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3億円調達のHandiiは地獄のピボット期をいかにして乗り越えたのか?

皆さんこんにちは。藤原です。この度、スタートアップへの取材記事をスタートすることにしました。その記念すべき第1回目のスタートアップは企業の法人カード決済に関する問題を解決しているHandiiです。

Handiiは最近、ニッセイキャピタルとCoral Capitalから3億円を調達した気鋭のFinTechスタートアップで、僕がベンチャーキャピタリストだった時の投資先でもあります。彼らに、特にシード期の資金調達において取り組んでいたことや当時体験した大幅なピボットについてお話を伺うことができましたので紹介します。Handiiはいいぞ。

この記事の登場人物

藤原弘之(質問内容を太字で記載)
Handii CEO 柳志明氏(下記写真左)
Handii CTO 森雄祐氏(下記写真右)

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序章

柳さん森さん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。
柳「お久しぶりですね。」
森「確かにご無沙汰ですね。よろしくお願いします。」

第1回ということもあって、せっかくなんでHandiiとして気持ちよい話題というか、話したいこととかあればそれにしようかなと思ってるんですが。
柳「僕ら実はピボットしているので、その辺の話は結構リアルにできますよ。スタートアップが何か記事になるときって良い話題しか出ないので、悪かったときの記事とか、もっとあった方が良いと思うんです。」

とは言えピボットって特にシードのキャピタリストだったら、そこまで悪いことって認識ないですけどね。僕がキャピタリストだったときの担当先にも結構ありましたし。
柳「いや、起業家がピボットって怖いとか恥ずかしいことだと思っている節があって、それは問題だと思っていて。どれくらい一般的なことなのかとか誰も知らないですし。」
森「確かに。うまくいってるスタートアップて、そういうダメだった時代の話ってあまり出てこないですもんね。」
柳「お世話になってる伊東さん(注:ニッセイキャピタルのベンチャーキャピタリスト。Handii担当)の上司の方の言葉でよく覚えているのが『すぐピボットする奴は嫌いだ。いったんは粘れ。粘って粘って、それでも最終的にピボットする奴は好き』みたいな。」
森「判断難しいんだけどね。」
柳「ピボットって、やった僕からすると精神的に超難しいんで。どういう気持ちでやったら良いのかとか、やや精神論ですけどね、参考になればよいかかなと。」

良いですねそれ。他に話したいことありますか?
柳「あと、シードファイナンスって結局どうやるんだっけ?というのも結構重要な話題だと思っていて。シードの時の動き方って実際どうするの?って話ですよね。ミドル・レイターはまぁ良いんですよ。調達が進むと結構向こうから話が来たりしますし。」

今回の3億円調達のニュースが出た後、結構コンタクトあったりしました?
森「ありましたね。VCさんからもちらほらコンタクトがあったり。」
柳「それもちょっと不思議だなと思うところですね。調達する前からちゃんと相手してくださいよって気持ちはあります(笑)」

まぁファンドによって気持ち良いステージとかありますからね
柳「それはそうなんでしょうけど、プロダクトがないシード期のスタートアップって、VCの人たちどうやって見極めてるんだろうって、こっちサイドとしてはめちゃくちゃ気になりますね。だからVCに取材してその辺り聞いて欲しいです。」

創業時の活動

さて、そもそもなんで起業しようと思ったんですか?
柳「僕は投資銀行時代に日本の電機メーカを担当していたんですが、当時、東芝もシャープも調子が良くなくて、何かひとつの産業がなくなりそうだという危機感がすごいあったんです。これから産業を創っていかないと自分がお爺ちゃんになったときに日本は大変だぞというのがあって。」

初めからこのpaildをやろうと決めて?
柳「いえ、2017年8月に会社を立ち上げて、その時はやることは決まっていなかったですね。」
森「そうそう。2人で『何やる?』って言って。」

それで当初はどういうビジネスにしたんですか?
柳「初めは僕ら、筋トレアプリやってたんです。」

え?じゃぁ定款に決済ビジネスが書いてあったのってたまたま?
柳「思いつく限りのものを適当に書きまくって創業したので。今のpaildのサービスが定款に入ってたのは本当にたまたまですね。」

凄い偶然。話を戻して、2017年末にニッセイキャピタルの50Mに採択されるわけですが、50Mに採択される前のシード期はいろんなアクセラレーターに筋トレアプリでアプライしたりしました?
柳「いえ、アプライしまくったりはしてなかったですね。そこで何で50Mかというと、おカネをちゃんと出してくれそうだと思ったからです。先立つものがないと成長していかないので。日本って、ちゃんと最後にはおカネを付けてくれるアクセラレーションプログラムって実は結構少ないじゃないですか。」
森「結局何してくれるんだろう?みたいな。」
柳「それで50Mの説明会に行ってみたら、永井さんが『俺が飲みに行きたいと思う人を採用する』って言っていて(笑)。普通もうちょっと格好いい理由付けってありますよね。何か面白いところだなって感じで応募しました。前職の投資銀行にもないようなノリだったので斬新だったというか。」

