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【3万字座談会】夜職サミット2024『困難女性支援法の施行前夜に考える「歌舞伎町の路上売春」』〜坂本新(NPO法人レスキュー・ハブ理事長)×鈴木涼美(作家)〜

*本記事は、2024年1月14日に東京・新宿歌舞伎町で開催されたNPO法人風テラス主催『夜職サミット2024』の対談内容を記事化(当日の対談内容文字起こしを一部加筆修正)したものです。


サミットの開催趣旨

困難女性支援法の施行前夜に考える「歌舞伎町の路上売春」

夜職サミットは、風俗や水商売など、いわゆる「夜の世界」で起こっている様々な問題を議論するトークイベントです。

今回のテーマは、『困難女性支援法の施行前夜に考える「歌舞伎町の路上売春」』です。

今年4月、様々な困難を抱えて社会の中で孤立・困窮している女性を支援するための法律=困難女性支援法が施行されます。路上売春の世界は、まさに「困難女性」が集まる空間になっていますが、当事者や支援者の声、及びこの世界を取り巻く様々な社会課題については、まだ十分に可視化・言語化されているとは言えない状況です。

そこで、歌舞伎町の路上売春の現場で日々女性たちの支援を行っているNPO法人レスキュー・ハブ代表の坂本新さん、夜の世界を「生き場所」とする女性たちの蠱惑 こわくと渇望を描いた小説『トラディション』を上梓された作家の鈴木涼美さんをお招きし、巨大歓楽街の路上に立つ女性たちの現状や背景にある課題について、徹底的に語りました。

ゲストのプロフィール

◆坂本新(さかもと・あらた)さん

坂本新さん

NPO 法人レスキュー・ハブ理事長。

大学卒業後、民間警備会社に就職。中南米、ロシア等の日本大使館にて警備・防諜業務に10 年間従事。2013 年に国際NGO に転職、2020 年4 月より現職。繁華街でのアウトリーチを通し、困難を抱える夜職従事者に直接支援を提供している。

2023 年11 月に刊行された『ルポ 歌舞伎町の路上売春 それでも「立ちんぼ」を続ける彼女たち』(春増翔太・ちくま新書)で活動が取り上げられている。

◆鈴木涼美(すずき・すずみ)さん

鈴木涼美さん

1983 年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了。

小説『ギフテッド』が第167 回芥川賞候補、『グレイスレス』が第168 回芥川賞候補。

著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』、『往復書簡 限界から始まる』(共著)、『娼婦の本棚』、『「AV 女優」の社会学 増補新版』、『浮き身』などがある。

ホストクラブの受付で働く「私」、ホストにハマる幼なじみなど、夜の世界を「生き場所」とする彼女らの蠱惑と渇望を描く小説『トラディション』を昨年12 月8 日に刊行。

第一部 ゲスト座談会「新宿歌舞伎町・路上売春の現在」


主なトークテーマ

1.ゲストの自己紹介~歌舞伎町と関わるようになった経緯・動機

2.支援者の立場から見た「新宿歌舞伎町・路上売春の現在」(坂本さん)

  • どのような女性たちが、どのような目的・経緯で路上に立つのか

  • なぜ、風俗でもアプリでもなく、「路上」なのか?

  • この一年間の「ホスト売掛」「路上売春」に関するメディアでの報道、法規制をめぐる議論、警察や行政の動きに対して感じたこと・・・etc

3.作家の立場からみた「夜の世界を生き場所とする女性たちの蠱惑と渇望」(鈴木さん)

  • ホストクラブの店内に窓と鏡がない理由

  • 「推しに貢げないと生きている価値がない」という価値観に囚われれる背景、ホストとの関係、「わかりやすい」ファッションの意味

  • この一年間の「ホスト売掛」「路上売春」に関するメディアでの報道、法規制をめぐる議論、警察や行政の動きに対して感じたこと・・・etc

4.支援者の立場から見た「歌舞伎町の路上売春」の背景にある社会課題(坂本さん)

  • 彼女たちの生育歴、社会的養護との関係、つなぎ支援の難しさ、「取締りから立ち直り支援へ」の現状と課題

  • 行政・警察との連携、女性支援と炎上をめぐる問題など・・・etc

5.ホストクラブ、そして歌舞伎町という場に依存する彼女たちの抱える課題(鈴木さん)

  • 「被害者」でも「多重債務者」でも「売春婦」でもない、「姫」として生きる

  • 「姫」たちが「箱」と「沼」を求める理由

  • 承認欲求と競争意識、推しカルチャーの功罪、金銭感覚の狂い、売春に伴う感覚変容・男性に対する意識の変化など

  • 持てる者・持たざる者の両者にとって「フェアな場所」「居心地のいい場所」「どのような形であれ、自分が必要とされる=需要のある場所」としての歌舞伎町

  • 「借金や売掛でしか他者とつながれない」「売掛があるから頑張れる」問題、昼職への復帰の難しさ、閉じた人間関係、社会との接点の欠如など

  • なぜ今、(昔から存在していた)「ホスト」「売掛」がここまで問題化されるようになったのか・・・etc

6.2024 年4 月の困難女性支援法の施行を控えて、私たちにできること(お二人に)

  • ホストの売掛問題の着地点を考える・・・ホスト個人と店との関係、売掛の上限規制の是非、ホストとして働く若年男性への支援の必要性など

  • 現場での被害や不幸を減らしていくために必要な支援・制度とは

  • 夜の世界に生き場所(居心地の良さや公正さ、救い)を見出す女性たちにどう寄り添うか

  • メディア・報道に求められること・・・etc


和やかな雰囲気で座談会スタート

坂爪 まずお二方から、自己紹介と、歌舞伎町というこの場所に関わるようになった経緯をお伺いできればと思います。

坂本 元々民間の警備会社で働いておりました。22歳で就職し、20年弱働いていたんですが、そのうちの10年、中南米とロシアと中国の大使館で、セキュリティオフィサーとして働いていました。

途上国をあちこち回る中で、路上売春等で生計を立てる女性と子どもが周囲に非常に多くいた。それは地域を越えて、出張で南米諸国を回った時もそうですし、ロシアのモスクワにいた時も、出稼ぎで集まってきた女性が、夜の職業に従事していた。

そういったものを見て、何かできることがないかなということを考え始めたのがきっかけになります。

日本に戻ってきて、40歳を超えて、残りの人生、もう少し広く世の中のためにできることはないかと考えて、転職をして、今に至っている次第です。

鈴木 私はもうここ10年ぐらいは専業の物書きで、その前は新聞社にいました。

新宿歌舞伎町は、本の中ですごく書くことが多くて。さっきご紹介いただいた『トラディション』も、特に歌舞伎町の課題に向き合った小説ではないんですが、歌舞伎町の路上売春の女の子たちも、ホストに通う女の子たちも、私の愛する風景として出てくる。

歌舞伎町は、私の若い頃の稼いでた場所でもあり、住んでた場所でもあり、遊んでた場所でもあって、とても好きなんです。

ホストクラブにしろ、歌舞伎町そのものにしろ、 異常な場所だとは思ってるので。憎しみもあり、愛もあり、という感じで、私は見ていて。

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