり前で、仕事に必要な勉強を仕事中にやることが認められず、しかも、社外ミーティングのコーヒー代まで自腹になっていて、驚いたことがある。

それを見抜けない労働者が、騙されて、不当に低い実質賃金しか支払われない会社に就職してしまうことが、よくあるのだ。

労働者は、面接の時に、これらを会社側に質問すればいい?

いや、それらを質問するような労働者は、会社が採用したがらない。
なぜなら、騙せないからだ。
基本的に、騙せる労働者だけを採用したほうが、会社としては実質的な賃金を低く抑えることができるので、得なのである

そして、騙される労働者があまりにも多いために、
騙されない労働者も、騙されているふりをするしかなくなる。

騙されないような労働者だと思われると、会社側に採用されなくなってしまうからだ。

この問題に対処するためには、予め、知人を通じて、その会社の内部の実態を、調べておくのがいいだろう。


(10)市場原理自体が単なる人為的なルールに過ぎないから

市場原理主義者は、「市場原理的に正しいこと」を「正しい」と主張することが多いが、
市場原理自体には、なんらの正当性もない。

市場原理自体は、「フェアか?アンフェアか?」という価値判断とは無縁な、単なる概念装置に過ぎない。
ようは、トンカチやドライバーのような、単なる道具なのである。
トンカチは、生活を豊かにするのにも使えるが、人を殺すのにも使える。
それ自体は、善でも悪でもないのだ。

我々が市場原理を使っているのは、
単純に、民主主義の多数決原理で、市場原理を使うことにしたからにすぎない。

しかも、我々は、いつでも、生の市場原理を使うと決めているわけではない。

そもそも、認知バイアス、情報の非対称性、ナッシュ均衡などによって、市場原理がスムーズに機能していない場合には、「市場原理に任せておけば、万事うまく行く」などという単純な話にはならない。

しかも、市場が完全に機能しているケースですら、市場原理によって決まった価格が、人々によって支持されないものであるなら、それは、正当な価格とは言えないのである。

民主主義国家においては、「正当な賃金」が何であるかは、市場原理ではなく、民主主義によって決まる。
現在の賃金を「正当な賃金」だと考えない人が十分に多くいるなら、それが市場原理的に正しいかどうかとは関係なく、それは正当な賃金ではないのである。


■で、どうすりゃいいの?

じゃぁ、不当に安い賃金で使われないためには、どうすれば良いのか?

 手っ取り早いのは、この辺のカラクリがわかっている人間に相談することである。

そういう人が身近にない?

だったら、有料相談サービスを使えばいい。

僕が知っているのは、たしか相談ドットミーとかいうサービスだけど、検索すれば他にもいろいろ出てくるかもしれない。

幸運を祈る!


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