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【ニンジャスレイヤーDIY小説】グルメ・オブ・ロンリネス(ハカタ出張編その2)

※コレはウォーカラウンド・ネオサイタマ・ソウルフウードに着想を得た、ハカタが舞台のエーリアス=サンの食べ歩き二次創作です。

エーリアス=サンにゴボ天ウドンを食べてもらったら、次はひらおに行って欲しいなという思いが暴走して書いた。
深く考えずに読むんだ、いいね。

◆◆◆

俺はまたしても券売機の前に立っていた。因縁の対決再び。ぎっしりと並ぶメニュー名。その右下に少し余白を開けて存在している「保冷バッグ」のボタンは一体何者なのか。テンプラに保冷バッグ??ダメだここで気を取られてはいけない。幸い、券売機の上にはデカデカとしたメニュー写真が掲示されている。

「テンプラ定食」「バイオ・アナゴ定食」「オーガニック・野菜定食」「バイオ・チキン天定食」「あじわい定食」ズラリと並んだ写真から、俺はバイオ・アナゴ定食に狙いをつけた。素子をスロットに放り込み、平たいボタンをプッシュする。

ストコココピロペペー。電子音とともに、取り出し口にチケットがぺなりと落ちた。手に取ると、中央にある分割用の点線に気づく。このタイプのチケットは切り離しちまうと取り返しがつかない気がして、なんだか落ち着かない。

チケットを片手に店内へ進むと、厨房をコの字にぐるりと囲むカウンター。中には人を丸揚げにできそうな巨大なフライヤーが二台。そして5人ほどのイタマエが忙しそうに動き回っている。そのフォーメーションには一切の無駄がない。ワザマエ!

「イラッシャイマセェー!こちらドーゾ!」カウンター越しにサムエスーツのイタマエが威勢よく呼びかける。席につきながらチケットを手渡すと、ふたつに切り取られ、プラスチックのコインとともに半券を戻された。「お水、セルフです」イタマエはそう言うと、もう半分のチケットを手に、中央のフライヤーの方に向かって行った。

「まずコメとミソ・スープね」洗練されたオペレーションでメニューが提供される。さらに、目の前にすりおろされたダイコンが盛られたテンツユと、空のバットが追加された。そう、バットは空だ。俺のテンプラは?驚いてこっそり周りを見回すと、同じく空のバットを前にコメを食べているサラリマンたち。よくわからないがコレが正解なのか?

よく見れば、思い思いに小皿へ惣菜を盛っている。どうやら、目の前に備え付けられた容器の中身は自由に食べていいらしい。カボチャの煮付けにモヤシのナムル、そしてコレは……イカのゲソ?俺はネオサイタマの居酒屋で食べたタコワサを思い出した。限りなく近い見た目。確かにコメにも合うような味だった気がする。

俺は無造作に積まれた小皿をひとつ手に取り、イカのゲソをいくらか取り出した。おどろおどろしい見た目だが、試しにひと口食べてみる。柚子の爽やかな風味とコリコリとした歯触り。そして海の香りと塩気。濃厚な旨味。コレは……コメが無性に欲しくなる味わいだ!!実際、コメが止まらない。

周りのサラリマンたちも、イカのゲソとコメを無心にかっこんでいる。テンプラ屋に来たというのに、奇妙な光景だ。「アナゴ、オマチ!」唐突に、空のバットへ、イタマエが揚げたてのアナゴを置いて、そして去っていく。なるほど、フライヤーで調理した揚げたてが空のバットに次々と提供される訳か!

眼前に横たわる揚げたてのアナゴのテンプラは、未だに小さくジリジリと音を立てている。コメとイカのゲソでいくらか空腹がマシになっていたはずだが、それでも喉がゴクリとなった。中央からふたつに割ると、湯気が立ち上る。凶悪なほどの熱さだ。

半分に割ったアナゴのテンプラを、ダイコンたっぷりのツユに浸す。それから、火傷しないように慎重に頬張った。コレも美味い!噛めば噛むほど、ふわっふわのアナゴがほどける。続けてコメを頬張れば揚げ物と炭水化物の組み合わせで、脳に多幸感が訪れる。

もう半分のアナゴのテンプラには、塩をかけた。ツユに浸さない分、衣のさっくり感が感じられる。柔らかなアナゴの身と対照的な食感。塩のおかげで、旨味が濃く感じられた。あぁ。コレはちょっと、美味すぎる。

「アイヨ!ササミオマチ!」アナゴを食べ終わるやいなや、さらに追加のテンプラがやってくる。こんな、まさか、常に揚げたてが食べられるってのか?!やばいぞ。こんなテンプラの食べ方をしたら、もう戻れなくなっちまいそうだ。

俺はササミに備え付けのカレー塩をかける。スパイスの香りが立ち上った。頬張れば、ジャンクフードめいた風味。コレもまた、雰囲気が変わって美味い。お上品なテンプラというより、本当に空腹に効く味だ。

「アイヨ!ピーマン!」「サツマイモ!」「ナス!」都度、気の利いたタイミングで揚げたてのテンプラがやってくる。その度に、ザクザクと音を立ててテンプラを頬張り、コメをかっこむ。そして、油でコッテリした口を洗い流すようにミソ・スープ。あぁ、この構えは磐石すぎる……!!

食べ終わる頃には、すっかり満腹だった。こう、なんというか、胃だけじゃなく精神的にも満たされるようなテンプラだ。揚げたての茄子があんなにも美味いなんて知らなかったぞ、俺は。

「「アリガトゴサイマシター!!」」「ごっそーさまでした!ンまかったぜ!」帰り際、壁際の張り紙に気がつく。「お土産にイカの塩辛」「冷凍でお渡し」「自然解凍ですぐ美味しい」なるほど、券売機にあった保冷バッグはコイツのためだったのか。確かにコメじゃなくてサケにも合うし、一瞬土産にしようかとも思ったが、距離が遠すぎるので俺はすぐに諦めた。

何より、こういう食べ物はその場のアトモスフィアも大事だ。この店、いつかネオサイタマにも進出しねぇかな……。そしたら俺は間違いなく通う。なんならフジキド=サンを誘ってみてもいい。そん時はお土産にこのイカの塩辛を買って帰って、そいつをツマミにサケを飲むんだ。この前見た、泥酔して玄関で眠る姿をまた見られるかもしれない。そう思うと、俺は愉快な気持ちになった。

これは多分なんらかの活力となるでしょう。