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不安で動くな。危機感で動け。(夜の世界と社会をつなぐNPO理事長の月報:2023年11月号)

こんにちは、NPO法人風テラス理事長の坂爪です。

11月頭の三連休、家族で新潟・魚沼~湯沢~群馬に旅行に行ってきました。記事のTOP画像は魚沼の八海山です。麓で食べた魚沼産コシヒカリ(釜炊き)が美味しかったです。

秋の風俗業界閑散期に、休眠預金活用事業で開始したSNS広告の効果が重なったこともあり、10月の相談件数は623件と、過去2番目に高い数字になりました。

⇒10月の活動報告はこちら

SNS広告を開始して、全国から寄せられる多くのご相談に対応している中、そして同じように休眠預金活用事業で若年層の支援に取り組まれている他のNPOの方々とお話している中で、理事長として色々な意味で「危機感」を覚える場面が増えてきたので、この月報でシェアしたいと思います。

1.これまでの強みが強みでなくなる時代に

風テラスの相談者は20代~30代が中心で、10代の相談は比較的少なかったのですが、SNS広告を開始して以降、10代の相談がかなり増えました。

2010年代後半にJKビジネスが話題になっていた頃から、風テラスでは「10代の層にアプローチするためには、どうすればいいのか」ということを考えて、派遣型リフレ店やメイドカフェの求人サイトに冊子やチラシを置いてもらう、池袋に外待機(=ファミレスや漫喫などで待機すること)の女性が集える空間を作るなど、あれこれ試行錯誤をしていました。(詳しくは以下の新書に記載しております)

今回、「広告を出す」という極めてシンプルな方法で10代にリーチできることが実感でき、嬉しい反面、「今までの苦労は何だったんだ」と拍子抜けしております。

かつて、風俗や売春の世界で働く女性たちは、「相談しない」「見えない」「つながりづらい」存在であり、風俗店の待機部屋訪問や繁華街の夜回りなど、特殊なアウトリーチをしないと出会えない、と考えられていました。風テラスの出発点も、「弁護士とソーシャルワーカーの相談員が、待機部屋に直接出向いて相談会を行う」というスタイルでした。

しかし、日々の活動や相談支援を続けていく中で、そうした認識は必ずしも正しくない、ということが明らかになってきました。

店舗訪問や夜回りをしなくても、彼女たちが頻繁に閲覧しているSNSに広告を出せば、かなりの規模・人数にリーチできる。風俗専門の特殊な媒体でなくても、一般的に使われているSNSや検索広告への出稿だけで、かなりの数にリーチできることが分かりました。

そして、「誰かに話したい」「相談したい」という人もたくさんおり、適切な機会と場所、そして広告の表現が噛み合えば、相談自体はひっきりなしに来る、ということも分かりました。

もちろん、実際に「相談しない」「見えない」「つながりづらい」層はまだまだ一定数存在しますが、時代と社会の変化、そしてテクノロジーの発展によって、「つながりづらいと考えられてきた層につながる」こと自体のハードルは、子ども・障害・高齢を含めて、どの領域でも、かなり下がっていると思います。

そうなると、「つながる」こと自体は、もはや強みにならなくなってくるはずです。適切な場所に適切な広告を出せば、どの団体でも一定数の相談を集めることができる、という状況になれば、相談件数自体はあまり重要な指標ではなくなる。

悪徳な業者がネット広告で大量集客している、という事例はいくらでもあります。相談者が集まっている=その事業者が質の高いサービスを提供している、ということにはならない。

つまり、これまでの風テラスの強みであった「(他の団体や支援者がつながれていないであろう)風俗や売春の世界で働く女性たちとつながれる」ということは、これからは強みにならなくなる可能性がある、ということです。

次の課題は「つながった後」=相談を受けた後に、ご本人の困りごとを解消できるような支援を行う、地域の公的支援や民間のNPOなどの連携先を増やして確実に社会資源につなぐ、当事者が集えるコミュニティを用意する、といった部分に力を入れていく必要があります。

