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旗手怜央〜生粋のサッカー小僧〜

2021年12月31日、年の瀬に旗手怜央がスコットランド、セルティックへ完全移籍することが発表された。


この報が出てから僕はこの2年間、等々力や各地のスタジアムで僕が見てきた旗手怜央を、撮り溜めてきた写真と共に振り返っていた。


せっかくなので、僕が見てきた旗手怜央をここに綴ろうと思う。



真冬の札幌ドーム

彼のJ1デビューは、意外にも2019年シーズン。

J1最終節の札幌戦で阿部浩之と交代し、特別指定時に川崎フロンターレデビューを果たした。

角刈り風の髪型でキメた彼はまだあどけなく「大学生」であることをどこか表現しているかのようであった。


当時のチームは天皇杯も無く、ACL圏外の4位を確定させている状態だったこともあり、ゲームそのものにチームとして立体性をもたらすことができなかった。そんなゲームであった。所謂消化試合ってやつだ。


ただ、その中で出てきた旗手怜央が見せる時折見せるボールキープやポジショニングには、目を引く瞬間があったことを鮮明に覚えている。




この試合を持って川崎フロンターレ2019は幕を下ろし、2020年シーズンが始まる訳である。


2020年以降の旗手怜央を今更振り返る必要はないであろう。

川崎フロンターレの主軸として2020年、2021年とリーグ連覇に貢献した。

2019年の札幌で魅せたボールキープやサッカーセンスは月日を追うごとに磨きがかかり、気付けば角刈りだった髪型もお洒落なパーマへと変貌していた。


そんな彼が、明らかに選手として変わってきたのが2021年シーズンだったように感じた。


彼自身から「責任」と「覚悟」を感じるようになったのは、2021年の夏からだ。



三笘薫、田中碧の海外挑戦

2021年シーズンの夏、東京五輪の開催と並行して川崎フロンターレは三笘薫、田中碧の2選手を海外へ移籍させた。

旗手怜央と彼らが東京五輪のメンバーには選ばれており、旗手以外の選手は東京五輪終了後にそのまま海外へ活躍の場を移す格好となった。


僕は当時、東京五輪後に1人川崎へと帰ってくる旗手のことを考えながら「もし、自分がこの立場だったらどんなモチベーションなんだろう」と考えたことがある。



自分自身の立場に置き換えて考えてみた。

自分を含め、会社の同世代で期待されていた3人がいたとして。


自分以外の2人は外資系大手企業へステップアップを果たし、自分は今の会社に残ることとなった。


そして、弊社からはこの3名が加わっている、数社による巨大プロジェクトが終わり次第、彼らは異国へと旅立つ。自分は、今の会社へと戻る。


もっとも、川崎フロンターレが彼らの移籍したクラブより格下だとかなんだとか言うつもりはさらさらない。


ただ、我々の世界に置き換えるとこういうことなのだろう。


僕は、東京五輪から戻った旗手は想像以上に難しいメンタル状態だったのではないかと思っている。



会社からは、これまで3人に分散されていた期待が一気に降り掛かる。


一見、凄いモチベ向上の要因になりそうだが、現実は自分と同じ期待をされていた2人がステップアップを果たしたために起こった状況。


モチベの低下に繋がるケースもあるだろう。


そして何より、過度な期待は重圧となって重くのしかかる。



この半年間の旗手は、もしかしたらそんな状況だったのかもしれない。




旗手は、ゲームに勝てないと彼はよく泣いていた。



たった1試合。たった1試合勝てなかっただけで彼は大粒の涙を流していた。



旗手は、ゲームが終わるとその場に倒れ込んでいた。




起き上がることができず、全てを出し尽くした後のように。その場に倒れ込んでいた。



それでも、彼は崩れなかった。

間違いなく、ピッチの中で誰よりもガムシャラに、誰よりも勝利を渇望し、誰よりも出力できる自身のリソースを全てピッチ上に配分していた。




サッカー選手はよく試合に負けるとこう言う。


「悔しいですけど、切り替えて次また良い準備をして臨みたいと思います。」


良し悪しは人それぞれだろうが、僕は旗手からはこの「切り替えて」に当たる部分を感じたことがない。


「負けて悔しくて切り替えるくらいなら、このゲームに自分の全てを捧げる。今、勝てる確率を最大限に上げる。」


まるで、旗手のプレーはそんな感じであった。

だから、彼はゲームに勝てないと涙を流していたのだと思う。

自分が持っている100%以上のものを出し、それでも勝てない悔しさは想像を絶するものなのだと思う。絶望という表現の方が正しいのかもしれない。



彼から直接言葉を引き出した訳ではないので憶測だが、僕は旗手怜央のそんな全力のプレーが大好きであった。



