【文字起こし】筆極道vol.1 其の三(頰を差す茜 朝の山手通り…)

※ 【】内は語り手の名前です。
※ 句読点、助詞や語尾の修正を適宜入れてます。
※ YouTubeの動画を聴きながら読むと、その場の雰囲気も一緒に伝わってオススメです!!

【但馬】
頰を差す茜 朝の山手通り
タバコの空き箱を捨てる
今日もまた明日の踏み場はない
小部屋が孤独を甘やかす

奥入瀬の木陰の中から八甲田山を見て、そう思った。

【小野】
甲虫は逃げた、1匹、2匹、3匹。虫かごというにはあまりにも小さい箱のように聞こえるが、沢山の甲虫がいる。
"裕也"の妻、を名乗る女は、この中に裕也がある、本物の裕也を探して欲しいといって、わたしの所に、あるサンプルを持ってきた。
そう、精神科医の私の研究は、どんな虫にもどんな生命にも記憶や夢というものが宿るだろう。
そんな私の研究に興味を示したのが、"裕也"の妻、を名乗るあの女だった。
私の研究を追求したい欲望に負け、その女が持ち込んだ元裕也と呼ばれる夥しい数の脳味噌のサンプルを、甲虫1匹1匹に移植していった。
それを今夜、息子が全て逃してしまった。
本物の裕也は一体何処に行ってしまったのだろう。

【武】
「何ですって警部!?では星はあの中村だとおっしゃるんですね!?」
「そうだとも。事の始まりからあの中村博士が、この全てを仕組んでいたんだよ。」

【土井】
内田裕也なんていう人物は居なかった。
全てあの、中村という精神科医を名乗る男がやった事だ。中村は6人の人を殺した後、青森に住まい、名を変えた。
その後、カート工場で働いているところをその実績を認められて、精神科医になったという事だ。青森はよく分からない。そういう事が許されるらしい。
ただ問題は、中村が中村としての証拠を何も残してない事だ。自分の記憶の一部を甲虫に移植した中村は、嘘発見器にかけても引っかからない。
青森の道中でからっ風に吹かれて、指紋も無くなってしまった。あの老婆のカートの指紋は、中村とは一致しない。
どうすればいいんだ。あの甲虫の記憶を、誰かに再移植しろとでもいうのか。どうしよう。

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