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司法試験予備試験 刑訴法 平成30年


問 題

次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】
警察官PとQが,平成30年5月10日午前3時頃,凶器を使用した強盗等犯罪が多発しているH県I市J町を警らしていたところ,路地にたたずんでいた甲が,Pと目が合うや,急に慌てた様子で走り出した。そこで,Pが,甲に,「ちょっと待ってください。」と声をかけて停止を求めたところ,甲が同町1丁目2番3号先路上で停止したため,同所において,職務質問を開始した。
Pは,甲のシャツのへそ付近が不自然に膨らんでいることに気付き,甲に対し,「服の下に何か持っていませんか。」と質問した。これに対し,甲は,何も答えずにPらを押しのけて歩き出したため,甲の腹部がPの右手に一瞬当たった。このとき,Pは,右手に何か固い物が触れた感覚があったことから,甲が服の下に凶器等の危険物を隠している可能性があると考え,甲に対し,「お腹の辺りに何か持ってますね。服の上から触らせてもらうよ。」と言って,①そのまま立ち去ろうとした甲のシャツの上からへそ付近を右手で触ったところ,ペンケースくらいの大きさの物が入っている感触があった。
Pは,その感触から,凶器の可能性は低いと考えたが,他方,規制薬物等犯罪に関わる物を隠し持っている可能性があると考え,甲の前に立ち塞がり,「服の下に隠している物を出しなさい。」と言った。すると,甲は,「嫌だ。」と言って,腹部を両手で押さえたことから,②Qが,背後から甲を羽交い締めにして甲の両腕を腹部から引き離すとともに,Pが,甲のシャツの中に手を差し入れて,ズボンのウエスト部分に挟まれていた物を取り出した。
Pが取り出した物は,結晶様のものが入ったチャック付きポリ袋1袋と注射器1本在中のプラスチックケースであり,検査の結果,結晶様のものは覚せい剤であることが判明した(以下「本件覚せい剤」という。)。そこで,Pは,甲を覚せい剤取締法違反(所持)の現行犯人として逮捕するとともに,本件覚せい剤等を差し押さえた。
その後,検察官は,所要の捜査を遂げた上,本件覚せい剤を所持したとの事実で,甲を起訴した。
第1回公判期日において,甲及び弁護人は無罪を主張し,検察官の本件覚せい剤の取調べ請求に対し,取調べに異議があるとの証拠意見を述べた。
〔設問1〕
下線部①及び②の各行為の適法性について論じなさい。
〔設問2〕
本件覚せい剤の証拠能力について論じなさい。
(参照条文) 覚せい剤取締法
第41条の2第1項 覚せい剤を,みだりに,所持し,譲り渡し,又は譲り受けた者(略)は,10年以下の懲役に処する。

関連条文

憲法
31条(第三章 国民の権利及び義務):法定の手続の保障
刑訴法
220条1項(第2編 第1審/第1章 捜査):
 令状によらない差押え・捜索・検証
覚せい剤取締法
41条の2:刑罰
警察官職務執行法
2条:質問

一言で何の問題か

所持品検査の限界、違法収集証拠排除法則

つまづき、見落としポイント

職務質問の問題はお決まりの「強制処分に当たるか~の筋」とは異なる、そもそも職務質問の要件「異常な挙動・・・疑うに足りる相当な理由のある」を満たすか検討する

答案の筋

1 ①へそ付近を触った行為は、意思を制圧するものではなく捜索に至らない程度であり、プライバシー権に対する制約の程度も小さく、必要性、緊急性も認められ具体的状況のもとで相当
 ②背後から甲を羽交い絞めにして甲の両腕を腹部から引き離す行為は、身体の自由という重要な権利利益を制約し、また、着衣の内部という要保護性の高い重要なプライバシー権が侵害されていることから捜索に至っており、強制にわたるものといえ違法(捜索に至らず強制にわたるというのが判例の見解)
2 覚せい剤取締法違反は重大犯罪であり、その証拠として重要であるとしても、②の行為の違法性が極めて重大であることに鑑みると、将来における違法捜査抑制の見地からして相当ではなく、違法収集証拠として証拠能力は否定

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