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凍える考察

坂本昌行主演 凍える

初日観劇を終えて一言
……難しい!!!

ほんっとうに難しい
個人的に、初日は鈴木さん演じるアニータの演説を聞いて、『ラルフ』と言う人間を読み解いていたんだけど…
溢れ出てくる専門用語!
私はまだその分野について多少の学習があるのでまだ分かる話なんですが、全然知らない人はついてこれてるの?!ぐらいの専門用語達

まず『ラルフ』とはどんな人物なのか

21年かけて7人の女の子を誘拐し、性的暴行を加え、窒息死させ、それをビデオにしてコレクションしている殺人鬼
もう聞いているだけで世間からしたらどんなに“悪い”存在か……

そんなラルフを精神科医の立場から読み解いていくアニータ
彼女が言うには犯罪者の精神解析は「アイスランドで言う極北をを探検すること」
凍え切った真っ暗な何もわからない世界を一歩一歩手探りで探ることなのかな、なんて

そしてアニータのセリフから必要な情報をまとめてみる(ここを理解してから観劇すると楽しさが何倍も違うので大事)

まず、前頭葉は脳の内側から湧き上がる衝動を調節、判断を下し行動を組み立てて日常生活の規則を学びそれに従って決断を下すためにある、それにより人間たり得ている
何をどう損なわれると非人間性が出現するのか?

大抵の人は鼻すじをかるくたたかれると2、3回瞬きをする、攻撃されると身構えるのが普通、大丈夫とわかると大抵の人はなれる、でも3回以上瞬きするのは抑制不全、前頭葉が機能してないことを示す、脳の調整機能が欠如していると人は新しい状況に適応できない、つまり、硬直性が認められる、

ラルフは鼻筋を叩かれて3回以上の瞬きをした、つまりラルフは前頭葉が機能していない
前頭葉が機能していないということは?
衝動の調節、判断ができない。だから衝動的に子供を誘拐してしまったし、性的暴行を加えたし、殺していた。当たり前のように。
つまり、前頭葉の損傷により機能が停止すると非人間性が生じる、のかな。


そして精神的虐待も脳の構造に深刻で病理的変化をもたらす
完全なるネグレクトを経験している子供の脳は大脳皮質は20から30%小さい
虐待は脳のストレス反応システムに障害を与え深刻な結果をもたらす、何かのトラウマが生じた時脳は反応して幾つかのホルモンを波状的に分泌、その最後がコルチゾール。すべてを平常時に戻すのが効力、
問題はコルチゾールにおける中毒性
極めて長い時間過剰なストレスを受け続けるとコルチゾールが海馬を損傷
海馬は人間の記憶に関わる、記憶を整理、文脈にまとめて、時間と空間に結びつける、

だからラルフは自分の頭の傷の話をする時、時系列順に会話ができなかった。思い出したことを思い出したタイミングで話し始めるからちょっと文章が成り立っていない、というか、歪。
そう、ラルフは幼少期の両親の虐待による過剰な精神的なストレスにより海馬が損傷している。
これもまた、ラルフの『非人間性』を引き起こした原因。

そして、虐待は左脳にも影響
左脳は論理と言語、右脳は想像力と表現力に大きな役割
虐待を受けた子は異常性の発覚が2倍、全ての症例において左脳に、論理性を司る左脳に問題を抱えていた
成長段階である種の異常事態にさらされると、人は道徳的な羅針盤を持つことができない
愛着や感情的な絆を目に見えて異なる配線がまばらで複雑でもない
脳の機関が欠損しているため、他者とコミュニケートすることができない

ラルフは虐待により左脳にも障害があった。
それにより道徳的な羅針盤がない状態、だから、女の子を殺すことが道徳に反することだということが分からなかった。

さらに、死刑囚は脳に物理的損傷がある人が多い傾向がある。
たしかにラルフも頭に傷を負ったことが3回。
18歳の時に屋根から落ちた時。
16歳の時鉱山に落ちた時。
幼少期に母親にお風呂に投げ飛ばされた時。

