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第2部「資本蓄積論」第4章 資本蓄積のメカニズム

4.1 SNAにおける勘定連絡と会計恒等式

複式簿記(T型勘定)に組替えたSNAの構造、すなわちSNAの勘定体系と勘定連絡としての「恒等式の束」は、以下の通りである。

再掲【図表1】SNAの勘定体系と勘定連絡
再掲【図表2】主な会計恒等式
【図表3】国民経済計算体系(SNA)における勘定連絡と恒等式

SNA上、GDP(国内総生産)等のマクロ変数の金額は、他の全ての勘定科目との勘定連絡があってこそ、複式簿記の仕訳のロジック、すなわち会計恒等式(Accounting Identity)に従って決定される。一国経済全体のSNAの数字の背景を読み解き、マクロ変数とその変動、そして資本蓄積(ΔK)に関する原因と経路を徹底的に解明しなければならない。

ストック勘定

期首及び期末の資産・負債・純資産の残高(ストック)を表示するT型勘定。

[1-1] 期首貸借対照表

図表3では最上段にあるT型勘定。期首(2016年1月1日)時点での日本経済全体の総資産(金融資産+非金融資産)、負債、そして「国富」=資本ストックの残高を示す勘定。残高調整勘定(balancing item)は資本(国富)。

資産(期首)≡負債(期首)+[BI]資本(期首)

[1-2] 期末貸借対照表

図表3では最下段にあるT型勘定。期末(2016年12月31日)時点での日本経済全体の総資産(金融資産+非金融資産)、負債、そして「国富」=資本ストックの成長/縮小を示す勘定。残高調整勘定(balancing item)は資本(期首)+当期資本蓄積額(ΔK)。

資産(期末)≡負債(期末)+[BI]資本(期首)+[BI]当期資本蓄積額(ΔK)

特に、資本(国富)については、以下の恒等式が成立する。

[BI] 資本(国富)≡非金融資産+対外純資産

フロー勘定

一期間中の取引高(フロー)を表示するT型勘定。上記1-1.期首貸借対照表から1-2.期末貸借対照表に至る一期間中の財・サービスとお金の動きを複式仕訳で記録する。

[2] 国内総生産勘定(損益勘定)

一会計期間中(図表3の場合は2016年1月1日から12月31日までの1年間)に日本国内の取引で動いた財・サービスとお金のフローを示す勘定。ここでGDPを測定する。

2.国内総生産勘定は、売手の供給側の損益勘定として、貸方に総需要(売上高)、借方に中間投入(売上原価)が記録・表示される。その差額が残高調整勘定(balancing item)としてのGDP(国内総生産)である。GDP(国内総生産)とは、一国経済全体で1会計期間中に生み出された売上総利益(粗利)といえる。

恒等式① [BI]GDP(国内総生産)≡総需要-中間投入

他方、買手の需要側から見れば、1会計期間中に生産された財・サービスの売買取引における支払の総額が総需要(売上高)ということとなる。

2.国内総生産勘定の借方においては、各生産要素に対するGDP(国内総生産)の分配として、固定資本減耗[1]、雇用者報酬[2]、営業余剰・混合所得[3]、間接税-補助金が記録・表示される。

[3] 所得支出勘定

GDPから国民所得(Y)を計算する勘定(貸方:右側)。その上で、国民所得(Y)の挙動、すなわち国民所得(Y)がどう使われて(最終消費支出[C])、いくら残ったか(貯蓄[S])を示す勘定(借方:左側)。また、国民の間での所得の移転として政府の財政活動(税収・社会保険料等の歳入及び政府最終消費支出等の歳出)を示す。

恒等式② [BI]GDP(国内総生産)-固定資本減耗+外国からの経常収入(純)≡[BI]国民所得(Y)

恒等式③ [BI]国民所得(Y)-最終消費支出(C)≡ [BI]貯蓄(S)

