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月刊風テラス(2022年8月号)~夜の世界ではたらくNPO理事長の月報~

こんにちは。NPO法人風テラス理事長の坂爪真吾です。

夏の終わり、皆様はいかがお過ごしでしょうか。我が家は先週から子ども経由で一家全員コロナ陽性になってしまい、隔離生活の真っ最中です。

5分おきにきょうだいげんかを繰り返す&奇声を発して走り回る小学生男子✕2と10日間、狭い空間で一緒に過ごすという苦行の日々で、気が滅入りそうです。

隔離が明けたらパーッと一人で焼肉&趣味の虫採りに行きたい・・・と願っているのですが、その前に、まずは隔離中に溜まった仕事を粛々とこなしたいと思います(涙)。

それでは、今月の月報をお届けします。

1.【現場の課題】男性嫌悪と女性嫌悪


風俗の世界で働くことのリスクには、性感染症や性暴力、盗撮や身バレ、ネットの誹謗中傷や金銭感覚のズレなど、様々なものがあります。

その中で、比較的注目されることが少ないけれども深刻なリスクの一つとして、「異性嫌悪」が挙げられます。

異性に対する嫌悪や憎悪が止まらなくなる、あるいは異性を全く信じられなくなる、という状態です。

風俗の世界に携わっていると、男性であれば女性に対する嫌悪、女性であれば男性に対する嫌悪が、知らず知らずのうちに心の奥に蓄積されてしまうことが少なくありません。

風俗の世界に関わっていると、普通の人生を送っていればなかなか接する機会のないような、男性/女性の醜さを凝縮したような場面に触れてしまう機会が増えます。

風テラスの相談現場でも、女性にしつこくつきまとったり、嫌がらせを繰り返す、いわゆる「クソ客」からのLINEのスクショを大量に読むことが毎日の日課の一つになっていますが、こうした男性客の中には、ストーカーやDV夫と同様、救いがたい認知の歪みに囚われた人がたくさんいます。「頭の中が被害者意識で充満している加害者」のような人たちです。

また風俗は、男性にとって自らの欲求をストレートに発散できる場であり、妻や恋人には見せられない性癖を解放できる場でもあります。

どんな女性でも、10~20代前半の若いうちから、パンツと一緒に世間体や社会性を脱ぎ捨てた中年男性の欲望むき出しの振る舞いを見せ続けられていれば、男性に対する期待や幻想が完全に蒸発してしまう可能性があります。

一方、風俗の世界は、女性たちが、稼ぐために、生き延びるため、あらゆる手段を使って、自らの時間を高値で売ろうとする世界です。

「夜飛ぶ蝶は嘘の花」という歌詞があるように、夜の世界では、名前も年齢も経歴も過去もスリーサイズも、全ては業務用の設定であり、演出です。

そうした女性の設定や演出を真に受けて大金を注ぎ込み、後から「騙された!」「裏切られた!」「もう女性が信じられない!」と悲嘆に暮れる男性は少なくありません。

またメンタルが不安定な女性に振り回され、攻撃され、貸したお金を返してもらえないまま飛ばれた結果、女性不信になってしまった男性の店長や内勤スタッフも、数え切れないほどいるはずです。

風俗の世界で働いている時間が長ければ長いほど、異性嫌悪に陥る可能性は高まっていきます。そして、一度異性嫌悪になってしまったら、下手をすると一生治らない。

同じ問題は、支援者の側にも当てはまります。風俗の世界にかかわる支援者の側もまた、男性嫌悪、あるいは女性嫌悪に陥ってしまうリスクにさらされています。

女性支援団体の関係者の中にも、SNS上で男性嫌悪を超えた「男性憎悪」とも言えるような主張や投稿を繰り返している人たちが一定数いますが、その背景には、支援の現場で「男の負の部分」を嫌になるほど見続けてしまったから、ということも影響しているのだと思います。

それでは、支援の現場で目撃した「男の醜い姿」「女の醜い姿」を一般化して、「男はみんなクソだ!」「女はみんなゴミだ!」とSNSや相談現場で叫ぶことは、正しいのでしょうか。答えは、もちろんNOです。

相談支援の現場では、支援者が特定の価値観や信念に囚われていたら、適切な支援ができなくなってしまいます。

風俗や売春を含めて、制度の狭間に落ちてしまう支援困難な人たちが集まる領域であればあるほど、支援者の側にも、特定の強い政治的信念(イデオロギー)や、宗教的な信念を持った人たちが集まる傾向があります。

もちろん、それが良い方向に作用する時もありますが、多くの場合、自分たちの価値観を当事者に押し付けたり、あるいは当事者の声を自分たちの政治的信念を喧伝するための道具として利用してしまうなど、望ましくない結果を招いてしまうことが多いです。主語を拡大し、戦わなくてもいい相手と死闘を繰り広げて、不毛な炎上を巻き起こし、貴重な時間と資源を浪費してしまう。

かつて、売春の世界で働く女性の支援は、キリスト教を始めとした、宗教的な動機を持った人たちによって行われてきました。

しかし、風俗で働く女性の人口が43万人超(おそらく過去最大)にまで膨れ上がっている今、一部の宗教的な信念を持った人だけでは、支援の手は全く足りません。特定個人の尋常ならざる情熱だけでも、支援は長続きしない。

特定の宗教を信仰していなくても、特定の政治的信念(イデオロギー)を信奉していなくても、過剰な情熱や動機を持っていなくても、普通の人たちが普通に関われる仕組み、それによって日々の支援や活動がきちんと動いていく仕組みを作っていく必要がある。

