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【ニンジャスレイヤーDIY小説】グルメ・オブ・ロンリネス(ぶたじるvsとんじる)

※コレはウォーカラウンド・ネオサイタマ・ソウルフウードに着想を得た、エーリアス=サンがご飯を食べるだけの二次創作です。

最近見つけたお味噌汁の店がめちゃうま最高だったので書きました。寒い季節にはあったかい汁もの。
深く考えずに読むんだ、いいね。

◆◆◆

一見カフェみたいな内装の店だが、コーヒーではなく味噌汁の香りがする。表の看板にも確かに「味噌汁」と書いてあったが、なぜ味噌汁屋の天井を吹き抜けにする必要があるのだろうか?俺にはわからない。しかし、店内で戸惑っているのは俺一人だ。ほかの客も店員も、これが普通だという顔で配膳したり食事したり、談笑している。

「お決まりでしたらお伺いします!」

入り口でキョロキョロしていたら、カウンター越しに店員と目が合った。

「アッ、えーとぉ……」

何にも決まっていないが、このまま入り口に突っ立ってても仕方ないので、のろのろとカウンターへ向かう。先に注文を済ませてから席をとるあたりも、やっぱりコーヒースタンドめいていた。

「どれになさいますか?」
「あー……、じゃあ豚汁(とんじる)を、この満腹セットってやつで」
「大きめ野菜の満足豚汁(ぶたじる)、満腹セットですね」

どうやらこの店において、豚汁は“とんじる”ではなく“ぶたじる”らしい。注文を復唱しながらさりげない訂正をされて、俺はのどの奥でグゥと唸った。よくよく見ればメニューの漢字にも“ぶたじる”とルビがふってあって、気付けなかった悔しさを噛み締める。

「おにぎりは白米か玄米をお選びいただけます」
「んじゃ、白米と玄米を1個ずつ」
「かしこまりました。お食事と一緒に自家製ジンジャーエールはいかがですか?」
「いや、豚汁(ぶたじる)のセットだけで充分だ」

今度はちゃんと、この店の作法にのっとって“ぶたじる”と言う。そう。俺は臨機応変なのだ。そのまま会計を済ませて、番号札を受け取ると店の奥へ進む。壁沿いに並んでいる一人掛けのこじんまりとしたテーブル席に座ると、やっと人心地が付いた。

こういう、女性客が多くておしゃれな感じの店は、なんとなく不釣り合いな気がして落ち着かない。見た目はどっからどう見ても女の子なんだし、俺ももっと堂々とできりゃいいんだが、慣れないものは慣れない。それに、いつまでもこの身体に厄介になるワケにもいかないから、慣れちまうのも問題がある。いや、まぁ、未だに元の身体に戻る手がかりは見つかる気配もないんだけどさ……。ダメだ……。現状を直視するとどんどん気分が落ち込んでいく……。

「お待たせしました」

先行きの見えない不安を断ち切ったのは、店員の声と出来立ての豚汁だった。丼ものでも入っていそうな巨大な蓋つきの汁椀に、おにぎりと小鉢、漬物、サービスのお茶がお盆トレーの上で狭苦しそうに並んでいる。

そっとお椀の蓋を開けると、合わせ味噌と出汁の香りが湯気と一緒に立ちのぼった。お腹が空いていたことを思い出させるこの香りの前では、いつまでもうだうだと悩んでいられない。俺は箸を手に取ると、一番目立つごろりとしたサツマイモを持ち上げる。スープに隠れて全体が見えない状態でも存在感があったのに、持ち上げると大判焼きくらいの直径と厚みがあった。こんなに分厚いのに、しっかりと火が通っていて、味噌の味にも負けない甘みがある。

その次に、豚肉。大きめなのは野菜だけじゃない。これまた角煮めいたサイズだ。ずっしり重くて柔らかく、豚汁の主役にふさわしい。俺は巨大な肉の塊を半分だけかじると、玄米のおにぎりを頬張った。コレだ。肉とコメ。脂質と糖質の組み合わせが脳内でスパークする。ケミカル・ウマミとは違った、本能が知っているオーセンティックなうま味だ。俺は夢中で食べ進めた。添えられている漬物の歯ごたえも心地よかった。

豚汁の中には他にも、ゴボウやダイコン、ニンジン、コンニャクがどれも見たことのないサイズで入っていた。俺の知ってる豚汁だと、どれも短冊切りとか銀杏切りとかで入ってる具材だが、こうして大きめに切ってあるだけで、どれもメインのおかずみたいな食べ応えがあって楽しい。小鉢のマッシュポテトも、なんだかわからないが、和風の味付けになっていて旨かった。

具材とコメとをすっかり平らげた後、俺はテーブルのサイドに備え付けられている一味スパイスと柚子胡椒ペーストに気付いた。チクショウ、まただ!また見逃した!……いや、待て。まだスープは残っている。だったら、まだ戦えるハズだ……!俺は柚子胡椒ペーストをスープの中に溶かして、それから汁椀を抱えてスープを飲んだ。やっぱり。柚子の香りが加わることで、豚の脂が溶けているスープと思えないぐらい品の良い味わいに変化する。後味のピリリとした辛さも、丁度いい。

「ゴチソウサマ!」

食べ終えた頃には、俺はすっかり満足していて、悩みごとについても頭を切り替えることができた。焦ったところで、どうにもならないことはあるのだ。寒い時と腹が減った時の考え事はたいていロクなことにならない。とりあえず、衣食住と仕事さえあれば、生きてはいけるのだ。早いとこ、コッチでの生活を安定させて、豪華とは言わずとも一日三食、それなりの食事がとれるようになろう。

「手っ取り早く、住み込みのバイトでも探すかなぁ……」

これは多分なんらかの活力となるでしょう。