資料出して面接とかは結構すんなりいった感じでした?
森「いや、全然。MVPどころか資料とかもまだなかったもんね。」
柳「そう。まずはパワポのマスター作成からね。さすがに真っ白のところに書いたら悪いかなって思って、まずマスターを作ろうって。あと、面接は朝10時からだったんですが、ちゃんと根性出してるっていうのを見せるために前日夜中の2時半頃送信したりとか。」

姑息なアピール(笑) 他に何か戦略とかあったんですか?
柳「森とも話して、俺たち何もないからさ、笑いくらいは取ろうよって。」
森「そうだったね。ウケに行こうって。」
柳「真面目にやっても僕ら何もないから印象に残らないというのもあるし、50Mの説明会で『飲みに行きたい人を採る』てヒントを言ってくれていたので、僕らはそれを愚直にやった感じです。」
森「オラーッ!筋トレだーっ!!ていうピッチでしたね」

ウケたのかそれ(笑)

ピボットを決断するまで

アクセラレータープログラム中にpaildがうまれた?
柳「いえ、最後まで筋トレアプリです。僕ら2018年5月のデモデイまで筋トレアプリでやりきりましたからね。」

でも僕と会ったときはもうpaildでしたよね?
柳「はい、藤原さんにピッチしたのは2018年の8月初旬で、確か数週間くらいで出資を決めていただいたんですが、そのときはもうpaildでした。5月のデモデイから実質2ヶ月で僕らpaildにたどり着きましたから。」

そう聞くと結構順調にピボットできたように見えますね
森「いや〜、結構精神的にキツかったですよ。もう参ってましたね。」
柳「俺センスないかも・・・ってずっと悩んでましたし。」

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およそ半年にもおよぶ50Mのプログラムを筋トレアプリでやりきったのに、そもそも何でピボットしようと?
柳「最後のデモデイでピッチしている最中に『何かこれ違うな』って。」

いやいやいや、もっと何かあるでしょう?TAMが小さいとか、想定した速度でスケールしないとか、必要な人が集められないとか、参入障壁が思ったより高いとか
柳「いや、人に話しているときの感覚って、超大事なんですよ。だからデモデイでピッチしながら、『何かこれ違うな』って。」

違わないって!(笑)

精神的に追い込まれたピボット期

森「それで柳がデモデイの夜の打ち上げで、深夜だったんで僕はいなかったんですが、その場にいた投資家に『うちらピボットします』って言っちゃてたんで。勝手に。」

え?じゃぁ森さんには翌日に?
柳「そう。森には『俺もうピボットするって言っちゃったんで、お前には自由があるし、これからどうする?』て聞いて。そしたら森もピボットしたいと思ってたって。」
森「そこから先は精神的に地獄でしたよね。色んなビジネスプランを2人で出し合っては、やっぱ無理だよってなって。コーヒーのプランとか。」

コーヒーというのは?
森「この人がコーヒー好きなんで、コーヒーを売ろうみたいな(笑)」
柳「いや、あの頃は本当に自分センスないなって思っていましたよ。やっぱりいちばん辛かったのは、僕がお世話になった恩人に『柳なら出資してやるから早く新しいビジネスプラン持って来いよ』って言われてたのに、それを全然持っていけなかったことですね。ほぼおカネ出すよって言ってくれているようなものなのに、その恩人に対して自信を持ったビジネスプランをなかなか持っていけないというのが何ともやりきれなくて。」
森「もう僕ら精神的にかなり参ってたので、お互いがお互いのビジネスプランを徹底的にdisり合うみたいな状態が1ヶ月くらい続いたと思いますね。」

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その状態はかなりきついですね。どうやって打開したんですか?
森「それが、ある日『この案だ!』みたいな瞬間があったんです。今思えばなんですけど、お互いdisり合ってた中でも、注意深く観察というか、相手のビジネスプランの雰囲気をお互いちゃんと検討し合ってたんですね。精神的にはもうダメダメで、『あ、またこいつこんなこと言ってるわ』みたいな感じなんですけど、その中にも、何かキラリと光る瞬間というか、雰囲気が変わったのが瞬間的にあって。その瞬間を見逃さずに感じることができたのが大きかったですね。」

それ、ロジックで説明できない感じで何か良いですね。その奇跡の瞬間に名前付けたいですね。何が良いでしょう?
森「神タイミングで!」

本当にそれで良いんですね?

