見出し画像

聞こえすぎるけど、聞こえない

 このタイトルを聞いて、読者のみなさんは「なんのこっちゃ?」と思うだろう。

 このタイトルの由来は、僕が「聴覚過敏かつ音嫌悪症であり、APD(聴覚情報処理障害)」 であるからだ。

 まず第一の「聴覚過敏」は、僕の個人的な実感かもしれないけど、音嫌悪症とAPDよりは、発達障害が知られるようになったおかげで、世間の認知があるように思う。掃除機やキーボードのタイピング音。子供の騒ぎ声などの生活音に過敏に反応してしまうことである。

 僕の場合は、ライブや掃除機の音は平気だが、パソコンのキーボードのタイピング音。他人の大声での会話、打ち上げ花火の音を聞くと、音がガラス片となって、耳の中に入り、耳の中と脳をぐさぐさと刺されるような感覚に見舞われる。

 聴覚過敏は、生まれつきの特性もあれば、大きなストレスが原因で、音に対して過敏になる人もいる。僕の場合、後者である。その原因は兄と関係あると思う。

 僕には年子の兄がいるが、兄との関係は険悪なものであった。実家にいた頃は、僕が普通にしゃべっていただけで、包丁を突き付けられた。僕が十代から実家を出るまで、兄は僕に対して、とあるルールを強制した。
 それは「23時前に寝なければいけない」というものであった。もし、僕が23時以降も起きていると、兄は床にドン!と拳を叩きつけたり、その辺の物を金づちで叩き壊した。兄は深夜4時に寝て、朝10時に起きていた。23時以降、兄はテレビにイヤホンをつけて観ていた。僕が23時以降まで起きていた日の翌朝、イヤホンを外すと耳をつんざくような大音量に設定した時もあった。
 これが原因で、僕は花火大会が楽しめなくなった。

 次の「音嫌悪症」について説明すると「聴覚過敏」は、あらゆる生活音を過剰に拾いやすい特性である。一方、「音嫌悪症」は「特定の物音に対して、怒りや不安を感じる」特性である。

 僕の場合、嫌いな声がある。例えば、甲高いキーンとした女性の声である。その他にパソコンのキーボードの大きなタイピング音。他人の会話と笑い声などである。
 他人がたてる物音を聞くと、どうしようもない怒りがこみあげてきて、その音を立てた張本人の頭を、ビール瓶で勝ち割ってやりたい気持ちに駆られる。それゆえに僕は酒が好きだが、居酒屋には滅多に行かない。自宅で呑む方が、静かに落ち着いて酒を味わえるからだ。

 僕なりの音嫌悪症の対策としては「音楽を聴く」「耳栓をする」「その場から一旦離れる」ぐらいしかない。しかし、場所によって、できるできない事もあるから、実に困ったものである。

 最後にAPD(聴覚情報処理障害。以下APD)について書こう。
 APDとは聴覚に異常はないが、耳から入った情報を処理する能力が弱い障害である。

 APDの特徴として以下のものがある。

・相手が言った言葉をすぐ忘れる。
・口頭で言われた事を理解しづらい。
・電話口で相手の声が聞き取りづらい。
・相手の話が長いと、自分に対して相手が何を伝えたいのか、分からなくなる。
などの症状がある。

 僕が初めて、APDについて知ったのは、ネットニュースでAPDを取り上げられていた記事を見つけた時である。その記事を読んで、(これ、自分に当てはまるなあ……)と納得した。

 それまでは、買い物する時にレジ係の人が言った言葉を聞き漏らす事がよくあった。
 例えば、惣菜を買った時にレジ係の人が言う「お箸つけますか?」「レジ袋いりますか?」などの言葉を聞き取れず、困惑した事がしょっちゅうあった。

 耳からの情報を受け取る能力が弱い事は、二十代前半の頃、精神病院に入院した時、心理テストを受けたからだ。退院後しばらくして、テストの結果を臨床心理士に聞かされた時に指摘された。その心理士のアドバイスとしては、「メモをとる事」と言われた。

 そして、自分なりの対策として、相手の言葉を聞き取れなかった時は「もう一度、言って下さい」と頼んでいる。
 二つ目は言われた事を忘れないように、その場でメモをとっている。
 三つ目は、相手にわーっと、一気に話されると話の内容が理解できないので、「段階的に区切って、話してもらう」ように頼んでいる。
 一気に話してもらうではなく、小説のように章立てて、区切ってもらうのだ。

 話は変わるが、子どもの頃、ある映画が学年誌で紹介されたのを読んだ事がある。
 その映画は、音楽以外の音が聞こえない少女が主人公であった。そして、周りの人達は、少女に何か伝えたい時には、自分の言葉を歌にして、伝えるという物語である。
 僕はその主人公に憧れた。音楽しか聞こえない人間になりたいと本気で思った。そうすれば、兄からの暴言や悪口、兄がキレて暴れた時の物音が聞こえなくなり、大好きな音楽だけしか聞こえなくなるからだ。もし、この映画のタイトルを知っている人がいたら、教えてほしい。たしか、二十数年前の洋画である。

 聴覚過敏も音嫌悪症もAPDも、僕が知る限りでは、治療法はない。生きていく上で工夫するしかない。他人の協力も必要な時もある。でも、それは他の障害や病気でも、同じことが言える。

 何はともあれ、僕はこの敏感すぎて鈍感な耳と、今日を生きている。


よろしければサポートお願いしますm(_ _)m ゲイ術活動費(執筆活動、LGBTQ’s関連活動など)として使わさせていただきます。