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思い出いっぱいのパン屋さん

大好きなものって素敵だと思う。
考えるだけでも心がウキウキするし、小さな幸せをくれる。
私は気分が上がらないときは特に、大好きなものたちについて考えることにしている。
今夜も私の大好きなものについて1つお話してぐっすり眠りにつきたいな、そんな気分だ。

家からバスで15分ほどのところに小さなパン屋さんがある。
このパン屋さんが私は大好きだ。
”パン”ももちろん好きだけれど、この”パン屋さん”には素敵な思い出がたくさんある。
だから、”パン”ではなく、その思い出も含めたこの”パン屋さん”が好きだ。

私が初めてこのパン屋さんに行ったのは、幼稚園のころ。
そのころ、毎月のように中耳炎や鼻炎になっていた私はよく耳鼻科に通っていた。
朝一番にお母さんに連れられてバスに乗り、近所の耳鼻科へ。
幼稚園生だった当時の私にとって、耳鼻科の先生はとてもこわかった。
目には変なメガネをつけていて、にこりとも笑わないし、鼻や耳の治療は音が大きくて痛かった。
だから耳鼻科に行くのがたまらなく嫌だったのだけれど、唯一楽しみなことがあった。

それは、病院の帰りにパン屋さんに行くこと。
「病院がんばったからパン買って帰ろっか。」
そう言ってお母さんは、私の手をひいてパン屋さんに連れていってくれた。
帰りのバス停の目の前にある小さなパン屋さん。
外壁がレンガ造りで、深緑色の枠で囲まれた窓からは、おいしそうな小麦色のパンがたくさん並んでいた。

ドアは自動ドアで、ちっぽけな私にも反応してくれるこのドアにもウキウキした。
中に入るとふわっとパンの甘い香りがやってくる。
たくさん並んでいるおいしそうなパンに目がキラキラした。
私の顔は、なんとも言えないうれしさや喜びでさらにまんまるになった。

その数あるおいしそうなパンの中で、私がいつも買ってもらっていたのはアンパンマンパンとレーズンロール。

アンパンマンパンは、アンパンマンの顔の形をしたパンで、中にはチョコレートクリームがたっぷり入っていた。
まあるいつやつやしたアンパンマンの顔に、小さいまんまるした鼻とほっぺが3つちょこんと乗っかっていて、アンパンマンの顔はどれもにっこりしていた。
アンパンマンの鼻やほっぺのまんまるにも、ちゃんとチョコレートクリームが入っていて、いつもどこから食べようかなと迷うほど、どこから食べてもおいしいパンだった。
アンパンマンが痛くないようにあごから食べることもあれば、思い切ってまんまるのほっぺから食べることもあった。

レーズンロールは私の幼いころの大好物だった。
このパン屋さんのレーズンロールはまあるい形で、ふんわりしたロールパンに小さなレーズンがたくさん練りこまれていた。
アンパンマンパンとは対照的にとてもシンプルなパンだったけれど、アンパンマンパンと同じくらい大好きだった。
この2つが私のお気に入りでいつも買ってもらっていた。

このパン屋さんで何か特別なことをしたわけではない。
けれど、お母さんと手をつないでパン屋さんまで歩いた道のりや、自動ドアを開ける瞬間のドキドキ感、お店の中にただようパンの甘い香りや、つやつやしたアンパンマンパンの顔、レーズンパンをほおばったときの喜びなど、このパン屋さんにはたくさんの思い出がつまっている。
だから”パン”ではなく、”パン屋さん”が好きなのだ。

大きくなるにつれ、中耳炎や鼻炎にならなくなった私は、思い出のつまったこのパン屋さんにもあまり行かなくなってしまったのだけれど、
先日、ひさしぶりに行ってきた。
パン屋さんは変わらず帰りのバス停の目の前で小さいながら営業していた。
あのころと変わらないレンガ造りの外壁に深緑色の窓枠。
自動ドアも、ふわっとやってくる甘いパンの香りもあのころのままだった。

たった1つあのころと違っていたのは、アンパンマンパンとレーズンロールがなかったこと。
レギュラーメニューからなくなってしまったのか、その日たまたま作っていなかったのか、本当のところは知らない。
けれど、どちらのパンがなくとも、私の思い出は私の中で生き続けている。
だから、思い出のパンがなくとも、このパン屋さんにはこれからもたまには行きたいな。
あのころの思い出を、小さな幸せを味わうために。


今日のノート
「お昼時のヴェネツィア」

これもおとといのひよこちゃんハンドクリームと同じ、韓国の文房具屋さんで見つけました。
イタリアのヴェネツィアのイラストがとっても素敵。
ヴェネツィアは死ぬまでに行きたい街の1つです。そそられる!

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