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風にのってきたメアリー・ポピンズ

「風にのってきたメアリー・ポピンズ」
P.L.トラヴァース 作 林 容吉 訳


2月に映画『メリー・ポピンズ リターンズ』の予習として読んだ本。
起承転結があるお話というよりは、メアリー・ポピンズがバンクス家にやってきてからの子どもたちの日々を中心に章ごとに展開していくタイプのお話です。

ロンドンに住むバンクス家は、バンクス氏、バンクス夫人、娘のジェーン、息子のマイケル、そして双子のジョンとバーバラの6人家族。
銀行に勤めるバンクス氏と、女性参政権運動に熱心なバンクス夫人は日々大忙し。
雇っているお手伝いさんだけでは助けが足りず、4人の子どもたちの教育係を募集する。
そんなバンクス家にふわりふわりと東風にのってやってきた女性メアリー・ポピンズは、この教育係として仕えることに。
美しく、凛としたメアリー・ポピンズとの日々はなんとも不思議なことの連続で、やんちゃ盛りの子どもたちは次第にメアリー・ポピンズの虜に。
ときに厳しく、ときにやさしいメアリー・ポピンズが繰り広げる不思議な世界観でいっぱいの一冊です。

12ある章の中で、特に好きだったのは、2章の外出日と9章のジョンとバーバラの物語です。

2章では、メアリー・ポピンズが外出日、すなわち休日にマッチ売りのバートに会いに行くお話がされています。
いつもふたりで食べる木イチゴ・ジャムのケーキが食べられなくとも、とっても素敵な時間を過ごしたふたり。
メアリー・ポピンズの魅力に一気に引きこまれる章です。

9章は、まだ赤ん坊のふたごジョンとバーバラが主人公のお話。
毎日太陽や風や動物とお話をしているふたりは、なぜ他の大人たちが自分たちと同じように太陽や風、動物とお話ができないのか理解ができません。
部屋に遊びにきたムクドリも「すぐに何も分からなくなるのさ、君たちも」とからかいますが、幼いふたりは理解できないのです。
そんなふたりにその時はある日突然訪れる、ちょっぴりさみしい結末。
悲しむムクドリとは対照的に、ふたりの成長を静かに見守るメアリー・ポピンズが印象的な章です。

私は物語でもハリーポッターのように起承転結のあるお話の方が好きだったのですが、なんでもなさそうなバンクス家の日常を読み進めていくうちにメアリー・ポピンズの魅力にどんどん引きこまれてしまい、この本もあっという間に読み終えてしまいました。
林さんによって日本語訳されたこの本には、「木イチゴ・ジャムのケーキ」や「ショウ・ウィンドウからぬけだしたような」、「ため息をひっこめて」や「一番いい服を着て」のように、読んでいるこちら側がうっとりしてしまうような素敵な日本語がたくさん登場します。

素敵な日本語で描かれる、メアリー・ポピンズの不思議な世界を味わいたい方におすすめの一冊です。


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