そしてこの「全力プレー」は、田中碧と三笘薫が移籍したことによって彼自身に宿ったもののように感じる。





先ほど僕は「覚悟」や「責任」を感じるようになったと表現したが、そんな綺麗なものではないかもしれない。

しかし、残念ながら彼のガムシャラさと、それに付随する「覚悟」「責任」を言い表す語彙を僕は持ち合わせていない。


彼から感じるものは、それくらい「言語化しにくい」いや「言葉では表せない」ものであった。



しかし、そんな旗手を見てて僕が強く感じたのは、覚悟でも責任でもない。


その根本にある「サッカーへの愛」である。


少年のような笑顔


一眼レフで撮った写真を見ていると、あることに気付く。

みなさんも、これらの写真をみたら同じことに気付くかもしれない。


そう。フロンターレが点を取った時、彼は少年のような笑顔で、全力で喜びに行く。


それまで、鬼の形相で闘っていた旗手からは想像できないくらいの、1ミリの不純もない綺麗な笑顔である。




この夏、旗手を突き動かす様々な要因があった。
冒頭で述べた2選手の移籍もそう。東京五輪もそうであろう。

でも、本当に旗手怜央を成長させたのは、これらの要因ではなくもっと単純な「サッカーが好き」という想いだったように感じる。


フロンターレが点を取った後の笑顔からは、そんな彼が根本に持っている「サッカーバカ」の表情が伺える。


あれだけ試合に出て、身体はボロボロだっただろうし、メンタルの維持も難しかったであろう。


それでもピッチに立ち続けることができたのは、間違いなく「サッカーが好きだったから」なのだろう。
写真に映る旗手の笑顔を見ると、そう思わずにはいられない。


僕はいつしかフロンターレが点を取った際、自然と旗手を探すようになっていた。




どんなに遠くにいても、スコアラー目掛けて全力の笑顔で飛び込んでいく旗手を。彼を見るのが、いつしか等々力へ行ってサッカーが見たい理由の一つになっていた。




そしてもう一つ、旗手が愛していたものが、きっとある。



等々力ラストマッチでの、涙


記憶に新しい、天皇杯大分戦。

フロンターレはPK戦の末敗れ、突然2021年シーズンが終わる。


選手が俯きながらスタンドへ挨拶に来る中、1人大泣きをして項垂れながら、何とか挨拶をする選手がいた。


それが、旗手怜央である。


先輩、脇坂泰斗に支えなて貰いながら挨拶に来た旗手。


この涙には、きっと沢山の意味があった。


シーズンがこのような形で終わってしまったことに対する悔しさ。


自分自身に対する悔しさ。


そして、これが川崎フロンターレでの最後のプレーとなってしまうことへの寂しさ。


最後もう1試合、このチームでプレーしたかったという、彼の想い。悔しさが涙となって溢れ出したように見えた。



彼はきっとサッカー小僧であり、そして誰よりも「川崎フロンターレ」が大好きな選手なのだ。


川崎フロンターレが好きで好きで仕方ない。そんな選手。



僕はこの旗手怜央の涙を見た時、涙が止まらなかった。


そして、冒頭で述べた田中碧、三笘薫が移籍した時に彼が抱いた想いは「川崎フロンターレで闘うことに対する誇り」だったんだと確信した。


ゲームに勝てなくて泣けなかったのは、重圧なんかじゃなくて「大好きな川崎フロンターレが勝てなかったこと」に対する涙だったのかもしれない。


そう。

旗手怜央はきっと、誰よりも川崎フロンターレを愛していた。





2021年シーズンが終わり、旗手のセルティック移籍報道が出た際に「旗手が年内の早期契約を求めている。」というニュースがイギリス方面から出ていた。


その中身をよく見ると「少しでも移籍金を沢山クラブに残せるよう、2021年内に契約を締結したがっている。」との記載があった。(誤訳があるかもしれないが)


もう、僕は驚かなかった。



そうなんだ。そうなんだよ。


旗手怜央は、そういう漢なんだ。


誰よりも川崎フロンターレを愛し、誰よりも川崎フロンターレのために闘える、そういう漢なんだ。




僕は、長いことサッカーを見てきて誰か1人の選手の人間性にこんなに心が撃たれたことは無かったかもしれない。


旗手怜央には、そんな力がある。


それは言葉が通じなくても、世界中の人と通わせることのできるものである。



さぁ、行ってこい旗手怜央。


僕たちを魅了したそのサッカーセンス、その人間性。セルティックで魅せてこい。



きっと、セルティックでもたくさんの人に愛されることだろう。


そして旗手は、川崎フロンターレと同じようにセルティックも心から愛するのであろう。



これから旗手の虜になるセルティックのサポーターが、僕はちょっぴり羨ましい。


たくさんの感動をありがとう。いってらっしゃい!

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