苦労したニワトリタマゴ問題の解決

さて、決済サービスをやるとなったら、結構スムーズに事は進みました?
柳「いやいや、僕ら何もネットワークなくて。そもそもカードってどうやって発行するのだろう?ってところからですね。」
森「カード会社に行ってもだいたい『あなたたち誰ですか?』って感じなので、まずは僕たちは何者なのかというところからですね。」
柳「ご存じの通りFinTechっていろんな関係者が全員そろわないとビジネスのスキーム自体が成り立たないんですね。一部の方とだけ提携してとりあえず走り始めるというのがそもそもできない。」

paildに関わる登場人物を全員一気に説得する必要があると
柳「そうです。例えば僕らがおカネをいっぱい持っています、というのも関係者を説得する材料になるんですが、キャピタリスト側としては関係者全員と提携を決めてきたら出資する、事業サイドとしては資金調達してきたら提携する、みたいな。」

典型的なニワトリタマゴ問題ですね
柳「はい。だから登場人物の方々とは個別に丁寧に交渉して少しずつ進めていきました。『出資が決まりました』なんて明らかな嘘はついちゃいけないんで、『この提携が上手くいけば、どこそこが出資してくれそうなのでなんとかご協力を』みたいなことを言いながら、本当に丁寧に丁寧に交渉して少しずつ絡まった糸をほぐしていったような感じです。」

投資家側の方はどうだったんですか?
柳「関係者との交渉を進めつつ、伊東さんには『ピボットしましたけどそこそこ進捗して、関係者との提携話も少し具体的になってきたので、50Mの方でできませんか』ってお願いして。そしたら何とか2018年9月の投資委員会に諮っていただけることになったんです。」

キャピタリストの男気を見せられた50M投資委員会

50Mの投資委員会ではすんなりと?
柳「それがそうでもなくて。」
森「投資委員会もリスケになったりしましたし。」
柳「当初開催予定だった投資委員会の直前に『これだと開催できないから』と言われて、一週間リスケされて宿題を出されたんですね。僕らなりにそれには応えたつもりだったんですが、翌週の投資委員会でも『全然ダメ。言ってた宿題も全然できてない。30点か40点くらい』て言われて。」

結構な修羅場ですね
森「僕ら2人でしゅんとなる、みたいな」
柳「伊東さんの上司の方からは『俺だったら投資しない』って言われて、もう僕らからはこれ以上何もでないよ・・・て思いましたね。」

そこから大逆転が?
柳「かなり厳しい感じだったんで、喉のここまで『辞めます』って出かかったときに、担当キャピタリストの伊東さんが『いや、僕がやるんで』て言い切ってくださって。」
森「あれ格好良かったよね。」
柳「何て言うか、伊東さんの上司の方って男気見せるとか、そういう演出が割と好きなタイプだと思いますね。『お前これできんのか!』て言って、『僕がやりきるんで黙ってみててくださいよ!』みたいな。」

そんなドラマがあったんですね。担当のキャピタリストとちゃんと信頼関係を構築できていたってことですね
柳「確かに、ちゃんと色んな人から信頼を得ていくということが、資金調達だけでなく、とても大事ってことですよね。僕の場合そういう活動は今でも結構やっていますし。」

キャピタリストとの信頼関係の他に、調達で大切だと思われてることってありますか?
柳「他社が興味持ってるとか、出資したいって言ってくれている、っていうのがかなりポジティブに効くと思っていて。藤原さんも当時かなり早くに出資を決めてくれましたけど、『他社も出資したいって言ってます』てリードインベスターに言えるのが大きくて。嘘はついちゃいけないんですけど、そこは例えば『御社が決めてくれたら出資しそうです』という言い方にするとか、そういう演出はCEOが自分でやらないとダメだと思っています。」

最後に、ピボットで悩んでいるスタートアップや、資金調達に対して何かアドバイスがあれば。
森「まだアドバイスできるって程じゃないんですけど、ピボット期は大変だと思いますし、僕と柳みたいな高校の同級生とかでも油断したらすぐdisり合う感じになっちゃうと思うんですが、やっぱり常に壁打ちはやり続けて共同創業者なりとはコミュニケーションを取り続けるのが良いと思います。そうして諦めずにいると、さっきの神タイミングがやってくると思います。」

本当にその名前でいいんですね?じゃぁ、柳さんの方は?
柳「やっぱり起業する前から信頼を得ておくということが重要じゃないかと思っていて。起業した日から『はいスタート!』って信頼を得に行くんじゃないんですよね。前々から頑張って信頼を得ておくことで、重要なタイミングで役に立つということなので。今回出資いただいたCoral Captalの澤山さんも、僕が社会人1年目の時の3年目の先輩だった訳で、当時からちゃんと目先の利益に囚われず周りの期待に応えられるように頑張っていて良かったなと思います。そういう意味では、8年前から資金調達が始まっていたとも言えますよね。将来起業するから今適当でいいってことは絶対ないので、そこは気をつけていかれるのがオススメですね。」

--- 2019年10月15日 追記 ---
paildの正式ローンチに向けて、Handiiは本格的に人材採用に乗り出しています。ご興味ある方、ぜひ下記までコンタクトを取ってみてください。

Handiiについて

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HandiiはVISA加盟店で使える法人カードをいつでも何枚でも発行できる法人向けウォレットサービス「paild」の開発・運営を行なっています。paildはウェブの管理画面からカードの発行や利用上限金額の設定などが簡単に行える新しい法人カードサービスです。paildは秋にサービスリリースを予定しています。現在、事前登録を受付中です。ぜひこちらからアクセスしてください。


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