そのためには、関わった人たちが異性嫌悪に陥らないための安全装置が必要です。

1つ目の安全装置は、「年齢・性別・世代・職業を超えて、色々な人が活動に関わること」です。

女性だけ、高齢者だけ、特定の宗教や政治的思想の信者だけ、といったように、構成員の属性が偏ってしまうと、活動自体も偏ってしまいます。関わる人たちの多様性を確保することが、支援団体が嫌悪や憎悪の発信源にならないための、最大の安全装置になります。

2つ目の安全装置は、「現場で感じたことを、皆で話し合える場があること」です。

支援には、モヤモヤやイライラがつきものです。こうやって偉そうに書いている私自身も、毎日のようにモヤモヤ&イライラしていますが(笑)、そういった気持ちを一人で抱え込んだり、SNSで感情的な言葉に変換して発信したりせずに、信頼できる仲間同士で話し合うことが大切です。

自分の経験や感情、価値観を言語化・相対化する場があることで、偏った解釈をしてしまったり、固定観念の罠に陥ってしまうことを避けることができる。

今年7月からスタートした「女の子たちの60分フリー」は、風俗で働く女性たちの自助グループですが、そこにかかわるスタッフも、トークの中で自己開示をすることがあります。

風俗で働いている・いないにかかわらず、日々の仕事の中で感じたことを口に出して言語化することは、とても大切なことです。

うまく言語化できない領域や感情を放置しておくと、必ずそこから問題が発生します。

こうした安全装置の仕組みを整備することによって、風テラスも、嫌悪や憎悪に囚われずに、普通の人たちが普通に関われるNPO、それによって日々の支援や活動がきちんと動いていくNPOにしていきたいと考えています。

2.【イベント登壇+メディア掲載】

9月4日(日)10時~17時、五泉市のラポルテ五泉で開催される「にいがたSDGs・フードバンクシンポジウム」に登壇いたします!

「コロナ禍における女性の社会的孤独・孤立」というテーマで講演をさせて頂く予定です。

国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生を始め、豪華ゲスト陣の中で私だけ小物感が半端ないのですが、当日は肩で風を切って&小物オーラをまき散らしながら会場を闊歩したいと思います。

また昨年に引き続き、今年も新潟県内の風俗店を、食料支援で巡回する予定です。昨年実施したことでわかった現状と課題についても、シンポジウムの場でご報告できればと考えております。

フードバンクとSDGS、そして女性の貧困を巡る諸問題に関心のある方、五泉市をはじめ、お近くにお住いの皆様、ぜひお越し頂けると嬉しいです!

また『住民と自治』(2022年9月号:自治体問題研究所)に、コロナ禍における風テラスの活動現場の様子を寄稿しました。全国の自治体職員・研究者の方、ぜひご覧ください!

3.【実施報告】女の子たちの60分フリー

7月からスタートした、風俗で働く女性の自助グループ「女の子たちの60分フリー」、これまでに3回実施いたしました。

運営・企画は、すべて風テラスのスタッフ&インターンの女子チームで行っております。(いつもありがとうございます)

最初はズームでのグループトークを想定していたのですが、ズームを使い慣れていない方が多いということで、3回目からはLINEのグループ通話を使用してのトークに切り替えました。

まだまだ走り出したばかりのプロジェクトですが、個人的には、将来の参加人数、現在の毎月のオンライン相談会の相談者数よりも多くなるのでは・・・と期待しております。

試行錯誤をしながら、風俗で働く女性の方々にとっての居場所の一つになれるよう、「女の子たちの60分フリー」を育てていきたいと思いますので、ご関心のある方、ぜひご参加頂けるとありがたいです。次回は9月15日(木)の予定です。

運営スタッフとして参加したい、という方も大歓迎です。以下のインターン・社会人ボランティア募集要項をお読みの上、お申し込みください。

4.【チームづくり+目標】ソーシャルワーカーの相談受付スタッフを、もう一名増やす!


風テラスの日常業務+相談受付業務、私+スタッフ+インターンのチームで行っているのですが、数多のNPOと同様、恒常的な人手不足状態であります(汗)。

理事長の私がいつまでも現場に張り付いているわけにもいかないので、相談受付の場で、ソーシャルワーカーのスタッフとしてお手伝いしてくださる方を1名、新規で募集いたします。完全リモート業務で、週2~3日から勤務可能です。全国どこからでもご応募OKです。

「我こそは」と思われた方は、以下のページよりお申し込みください!

5.【寄付者の方へ】秋の活動報告会を開催します


毎月の継続寄付、9月30日(金)までに、150名を目標に支援者の方を募集しております。目標達成まで、カウントダウンです!

そして、引き続き食品のご寄付も承っております。風テラスの「Amazonほしいものリスト」からも、直接食品をご寄付いただくことが可能です。優先度の高い=必要性の高いものからご寄付頂けると、非常に助かります。

そして9月30日(金)20時~21時、「ふ~サポ」=風テラスに寄付をしてくださった方限定のオンラインイベント=活動報告会を開催いたします!

風テラスに寄せられた2022年度上半期の相談データを振り返り、性風俗の世界の現状と課題を確認した上で、下半期の風テラスの活動目標、そしてこれからの夜の世界の課題解決のあり方について、私が熱く語ります。

「ふ~サポ」の皆さまを始め、これまで風テラスにご寄付をしてくださった方であれば、どなたでも無料でご参加頂けます。

ぜひ、多くの方にご参加頂けるとありがたいです。

⇒参加申し込みはこちら

助成金については、来週選考のヒアリングがあるので、審査を通過できるように頑張ります・・・!

それでは、次の1ヶ月も、引き続き風テラスへのご支援・ご声援を頂けるとありがたいです!

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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