2022年開幕直前〜The song of praise〜
長かったシーズンオフが明け、ようやく2022年シーズンの足音が聴こえてきた。
僕たちサポーターはもう何十回もこの"シーズンオフ"を迎えている訳だが、未だにこの時期の過ごし方をよく知らない。
「今週の土曜日空いてる?」
例えば会社の同僚がこう尋ねてきた時、シーズン中の我々はまずJリーグの日程を確認する。
「あー、ごめん。その日予定あるわ。」
これは、マッチデーと被った時の返事である。
「じゃあ、日曜日は?」
同僚が粘り強く聞き返す。
「あー、ごめん。日曜も際どい。なんか申し訳ないから土産買ってくるわ。」
これは、上述した土曜日のマッチデーが遠方アウェイだった時の返事だ。
しかし、シーズンオフとなるとこの定義は意味を成さないものとなる。
「今週の土…」
くらいまで同僚が口を開けば、もう十分だ。シーズンオフの僕たちは暇で暇で仕方がないのである。
「空いてるよ!大丈夫!!何時からでも!!」
同僚に被せるようにこう答える。シーズンオフのサポーターの暇さを舐めるんじゃない。
「まじ!?神かよ!!俺今仕事パンパンでさ、手伝って欲しかったんだよねぇ〜休日出勤助かる!!」
人の話は最後まで聞こう。
なんて冗談はさておき、長かったシーズンオフが遂に明ける。2022年シーズンの開幕が直ぐそこまで来ている。
世界最高ファンタスティックフットボールクラブこと川崎フロンターレは、Jリーグの開幕に先駆けFUJIFILMスーパーカップに挑む。
思い返せば、数年前までこのスーパーカップなんて縁の遠い存在であった。
初めてスーパーカップに足を運んだ2018年、スタグルの多さと本当にサッカーの試合を超越したかのようなお祭り具合に驚いた。
案の定、愛くるしい我が軍はそのお祭り感に呑まれてバタバタしていた。
そんなピッチ上のことはさて置き、スタンドの僕はカマコロと喜作のソーセージをビールで流し込むという、背徳感とこの上ない幸せを噛み締めていた。気付いたらめちゃくちゃ失点していた。
そんなスーパーカップに挑むのも今年で4回目となる。
楽しい時は一瞬だ。
シーズンが始まれば、あっという間に11月末を迎えてあっという間にシーズンは終了する。
逆に「楽しい」という曖昧な定義に載せて、定量的にもう一つの何かと比較した時「楽しくない」と決めつけられた時間はとても長く感じる。
つまり、シーズンオフは僕にとってシーズンより長く感じる。
そう。そんな僕にとってこの「スーパーカップ直前」というのは幸せ以外の何物でも無いのである。
これからワクワクするような日々が始まる。その日々を射程圏内に捉えた、このワクワク感。
このワクワク感こそお金では買えない価値があり、僕たちの生活をより豊かにしてくれるアイテムである。そんな気がしている。
そんな開幕直前の今日、ここで今季から世界最高ファンタスティックフットボールクラブ川崎フロンターレへ加入したメンバーを簡単におさらいしていこう。
瀬古樹
横浜FCから加入した若きダイナモ。
中盤を主戦場としているが、CB/SBの位置でもプレーすることのできる守備的ユーティリティプレイヤーである。
瀬古は2019年に天皇杯で明治大学と戦った際の明大側のメンバーであり、そんなところにも縁を感じずにはいられない。
過密日程が予想される今季、アンカーとSBを両方ハイクオリティでこなせる彼のフィットがリーグ三連覇、悲願のACL制覇を占っていると言っても過言ではないかもしれない。
なお、ここからは筆者の偏見なのだが、CoCo壱ではパリパリチキンカレーにほうれん草をトッピングしていそうである。多分2辛。
チャナティップ・ソングラシン
タイのメッシことチャナティップ。Jリーグを見ている人で彼を知らない人などいないであろう。
異次元のテクニック、そして一瞬で相手を置き去りにするドリブル。
今やサッカー界の絶滅危惧種に認定されつつある"ファンタジスタ"的要素を持った数少ない選手である。
筆者が遠い昔タイ旅行に行った時、バンコクの外れで乗っていたタクシーのメーターが突然消えた。
運転手曰く、ここからはメーターを提示させられない地域になるという。
どんな地域やねん。
これは所謂"ぼったくり"というやつである。
東南アジアに於いてはしばしばあることで、まぁぼったくりと言っても日本円で1,000円程度なのでいいっちゃいいのだが、単純に舐められたことに対してイラッときた。
タクシーの運転手は幸い英語が話せるっぽかったので、僕はカタコト以下の英語でこのタクシーの運転手に尋ねた。
僕「Isn't this a malfunction?」
(ちょっと聞きたいんだけど、メーターが出ないのは故障ではない?)
