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司法試験予備試験 刑訴法 平成28年


問 題

次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】
平成28年3月1日,H県J市内のV方が放火される事件が発生した。その際,V方玄関内から火の手が上がるのを見た通行人Wは,その直前に男が慌てた様子でV方玄関から出てきて走り去るのを目撃した。
V方の実況見分により,放火にはウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶が使用されたこと,V方居間にあった美術品の彫刻1点が盗まれていることが判明した。
捜査の過程で,平成21年1月に住宅に侵入して美術品の彫刻を盗みウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用して同住宅に放火したとの事件により,同年4月に懲役6年の有罪判決を受けた前科(以下「本件前科」という。)を有する甲が,平成27年4月に服役を終え,J市に隣接するH県K市内に単身居住していることが判明した。そこで,警察官が,甲の写真を含む多数の人物写真をWに示したところ,Wは,甲の写真を指し示し、「私が目撃したのはこの男に間違いありません。」と述べた。
甲は,平成28年3月23日,V方に侵入して彫刻1点を盗みV方に放火した旨の被疑事実(以下「本件被疑事実」という。)により逮捕され,同月25日から同年4月13日まで勾留されたが,この間,一貫して本件被疑事実を否認し,他に甲が本件被疑事実の犯人であることを示す証拠が発見されなかったことから,同月13日,処分保留で釈放された。
警察官は,甲が釈放された後も捜査を続けていたところ,甲が,同年3月5日に,V方で盗まれた彫刻1点を,H県から離れたL県内の古美術店に売却していたことが判明した。
①甲は,同年5月9日,本件被疑事実により逮捕され,同月11日から勾留された。間もなく甲は,自白に転じ,V方に侵入して,居間にあった彫刻1点を盗み,ウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を玄関ホールの床板にたたきつけてV方に放火した旨供述した。検察官は,同月20日,甲を本件被疑事実と同旨の公訴事実により公判請求した公判前整理手続において,甲及びその弁護人は,「V方に侵入したことも放火したこともない。彫刻は,甲が盗んだものではなく,友人から依頼されて売却したものである。」旨主張した。
そこで,検察官は,甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するため,②本件前科の内容が記載された判決書謄本の証拠調べを請求した。
〔設問1〕
①の逮捕及び勾留の適法性について論じなさい。
〔設問2〕
②の判決書謄本を甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するために用いることが許されるかについて論じなさい。

関連条文

刑法
108条(第2編 罪/第9章 放火及び失火の罪):現住建造物等放火
刑訴法
199条3項(第2編 第一審/第1章 捜査):逮捕状による逮捕の要件
317条(第2編 第一審/第3章 公判/第4節 証拠):証拠裁判主義
320条1項(同前):伝聞証拠と証拠能力の制限
323条1号(同前):その他の書面の証拠能力

一言で何の問題か

1 再逮捕・再勾留
2 前科による立証

つまづき、見落としポイント

※論点だけ書かない、全手順を踏む
・先行逮捕の適法性→違法性ない(違法性あれば別の論点)
・後行逮捕の要件を満たす:再逮捕できる
・勾留の要件を満たす
・証明:自然的・法律的関連性を満たす証拠能力あるか
 ▼自然的関連性あり
 ▼判決書の証拠能力:伝聞例外該当
  ∟同種前科による立証→法律的関連性×

答案の筋

1 再逮捕は条文で予定されている。再勾留も密接不可分の関係にあるが、権利制約の程度が大きいため、要件を満たす場合に認められる。
2 自然的関連性は認められ、伝聞例外として証拠禁止にも当たらない。しかし、それ自体で犯人性が合理的に推認されるようなものではなく、法律的関連性が認められないため、立証に用いることは許されない。

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