恒等式②の残高調整勘定(balancing item)は国民所得(Y)である。恒等式③の残高調整勘定(balancing item)は貯蓄(S)である。

フローをストックに変換する勘定

貯蓄(S)フローを資本(K)ストックに変換する4.資本勘定。マネーストックを含む金融資産・負債の一期間中の変動額を記録する5.金融勘定。

[4] 資本勘定

国民所得(Y)内での貯蓄(S)の挙動、すなわち投資(I':純固定資本形成)に支出されることによって、貯蓄フローが資本(国富)ストックに変換されるプロセスを示す勘定。貸借差額は純貸付(+)/純借入(-)=貯蓄投資差額となる。

恒等式④ [BI] 純貸付(+)/純借入(-)+純固定資本形成(I')≡[BI]貯蓄(S)+海外からの資本移転等(純)

【資本勘定の貸方】
恒等式④a [BI]実体的資本蓄積(ΔKs)≡[BI]貯蓄(S)+海外からの資本移転等(純)

恒等式④aの残高調整勘定(balancing item)は実体的資本蓄積(ΔKs)である。

【資本勘定の借方及び貸方】
恒等式④b [BI] 純貸付(+)/純借入(-)+純固定資本形成(I')≡実体的資本蓄積(ΔKs)

恒等式④bの残高調整勘定(balancing item)は純貸付(+)/純借入(-)である。なお、旧来の貯蓄投資差額=純貸付(+)/純借入(-)である。

【資本勘定、国内総生産勘定及び所得支出勘定】
恒等式⑦ 投資の変動(ΔI)≡ [BI]投資財を売った側の所得の変動(ΔYi)≡ [BI]社会全体の貯蓄の変動(ΔS)

恒等式⑦の残高調整勘定(balancing item)は投資財を売った側の所得の変動(ΔYi)と 社会全体の貯蓄の変動(ΔS)である。

恒等式⑦から投資貯蓄恒等定理「投資(I')自体がそれと同額の貯蓄(S≒資本蓄積ΔK)を生み出す(Investment creates its own saving)」が導かれる。

恒等式⑧ [BI] 純貸付(+)/純借入(-)≡経常収支+資本移転等収支

恒等式⑧の残高調整勘定(balancing item)は純貸付(+)/純借入(-)である。

[5] 金融勘定

純貸付(+)/純借入(-)(=貯蓄投資差額)と連動する対外資産と対外負債の変動を示す勘定。同時に、マネーストック(M)、貸付金等、金融派生商品を含む国内金融資産と国内負債の変動を示す。

恒等式⑥ 銀行システムの金融資産(投融資)の変動≡マネーストックの変動(ΔM)

恒等式⑥がマネーストックの変動メカニズムである。

恒等式⑨ 対外資産の変動≡[BI] 純貸付(+)/純借入(-)+対外負債の変動

恒等式⑨の残高調整勘定(balancing item)は資金過不足(=貯蓄投資差額)である。

キャッシュ・フローを伴わないストック変動を記録する勘定

[6] 調整勘定

6.調整勘定は、金利(割引率)を加味して日本国内の資産・負債を再評価することにより、キャッシュ・フローを伴わない「国富」=資本ストックの変動を計算する勘定である。

再評価による資本蓄積(ΔKv)は、マネーストック(M)の介在なくして、6.調整勘定において資産・負債を公正価値(fair value)で再評価した結果が反映される。従って、再評価による資本蓄積(ΔKv)は、付加価値生産サイクルとは無関係である。

SNAの「用語解説」(内閣府)によれば、再評価勘定(Revaluation Accounts)について、以下の説明がなされている。『再評価勘定は、調整勘定の内訳の一つであり、会計期間中の資産等(資産、負債、正味資産)の変化のうち、資本勘定や金融勘定、その他の資産量変動勘定では記録されない、価格変動の要因による変化分を記録する勘定である。再評価額は「名目保有利得または損失」とも呼ばれ、いわゆるキャピタルゲイン/ロス[4]の価格を示す。』

従って、再評価による資本蓄積(ΔKv)は、上記「非金融資産の再評価差額」と「金融資産の再評価差額」の合計額から「負債の再評価差額」を控除した金額が計上されることとなる。