運転手「That's not true. As usual.」
(いつも通りだよ?安心せえ。)
僕「うっわ。シンプルに頭にくるタイプだ。」
(うっわ。シンプルに頭にくるタイプだ。)
運転手「What?」
(何て?日本語わからんて。今絶対文句言ったん。まぁ言われるか。)
僕「How do you calculate your money?」
(で、どうやって金額計算するの?)
運転手「Rest assured. I take this road every day.」
(安心してくれ。俺、この道毎日通ってっからw)
僕「毎日ぼったくってるの間違えやろ。」
(しばきてぇ。こいつマジで許せねぇ。)
運転手「(ニコニコ)」
(はいカモー。日本人が結局1番カモや。)
僕「Can't be helped to talk about money. Let's talk another story. Do you have a hobby?」
(金の話はやめよう。運ちゃん、趣味あるの?)
運転手「Paying soccer.」
(日本人をぼったくることだ。…じゃなくて、サッカーをやっているよ。)
僕「Oh! I also play soccer. But do you like to see it? I often go to see the J League. Chanathip is the best.」
(おお!まじ?サッカーって紳士のスポーツやで?ぼったくりがやってんのけ?…じゃなくて、僕もやってるよ!でも、見る方が好きかな。あっ、そうそう。チャナティップは僕が見てきた中で1番素晴らしい選手だよ!」
運転手「Do you know Chanathip!? He is my pride! He's a son! He's great!」
(えっ、待って話変わってきた。チャナティップ好きなん?ガチ!?彼は私の誇りだ!彼は私の息子だ!彼は素晴らしいね!!!」
僕「His dribbling is amazing! He feels like a gentleman. Has a friendly national character. No player like him is born in dry Japan.」
(彼のドリブルは素晴らしいよ!!そして何より、人間性!人間性が素晴らしい!!フレンドリーで誰とでもフラットに接することができる"タイ国民の"国民性だね。ドライな日本からは彼みたいな選手は出てこないよ。やべww言いすぎたwww)
運ちゃん「I'm really happy. Seems to be complimented on me!」
(嬉しいよ。自分のことを褒められているみたいだ!!誇らしいね!!はっはっは!!!)
僕「お前はぼったくりだけどな!」
(お前のために言ってんじゃボケェ!!)
運転手「what?」
(お前天丼かましてんじゃねぇよ。お笑い下手かよ。)
ピッ
その瞬間、突然メーターが先ほど消えた金額と同額で提示された。
運転手は申し訳なさそうな顔で、この金額で良いと言ってきた。
メーターが止まってからは約10分ほど、タイ郊外特有の高速道路のような一般道のようなよく分からない一本道を直走っていた。
僕は提示された金額を支払うと、チップとして1,000バーツほど支払った。
1,000バーツは日本円で約3,000円ちょっと。結局ぼったくられるより金を支払ってる気がするが、不思議と嫌な気はしなかった。
タクシーから降りる間際、日本人観光客への接し方を教えるためにこう伝えて降りた。
「日本人は真面目なので、親切にしていると良いことがありますよ。御恩と奉公って言ってね。」
あっ、日本語で言ってた。これ伝わってないわ。
って、これ何のnoteだっけ??
話を戻そう。
なんと、今季の外部補強は上記2名のみ。
そのほかの補強では法政大から松井蓮之、流経大から佐々木旭、桐蔭横浜大から早坂勇希、興国高校から永長鷹虎、そしてユースから五十嵐太陽。
補強の殆どがプロパーというメガバンクみたいな人事である。
もっとも、近年は守田英正に始まり三笘薫、旗手怜央と大卒で加入した選手が海外移籍をするチームとなった。
数年前までのチーム作りは「チーム☆可愛い子には旅をさせよ」的な感じで、自前で育て上げた三好康児や板倉滉を海外へと羽ばたかせ、チームの根幹は大卒プロパーの谷口彰悟や高卒プロパーの大島僚太で作り上げてきた。
しかしながら、ここ数年で若干その風潮が変わりつつある。
その成功体験を更にブラッシュアップさせるべく、多くの新卒選手を獲得したようにもみえる。
そういう意味では「継続」に見えて「転換」を求められているのがこの2022年シーズンなのかもしれない。
そんなところにも注目をして、この2022年シーズンを見ていこうと思う。
リーグ戦三連覇に向けて
最後に、Jリーグ三連覇を目指す今季の我が軍。
三連覇に挑むのは、今見てもダサいユニフ…もとい、個性的なユニフォームで挑んだ2019年シーズン以来である。
サッカーチームの新陳代謝は非常に活発なので、3シーズン前となれば当時在籍していた選手が誰も居ないなんてことはザラにある。