先月号の「連携は難しい。しかし、連携しないと未来はない」とつながる話になりますが、来年度以降は「つながった後」の支援を充実させていく方向で、事業計画や予算を練っていければと考えております。

2.相談員に求められる知識やスキルがどんどん上がっている

風テラスの事業開始当初は、弁護士と社会福祉士の資格を持った弁護士さんたちが相談員として参加してくださりました。

法律の知識と福祉の知識、両方がないと理解も対処もできないご相談が多く、司法と福祉、両方の資格を持っている相談員の皆様は、ドラクエの上級職(戦士✕魔法使い=魔法剣士、武闘家✕僧侶=パラディンなど)のように、とても頼もしく見えました。「今の時代は、一つの専門分野だけでは不十分なんだな・・・」「難儀な時代だな」と思った記憶があります。

時が進んで、現在は、法律と福祉の知識に加えて「SNS相談のスキル(テキストベースでの回答作成の技術)」と「風俗業界に関する知識と情報」も求められる状況になっています。

つまり、風テラスの相談員として、アセスメント(主訴の聞き取り)や対面相談の業務を行う場合、「法律の知識」「福祉制度の知識」「SNS相談のスキル」「風俗業界に関する知識と情報」の4つが必要になっています。上級職どころの話ではないですね。。。

当たり前の話ですが、「ちょっと風俗業界に詳しい」とか「昔、お店で働いたことがあります」というレベルの経験や知識は、支援の現場では全く役に立ちません。

「弁護士と社会福祉士の資格を持っている人」は一定数いますが、この4つを最初から持ち合わせている人はもはやどこにもいないので、組織としてきちんと採用~育成する仕組みを作っていく必要があります。

相談件数の増加に伴い、寄せられるご相談の質量も変化しています。そして制度や法律もどんどん変化していきます。制度や法律が変わるきっかけになるような事件や出来事も、日々起こっています。

相談員側に求められる知識やスキルも、今後どんどん増えていくと思うので、そうした時代の流れについて行けるよう、組織として常に最新の動向や情報を学び続けながら、確実にアップデートをしていかねば・・・と感じております。

3.NPOに求められる社会的責任のハードルが年々上がっている

これは、NPOの経営者であれば、もれなく全員ひしひしと感じていることだと思いますが、NPOに求められる社会的責任の質量が年々増している。行政や企業と同じ、あるいはそれ以上の基準に従って活動しなければならない場面が増えていると思います。

組織として、ソーシャルセクターとして、きちんと社会的な責任を果たすという面では良いことだとは思いますが、ハードルをクリアできなければ退場するしかない(そもそも参加自体ができない)というシビアな世界になっているな、とも感じます。

長期的に見れば、ガバナンスがうまく機能していない団体、組織として一定の規模に達しない・一定水準以上の活動実績を出すことのできない団体は軒並み淘汰されて、少数の大手しか生き残れない世界になってしまう、というか、既にそうなりつつある気がします。

コロナ禍で全国のNPOが痛感したことは、「ほとんどの社会課題は、もはや一つのNPOが頑張ってどうにかなるレベルではない」ということだったと思います。さらに言えば、「NPOが、行政や財団から数百万~数千万の助成金をもらって、単年度で行う活動」で解決できる社会課題は、ほとんどない。

複数の団体で連携しながら長期的に取り組む、もしくは助成金頼みではなく、寄付金や自主事業収入を増やしながら、持続可能な事業の仕組みを作っていくなどの戦略が必要になります。

先人のNPOが開拓してくれたルートやノウハウがあるので、やるべきことをやるべき時期にきちんと実施していけば、決して不可能なことではないと思いますが、言うは易し、行うは難しで、すべての団体が、そうした当たり前のことを当たり前にできるNPOになれるとは限らない。

増加する相談件数に対して、相談者の方々の不安を解消し、問題解決や自立につながるための適切な支援をし続けていくためにも、そしてNPOとしての社会的責任をきちんと果たせる組織にしていくためにも、「どうしよう」「どうしたら」といった不安ベースで右往左往するのではなく、将来を見据えて健全な危機感を持ちながら、優先順位を付けてどんどんタスクを片付けていきたいと思います。

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