恒等式⑤ [BI]再評価による資本蓄積(ΔKv)≡(非金融資産の再評価差額+金融資産の再評価差額)-負債の再評価差額

恒等式⑤の残高調整勘定(balancing item)は再評価による資本蓄積(ΔKv)である。

4.2 資本蓄積を記述する5本の会計恒等式

本稿では、一国経済全体の「資本」、すなわち国富を表す記号としてキャピタルの「K」を用いる。なお、一般に「資本」という概念は、多義的に用いられる場合が多い。例えば、資本、労働、土地という3つの生産要素を全て「資本」と呼ぶ場合もあるが、会計学を基礎とする本稿では、まず、このうち人的資本とされる労働は除外した上で、生産手段としての「生産資産(produced assets)」、そして土地等の「非生産資産(non-produced assets)」の総額を「実体資産(real assets)」として一国経済全体の貸借対照表上の借方に計上する。同時に、「資本(国富)」については、会計恒等式に従い、一国経済全体の貸借対照表上の貸方に上記「実体資産(real assets)」及び対外純資産の合計金額で計上することとなる。

そして、一期間中の資本(K)の変動額である「資本蓄積(capital accumulation)」には、差分を示す「Δ」を付して「ΔK」という記号を用いる。

以下では、僅か5本の会計恒等式で一国経済全体の資本蓄積(ΔK)が記述可能であることを示す。

①GDP(国内総生産)

SNAの2.国内総生産勘定(GDP accounts)は、国内における一期間中の取引で動いた財・サービスとマネーのフローを示す勘定である。企業会計では、損益計算書において「粗利(売上総利益)=売上高-売上原価(仕入等)」という恒等式が成立する。この恒等式の左辺に計上される「粗利(売上総利益)」が「付加価値(value added)」である。

GDP(国内総生産)とは、国内で一期間中に生産された付加価値の総額である。そして、SNAの2.国内総生産勘定上、貸方の「総需要(=総供給)」は国内における一期間中の売上高に相当し、また借方の「中間投入」は同じく国内における同期間中の売上原価に相当する。従って、資本蓄積(ΔK)に至る付加価値生産サイクルの出発点として、恒等式①が成立する。

恒等式① [BI]GDP(国内総生産)≡総需要-中間投入

②国民所得(Y)

次に、SNAの3.所得支出勘定(income and outlay accounts)は、財源の調達(source of funds)として貸方(右側)でGDP(国内総生産)から固定資本減耗を控除して「国民所得(Y)」を計算する。同時に、財源の使途(use of funds)として借方(左側)でその国民所得(Y)からの「最終消費支出(C)」を控除することにより、その残余(residual)である「貯蓄(S)」を計算する勘定である。なお、本稿では、国民所得を表す記号として「Y(Yield)」、貯蓄を表す記号としての「S(Saving)」を用いる。

従って、SNAの3.所得支出勘定の貸方(右側)において、国民所得(Y)を計算する恒等式②が成立する。

恒等式② [BI]国民所得(Y)≡[BI]GDP(国内総生産)-固定資本減耗+外国からの経常収入(純)

ここで、恒等式②の右辺にある「固定資本減耗」とは、企業会計における減価償却費に相当する。具体的には、『建物、構築物、機械設備、知的財産生産物等からなる固定資産について、これを所有する生産者の生産活動の中で、物的劣化、陳腐化、通常の破損・損傷、予見される滅失、通常生じる程度の事故による損害等から生じる減耗分の評価額を指す』(内閣府、SNA「用語解説」)。

国民所得(Y)を計算する過程において、GDP(国内総生産)から固定資本減耗を控除することにより、まずNDP(Net Domestic Products: 国内純生産)を計算する。NDP(国内純生産)に関する恒等式は、以下の通りである。

[BI]NDP(国内純生産)≡[BI]GDP(国内総生産)-固定資本減耗

そして、NDP(国内純生産)に「外国からの経常収入(純)」を加算することにより、国民所得(Y)が計算される。ここで「外国からの経常収入(純)」とは、SNA上、3.所得支出勘定の「海外からの雇用者報酬(純)」、「海外からの財産所得(純)」及び「海外からのその他の経常移転(純)」の合計を意味する。SNAの3.所得支出勘定において、以下の恒等式が成立している。

