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ギャル

2000年初期、それはギャルの時代だったと思う。

記憶は曖昧だが、このときは既に”ヤマンバ”は存在していなかった。でも、いわゆる、”白ギャル”が少しずつ台頭し始めてきたときだ。盛り髪、小悪魔ageha、編み編みのローング厚底ブーツ、デニム生地のミニスカート。

私には、ギャルの友達はいなかった。「エリート」という薄っぺらい言葉を誇りにもつ、成金と無個性を泡立てたような進学校にいたので、学生は個性を出すこと自体、非常に難しい。ゆえに、そもそも校内に真のギャルは存在していなかった気もする。

それでも私は、ちょっとでも派手めな女子たちを見ると「ギャルだ」、と思っていた。思い、ちょっとびびっていたのだ。

人とあまりうまく話すことはできない割には、自分のことが結構面白い人間だと、勝手に思い込んでいた当時の私(いや、実は今も思っている節はあります)は、校内のギャルたちにとっては、「無害だけど、よくわからないし、イケてない人」と、思われていたと思う。ギャルにとって私という人間は、つまらないのだ。理科の実験の時間、ただ一人「さん」付けで呼ばれ、ビーカーを運んだ青春時代。補足しておくと、このエピソードによって傷付いているわけではなくて、ただ私は、ダルそうなギャルたちの輪の中に入れなかっただけだ。

時代は緩やかに進み、ティーンエイジャー女子御用達の雑誌セブンティーンでは、”モテ子”なるものが出てくる。

モテるために何をすればいいのか。モテ子は、サラダにドレッシングをかけない。なぜなら、ドレッシングというものはカロリーが高くて太るから。モテ子は、気になる男子の袖をクイッと引っ張る。なぜなら、男子たちはキュンキュンするから。(ケンジ17歳 それはマジでやばいっす!)モテ子は、必ず朝風呂に入る。なぜなら、美意識が高いから・・だ・・。

気がつけば、あの強くてちょっとアホだったギャルたちは少しずつ数を減らしていき、モテ子時代が訪れてきた。さらに、つんく♂が秋元康に侵食されていくように、徐々にほっとけない女の子たちが増殖していき、「黒髪の子の方が、タイプだわ」という男子たちが多数派になった。そうして私の華のJK時代はひっそりと幕を閉じ、ギャルたちと仲良くできないままだった。

2年前くらいだったか。仕事の合間に入ったドトールで、若い夫婦が隣の席に座ったことがある。女性は、飼い犬のトイプードルの話、友人の彼氏の話などをマシンガントークで話し、突然、おもむろにガトーショコラを食べ始めた。ホールケーキの。ホールケーキ?そう、ドトールにホールのガトーショコラなんてものはない。他のお店で買ってきたものを、我慢できずに開封して食べていたのだ。

「うまくね?」

あ、うめーわ。と頷く旦那さん。

ミラノサンドを食べながら、つい我慢できずチラ見をすると、そこにいたのは、紛れも無く”ギャル”だった。小麦色に焼けた肌と、サラサラの金髪ヘアにノースリーブのワンピースを着こなし、夫婦揃ってビーサン。年は20台後半から30台前半くらいだろうか。そしてギャルは、お腹が大きかった。

「あたしさ〜世界一美しい妊婦目指してっからね?!」

ギャルの妊婦さんは誇らしげに旦那さんへそう宣言し、世界一美しい妊婦になるためのヨガだのスーパーフードなど、と、あれやこれやを語り始めた。

そのとき、なんでしょう。カラーボールがパーンッと弾けるような気持ちになり、「あっ、ギャル、好き.....」という気分が全身に染み渡った。

世界一美しい妊婦。ストレート。素敵すぎる。素直で、率直で、迷いがなくて、自信に溢れてて、何よりもわかりやすくて。

彼女が私の立場だったら、どうするのだろう。まんべんなく”そこそこ”な状況で生きている私を見て、何を思うのだろう。彼女だったら。だったら。「こんな会社辞めっから!」と早々に辞めて、貯めたお金でLAに行って、帰国後ネイルサロンでも起業してしまうかもしれない。よく、心にオネェを持つとメンタルにいいということを聞くけど、持つべきものはギャルだ。彼女たちのストレートさは、果てしなく尊い。目の前にある、クライアント向けの説明資料がアホらしく思えてきた。ギャル、世界一目指してっからね?

学生時代のギャルたちとの距離は、縮めることはできなかった。いや、あの時いたギャルは、真のギャルではなかったかもしれない。まあとにかく私は、ドトールにいた「世界一美しい妊婦を目指しってから」なギャルと出会ってから、身勝手にもギャルの事が大好きになったのだ。少し苦手だった人、モノが、こんな形で大好きになるとは思わなかった。これを成長や変化と呼べるのか、わからんけど。

少し遅く起きた週末の朝、サンデージャポンに出演する「みちょぱ」を見て、今日もひっそりと尊敬の眼差しを送っている。ギャルが好きです。











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