2019年シーズンはルヴァン杯を制して初のカップ戦タイトルを獲得したが、リーグ三連覇を期待されて挑んだシーズンとしては4位に終わってしまった年であった。
特に、ホーム最終戦でマリノス相手に4点カチ込まれたあの試合は今思い返しても気が重くなる。
それほどに、研究をされ尽くしたシーズンであった。
やることなすこと「全てがバレている」というような感覚であった。
2022年シーズンは、そんな"研究され尽くした"チームで勝つことを求められる。
もちろん、戦術というソフトのバージョンアップデートは繰り返すのだが、川崎フロンターレというハードが変わるわけではない。
奇しくも、開幕前の2年間の状況は2019年シーズンと類似している。
質で圧倒した2020年シーズン。
質で上回る試合は減ったが、それでも差分と個で競り勝ち続けた2021年シーズン。
そして、今季。
このチームの根幹を支えた、三笘薫、田中碧、そして旗手怜央がチームを去った。
上述したように、チームの根幹として育てるはずだった"大卒"の選手の海外挑戦がここ数年で増えた。
2017年から、辛抱強く育て上げた田中碧も海外挑戦を決めた。
チームとしてみれば大卒でも「ヨーロッパで挑戦がしたい」という高い志を持った選手が加入するのは良いことである。
しかしながら、それを時が待ってくれる訳ではない。
この、苦しくも楽しい、ワクワクした感情を僕は楽しみたいと思う。
最後になるが、シーズンオフになり選手やスタッフの人事が始まると僕はこんなことを思う。
Jリーガーが縁あって川崎フロンターレに加入する確率って、どのくらいなのだろう。
僕はサポーターという立場の元、川崎フロンターレを応援している。
川崎フロンターレを選んでくれた選手はみんな好きなのだが、これってどのくらいの確率なんだろうか。
ほぼほぼ「奇跡」に近い巡り合わせなのだろう。
この「奇跡」の元、選手を応援する環境があることに先ずは感謝をしたい。
そして同時に、こんなことも思う。
サポーターが、数あるサッカーチームから川崎フロンターレを好きになった確率ってどのくらいなんだろうか。
選手が川崎フロンターレと巡り合うのが「奇跡」的な確率とするならば、我々が川崎フロンターレと出会い、サポーターになる確率は実はもっと「奇跡」的な確率なのではなかろうか。
100人川崎フロンターレサポーターがいれば、100通りの出会い方がある。
その一つひとつが奇跡で、そんな奇跡と奇跡が合わさった時、スタジアムは言葉に出来ないようなエネルギーで包まれる。
そのアウトプットの方法が"声"でなくても同様であるということは、直近2シーズンで我々が学んだことである。
誰もひとりじゃない きっとどっかで繋がってて
この世界を動かす小さな歯車
誰もひとりじゃない だからどっかでぶつかって
この世界で藻掻く小さな そう小さな歯車
Mr.ChildrenのThe song of praise という歌。
この歌を聴いた時、僕の頭の中には等々力陸上競技場に足を運ぶサポーターの情景がブワッと浮かび上がってきた。
サポーターなんて聞こえをよくしているだけ。
我々は所詮"顧客"かもしれない。
我々がお金を落として、ゲームを観に行く。その収益はチームに入る。そうやってこのサッカーチームというビジネスは成り立っている。
我々は、チームからすれば"顧客"に過ぎないのかもしれない。
でも、きっと、どこかで我々の思いや願いはチームに届いていて、どこかでこのチームの歯車を動かしている。我々は、そう信じている。
我々はきっと顧客を超越した存在であると信じており、企業が辛い時も、キツい時もその"想い"を共有したい生き物なのである。
我々は、そうあるべきだと思っている。言わば、企業にとって顧客でありながらパートナーであると思っているのである。
我々の想いが、クラブにどれだけ届いているのか。
目に見えないことなので、それはわからない。
しかし、長年スタジアムに通っているとそう思わずにはいられない瞬間と何度も対面する。
等々力に集まったサポーターが作った空気が、選手に伝わり、その選手が奇跡を起こす。
勘違いかもしれない。それでも"もしかしたら"と思う瞬間に、何度も立ち会ってきた。
我々は、川崎フロンターレが勝ち続けてくれるに越したことはない。
我々は、川崎フロンターレが何個もタイトルを獲って、どんどんユニフォームの星を増やしてくれるに越したことはない。
でも、本当に幸せを感じる瞬間は本当に些細な瞬間だったりする。
スタジアムで見えた選手の笑顔。
なかなか出番の無かった選手が精一杯、泥臭く戦う姿。
ゴールを決めて、サポーターと喜びを分かち合う光景。
そう。我々は川崎フロンターレがそこに在り続けてくれること、それだけで心から幸せなのである。
だから今年も、大好きな、大好きな川崎フロンターレと共に歩めることに感謝を込めて。
今年も川崎フロンターレが存在していることに、最大限の感謝を込めて。
"非日常"的な瞬間に沢山立ち会える。そんな日々が再び始まることに、今はワクワクが止まらない。
これだからJリーグ観戦はやめられない。
これだから、川崎フロンターレサポーターはやめられない。
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