[BI]外国からの経常収入(純)≡海外からの雇用者報酬(純)+海外からの財産所得(純)+海外からのその他の経常移転(純)

加えて、SNAの2.国内総生産勘定において、「[BI]貿易収支=(財貨・サービスの)輸出-輸入」が計算されるので、これに「外国からの経常収入(純)」を加算することにより、経常収支に関する下記恒等式が得られる。
[BI]経常収支≡[BI]貿易収支(輸出-輸入)+外国からの経常収入(純)

③貯蓄(S)

恒等式②において国民所得(Y)が計算された後、SNAの3.所得支出勘定の借方(左側)において国民所得(Y)の使途としての「最終消費支出(C: Consumption)」を控除することにより、その残余(residual)である「貯蓄(S)」を計算する恒等式③が成立する。なお、ここでの貯蓄(S)は、厳密に言えば、国民所得(Y)と同様、固定資本減耗(減価償却費)控除後の「貯蓄(純)」であることに留意されたい。

恒等式③ [BI]貯蓄(S)≡[BI]国民所得(Y)-最終消費支出(C)

ここで、恒等式③の右辺にある最終消費支出(C)は、SNAの2.国内総生産勘定の貸方(右側)に計上される最終消費支出(C)と同額である。消費財・サービスの売手から見れば、2.国内総生産勘定の貸方(右側)に計上される最終消費支出(C)は売上高(総需要)になると同時に、その消費財・サービスの買手から見れば、3.所得支出勘定の借方(左側)に計上される最終消費支出(C)であるから、勘定は違えど貸借同額で計上されるのである。

④実体的資本蓄積(ΔKs)

いよいよここで資本蓄積(ΔK)を具体的な金額で計算する会計恒等式が登場する。上記の付加価値生産サイクルから生み出された貯蓄(S)フローが資本(K)ストックへ変換される概念的なプロセスは以下の通りである。

貯蓄(S)→実体資産(real assets)への投資支出(capital expenditure)=純固定資本形成(I': Investment[net])→資本蓄積(ΔK: capital formation)

より具体的に貯蓄(S)フローから資本(K)ストックへの変換プロセスを見てみよう。実は、資本蓄積(ΔK)は2種類に分かれる。一つは、SNA上、2.国内総生産勘定→3.所得支出勘定という付加価値生産サイクルを経由して4.資本勘定で記録・表示される「実体的資本蓄積(ΔKs)」である。もう一つは、6.調整勘定で記録・表示される資産・負債の「再評価による資本蓄積(ΔKv)」である。

SNAの4.資本勘定の貸方で記録・表示される「実体的資本蓄積(ΔKs)」は、SNA上は単に「正味資産の変動」という科目名で表示されるが、本稿では、貸借対照上、借方側の「実体資産(real assets)」と区別するため、代わりに「実体的(substantial)」という文言を付け加える。なぜなら、付加価値生産サイクルを経由する「実体的(substantial)」な取引によって生み出された実物的(リアル)な資本蓄積(ΔK)という意味を込めたからである。そこで、資本蓄積(ΔK)に「実体的(substantial)」の頭文字の小文字「s」を加えて「ΔKs」と表記することとする。なお、実体的資本蓄積(ΔKs)は、付加価値生産サイクルを経由する過程で財・サービスの取引の決済が発生するので、一旦は必ず銀行預金としてマネーストック(M)の形態をとるのが特徴である。

実体的資本蓄積(ΔKs)は、SNAの6資本勘定の貸方(右側)において、以下の恒等式④により計算される。

恒等式④ [BI]実体的資本蓄積(ΔKs)≡[BI]貯蓄(S)+海外からの資本移転等(純)

恒等式④を見てわかるように、実体的資本蓄積(ΔKs)は、貯蓄(S)に「海外からの資本移転等(純)」を加算した金額となる。「海外からの資本移転等(純)」とは、国際収支統計上、「資本移転等収支」と呼ばれるが、実際には、政府の無償資金協力や民間部門の相続・遺贈に伴う資産の移転、外国政府への相続税・贈与税の支払等、毎年マイナス数千億円程度の規模しかない。従って、実体的資本蓄積(ΔKs)は、ほぼ貯蓄(S)に連動するものといえる。