さらに後半、共同研究相手が調べた内容より
『深刻な身体的虐待がある子は泣いているこの手を取ろうとする、その女の子が嫌がると腕をもう片方の手でたたく、その後背を向け地面を見つめ激しく叫ぶ『うるさい』早口大声で繰り返す
女の子を軽くポンポンたたく、それに女の子はさらに混乱
身を離して声で威嚇、次第に強くなる、女の子をたたき続ける、相手は悲鳴をあげているのに』
つまり、身体的虐待を受けていた子は、相手の恐怖心や怯えに気づくことができない。
だからラルフは「ローナは嫌がってなんかいなかった!」と言い切った。『誰も嫌がっていない』から、“いけないこと”だと思っていなかった。だから良心が痛まなかった。

そして、身の回りの物を枠組みとした構造化テスト
言語能力テストにおいて、何も頼りにできず必死に連想することを強いられる、正常なら14個、9つ以下は異常、ラルフはfour.fourteen.fourty.fram.fack.facken.など、9つ以下、つまり異常、、、
ここで、ラルフは「俺って異常?」と気づき始めるわけです。


まだまだあったかもしれませんが、これだけでも十分に分かるでしょう。
ラルフが幼少期から精神的に、肉体的に虐待を受け、過度なストレスが与えられていたことに。

アニータが言いたかったことは、精神病患者による罪(ラルフで言えば殺人ですね)は「疾患による症状」ということ。
彼ら死刑囚は悪意を持って人を殺したのではなく、彼らの育ってきた環境により精神が壊れ、操られ、自分の意思ではなく衝動的に行なったことである。ってことなんですね。

ラルフの殺人にも悪意がなかったことが分かるシーンがあって。
1つはアニータとの会話。
「良心が痛むことはないの?」というアニータの質問に「良心が痛む…?なにそれ?」と、本当にわからない顔をするんですよね。
それもそのはず、ラルフは『本当に悪くない』と思っていたから。だって、女の子たちが喜んで自分の意思で着いてきてると思っていたから。
そしてもう1つ、ナンシーと面会した時。
ラルフが「ローナは怯えていなかった」といったこと。そしてそのあと、ナンシーに「いいえ、ローナは怖かった。」と言われ、自分の過去とローナを重ねるんです。
そして父親から受けた虐待の話をし、そのあと怯えるんです。体を震わせて、声を荒げて。
ナンシーが「怖かったでしょう?痛かったでしょう?」と尋ねると何度も瞬きを繰り返しながら何度も頷くんです。そこで初めて、自分のしたことが『いけないこと』『痛いこと』『怖いこと』であると自覚するんです。
そして、良心が芽生える。
だから何度も「ごめんなさい」と呟きながらナンシーに謝罪の手紙を書き、心臓が痛くなるんです。

長々と書いてますが、要するに(やっとまとめます)
ラルフは幼少期から父親に性的虐待、身体的虐待を受けていた、そして母親にも。
ラルフは人の痛みがわからないわけでも、恐怖心を感じないわけでもない。脳の異常により判断力が鈍っているせいで判別がつかなかった、人殺しをさせられていた動かされていた。
生まれつきの悪人ではなかった。だって、悪とは倫理的に堕落していること、だけど、ラルフはそうではなかったから。


悲しいですよね。痛みがわからないわけじゃないのに。自分のせいでこうなったわけじゃないのに。
ただ、『正常』だと思っていた行為が『異常』で、周りから白い目で見られて、牢獄に入れられて。

ラルフだって、1人の被害者なんですよ。

これが、私の考察によって出た『ラルフ』という人物像です。

これを踏まえてラルフを思うと、涙が出ませんか?

ラルフも辛かったね、悲しかったね、痛かったね、怖かったね……
なにより、寂しかったよね………

そんな気持ちが溢れ出てしまって2度目からはラルフの言葉や仕草に涙が出てしまうんです……

アニータの言う、『精神疾患による症状』というセリフ。
私にはすごい刺さって。
なぜ認められないのか、それは社会がついていけないから。
それを認めてしまっては罪と正義との境目がわからなくなってしまうから……。

考えさせられるな、と共に、ラルフにも幸せを…なんて、考えてしまいます……

でも、おそらく、ラルフにとってアニータは安心できる家や家族のような感覚だったのかな、なんて思っています。
だって、あんなにもラルフのことを理解して分かって受け止めてくれる人、アニータが初めてじゃないですか?


ひとまず、ここでたたみます。
あくまで私個人の考察と感想ですが、作品の良さとか、凄さとか、何かしらが伝わったらいいな…

長々とありがとうございました!

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