⑤再評価による資本蓄積(ΔKv)

他方、SNAの6.調整勘定で記録・表示される資産・負債の「再評価による資本蓄積(ΔKv)」は、SNA上、「再評価による正味資産の変動」という科目名で表示される。従って、資本蓄積(ΔK)に「評価(valuation)」の頭文字の小文字「v」を加えて「ΔKv」と表記することとする。なお、この再評価による資本蓄積(ΔKv)の場合、マネーストック(M)を媒介とする取引を経由しない点で実体的資本蓄積(ΔKs)とは異なる。

再評価による資本蓄積(ΔKv)は、SNAの6調整勘定において資産・負債を公正価値(fair value)で再評価した結果を反映し、以下の恒等式⑤により計算される。

恒等式⑤ [BI]再評価による資本蓄積(ΔKv)≡(非金融資産の再評価差額+金融資産の再評価差額)-負債の再評価差額

SNAの6.調整勘定の借方(左側)に計上される「非金融資産の再評価差額」と「金融資産の再評価差額」は、資産価格の「キャピタルゲイン/ロス」を記録・表示する。ここで、資産価格の「キャピタルゲイン/ロス」とは、資産価格の公正価値(いわゆる時価)と取得原価(historical cost)との差額を意味する。

他方、6.調整勘定の貸方(右側)に計上される「負債の再評価差額」は、債権者による明示的な債権放棄や銀行の不良債権処理(引当処理または最終処理)が実施されない限り、変動することはない。[5]

従って、再評価による資本蓄積(ΔKv)は、上記「非金融資産の再評価差額」と「金融資産の再評価差額」の合計額から「負債の再評価差額」を控除した金額が計上されることとなる。

4.3 実体的資本蓄積による国民所得の拡大再生産

資本の拡大再生産プロセス

こうして貯蓄(S)フローから資本(K)ストックへの変換プロセスを複式簿記の仕訳のロジックで具体的な金額で算定した後、翌期(t+1期)の期首資本(国富)ストック(Kt+1=Kt+ΔKt)、すなわち{当期首資本(国富)ストック(Kt)+当期(t期)の実体的資本蓄積(ΔKst)}に当期(t期)のβt(資本/所得比率)[6]の逆数を乗ずると、拡大再生産による翌期の国民所得(Yt+1)が算定される。[7]

翌期(t+1期)の国民所得(Yt+1)=翌期首資本(国富)ストック(Kt+ΔKst)/βt
={当期首資本(国富)ストック(Kt)+当期(t期)の実体的資本蓄積(ΔKst)} /βt
Kt:t期首の資本、ΔKst:t期の実体的資本蓄積、Yt:t期の国民所得、βt:t期の資本/所得比率

【図表4】付加価値生産サイクルにおける「国民所得方程式」

資本の拡大再生産による「国民所得方程式(National Income Equation)」

特に、翌期の国民所得(Yt+1)=(Kt+ΔKst)/βtという方程式により、付加価値生産サイクルを経て蓄積された当期末資本(国富)ストック(Kt+ΔKst)が翌期に生み出す国民所得(Yt+1)の拡大再生産を具体的な数値で予測することができる。本稿では、これを資本の拡大再生産による「国民所得方程式(National Income Equation)」と呼ぶ。

こうして付加価値生産サイクルにおいて、フロー変数であるGDP(国内総生産)→国民所得(Yt)→貯蓄(St)が資本ストック(Kt+ΔKst)に変換された後、翌期の国民所得(Yt+1)=(Kt+ΔKst)/βtに至る拡大再生産の全てのプロセスについて、SNA上の会計恒等式(Accounting Identity)と共に、この「国民所得方程式」を組み合わせるにより、具体的に測定可能(observable)な金額で表すことが可能となる。但し、実際には、6.調整勘定における当期(t期)の再評価による資本蓄積(ΔKvt)、具体的には資産価格のキャピタルゲイン/ロスも翌期首の資本(国富)ストック(Kt+1=Kt+ΔKst+ΔKvt)に影響を与えるので、その点にも留意が必要である。


[1] 固定資本減耗(Consumption of Fixed Capital):固定資本減耗は、建物、構築物、機械設備、知的財産生産物等からなる固定資産について、これを所有する生産者の生産活動の中で、物的劣化、陳腐化、通常の破損・損傷、予見される滅失、通常生じる程度の事故による損害等から生じる減耗分の評価額を指す。他方、大災害による滅失のように予見し得ない固定資産の毀損額については、固定資本減耗には含まれず、「調整勘定」の「その他の資産量変動」として記録される。固定資本減耗は、企業会計における減価償却費が簿価で記録されるのとは異なり、全て時価(再調達価格)で評価される。具体的には、固定資産ごとに、対応する資本財別の期中平均デフレーターを用いて評価されている。(内閣府, SNA「用語解説」)
[2] 雇用者報酬(Compensation of Employees):雇用者報酬は、生産活動から発生した付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配額を指すもので、第1次所得の配分勘定では、家計部門の受取にのみ計上される。雇用者とは、市場生産者・非市場生産者を問わず生産活動に従事する就業者のうち、個人事業主と無給の家族従業者を除く全ての者であり、法人企業の役員、特別職の公務員、議員等も含まれる。雇用者報酬は、内訳として、「賃金・俸給」と「雇主の社会負担」に分かれ、後者はさらに「雇主の現実社会負担」と「雇主の帰属社会負担」に分かれる。(内閣府, SNA「用語解説」)
[3] 営業余剰・混合所得(Operating Surplus and Mixed Income):営業余剰・混合所得は、生産活動から発生した付加価値のうち、資本を提供した企業部門の貢献分を指すもので、制度部門としては、非金融法人企業、金融機関及び家計の3つの部門にのみ発生する。生産に使用した固定資産から発生する固定資本減耗を含む場合は(総)、含まれない場合は(純)として表記される。一般政府と対家計民間非営利団体は非市場生産者であり、定義上その産出額を生産費用の合計として計測していることから、営業余剰・混合所得(純)は存在しない。ただし、一国経済の所得支出勘定の営業余剰(総)には、一般政府や対家計民間非営利団体の固定資本減耗分が含まれる。営業余剰・混合所得(純)は、大きく営業余剰(純)と混合所得(純)に分けられる。営業余剰(純)は、生産活動への貢献分として、法人企業部門(非金融法人企業と金融機関)の取り分を含むとともに、家計部門のうち持ち家分の取り分も含む。一方、「混合所得」は、家計部門のうち持ち家を除く個人企業の取り分であり、その中に事業主等の労働報酬的要素を含むことから、「営業余剰」と区別して「混合所得」として記録される。(内閣府, SNA「用語解説」)
[4] 資産価格の「キャピタルゲイン/ロス」とは、資産価格の公正価値(いわゆる時価)と取得原価(historical cost)との差額を意味する。資産価格の公正価値(いわゆる時価)の測定方法には、当該リスク資産の生み出す将来キャッシュ・フローを金利(割引率)で割り戻すことによって計算する割引現在価値法、時価法(市場価格法)等がある。SNAでは、主として資本市場等における市場価格が用いられている。
[5] SNA(ストック編統合勘定)上、「株式」は、形式的に「負債」に含まれている。従って、SNA(ストック編統合勘定)上、債権放棄や銀行の不良債権処理(引当処理または最終処理)の他、「株式」の価格変動によって「負債の再評価差額」が大きく変動することもあり得る。
[6] ピケティが著書「21世紀の資本」の中で最初に持ち出す数式が「資本/所得比率」である。ピケティは、「資本/所得比率」をギリシャ文字の「β」(ベータ)で表す(2014, p.54)。
β=資本/所得比率=資本(K)/国民所得(Y)=K/Y
[7] 本来の定義からすればYt+1=Kt+1/ t+1=(Kt+ΔKst)/ t+1であるが、分母の t+1については、t+1期の国民所得(Yt+1)を導出する上で t+1= Kt+1/ Yt+1という循環計算を避けるため、t期の t(= Kt/ Yt)を用いることで近似的にYt+1=Kt+1/ t=(Kt+ΔKst)/ tとしている。

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