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頻尿・尿意切迫感・痛みの症状が改善 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の神経調節

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(以下、間質性膀胱炎)は、恥骨上部の痛みや尿意切迫感、夜間頻尿を含む頻尿などが起こる難病です。間質性膀胱炎の標準的な治療には、「食事や行動の見直し」「経口薬による治療」「膀胱内の物理治療」などが挙げられます。近年注目されている治療法の一つが神経調節です。仙骨、陰部、脛骨を対象とした神経調節に関するレビューをご紹介します。

神経調節によって症状をコントロール

学術顧問の望月です。今回は、『Curr Opin Urol』に2023年に掲載された「Current position of neuromodulation for bladder pain syndrome/interstitial cystitis」をピックアップしました。このレビューでは、間質性膀胱炎の治療における神経調節の有効性に関する情報が整理されています。

間質性膀胱炎は、恥骨上部の痛みや尿意切迫感、夜間頻尿を含む頻尿などの症状が慢性的に続く難病です。背景には、膀胱尿路上皮のグリコサミノグリカン層の損傷などが隠れています。バリア機能としての役割を持つグリコサミノグリカン層が損傷すると、尿による刺激などによってさまざまな症状が生じてしまうのです。

間質性膀胱炎の症状の改善には、神経調節が有効かもしれません。実際に、神経調節はさまざまな病気の治療で採用されています。一方で、間質性膀胱炎に関する文献(研究)は限られているのが実情です。レビューをもとに、間質性膀胱炎に対する神経調節の現状を整理していきましょう。

間質性膀胱炎の神経調節では、主に3つの神経がターゲットとなります。具体的には、①仙骨神経を標的とする仙骨神経調節(SNM)、②陰部神経の近くに電極を配置する陰部神経調節(PNM)、③脛骨神経を標的として針を使用する経皮的脛骨神経刺激(PTNS)とパッドを使用する経皮的脛骨神経刺激(TTNS)です。PTNSとTTNSは、過活動膀胱症候群、非閉塞性貯留の治療での実績が増えており、脛骨神経刺激の認知度も高まっています。

さっそくですが、それぞれの治療法を見ていきましょう。

●仙骨神経調節(SNM)
針穿刺などでS3またはS4といった仙骨神経を標的とするSNMは、20年以上と間質性膀胱炎の分野で最も多くの研究実績を持っています。サンプル数は十分とはいえないものの、SNMの多くでは、ポジティブな結果が報告されています。IPG(Internal pulse generator、電気刺激送信装置)インプラントへの変換率、⻑期成功率、緊急性、頻度、痛みの症状のいずれかで、改善が認められているのです。

ビジュアルアナログスケール(VAS)で痛みを評価したところ、スコアに一定の改善が認められており、欧州泌尿器科学会と米国泌尿器科学会は、標準的な治療がうまくいかなかった場合の選択肢としてSNMをガイドラインに盛り込んでいます。

●陰部神経調節(PNM)
S2からS4の神経根に由来する陰部神経は、間質性膀胱炎における神経調節の標的となります。陰部神経には大量の求心性神経線維があり、外尿道および肛門括約筋と並んで骨盤底の神経を支配しています。

2010年以降、PNMに関する研究は発表されていませんが、仙骨神経刺激と陰部神経刺激の効果を比較する6ヵ月の追跡試験が行われています。22人の患者さんに1回の手術中にSNMとPNMを受けてもらい、その後の症状を確認したところ、改善率はSNMと比較してPNMのほうが有意に高いという結果が得られています。

これらの結果を受け、17人の患者のうち13人が最終的なインプラントとして陰部神経刺激を選択。頻尿と尿意切迫感の大幅な改善が認められたものの、痛みには大きな変化はありませんでした。ただし、仙骨群と陰部群の数には大きな差があり、結果の評価には注意が必要といえそうです。追跡調査では、PNM で間質性膀胱炎症状指数(ICSI)および間質性膀胱炎問題指数(ICPI)の大幅な低下が認められています。

副作用なく患者負担の少ない脛骨神経調節

●脛骨神経調節(PTNSとTTNS)
脊髄根L4からS3に由来する後脛骨神経を標的とする経皮的脛骨神経刺激を見ていきましょう。経皮的脛骨神経刺激には、くるぶしの内側に設置された針の電極に電流を流すPTNSと、くるぶしの内側の電極パッドに電流を流すTTNSがあります。これらは、過活動膀胱症候群の治療で行われることが多い治療で、間質性膀胱炎を対象とした研究は多くありません。過活動膀胱症候群においては、移植可能な脛骨神経調節装置が開発されているのに対し、間質性膀胱炎の治療に同装置は導入されていません。

サンプル数は限られているものの、間質性膀胱炎に対するPTNSのポジティブな治療効果が明らかになりつつあります。具体的には、10人中7人が PTNS治療完了後に、間質性膀胱炎の症状がある程度軽減されたと報告しています。

治療の第一選択肢としてのPTNSの可能性を評価する研究も行われています。39人を対象とする試験では、日中の頻尿と尿意切迫感の大幅な改善が見られ、排尿回数は3.8回、尿意切迫感は4.7回減少するという結果が得られています。

また、VAS、ICSI、ICPIによって評価された症状スコアは、痛みの重症度、症状指数、問題指数の改善が示されました。難治性の間質性膀胱炎の患者さんを対象とする試験でも、尿意切迫感や夜間頻尿の減少、日中の排尿回数と痛みの改善が認められているのです。

間質性膀胱炎の治療におけるTTNSの効果を報告した文献は、一つだけありました。その研究では、日中の頻尿、夜間頻尿、VASスコア、ICSIスコア、排尿量において統計的に有意な改善が示されています。なお、PTNSとTTNS においては、いずれも副作用の報告はありません。患者さんに負担のかからない治療の選択肢になりうると評価されています。

レビューでは、神経調節は間質性膀胱炎の治療に有効であり、標準的な治療に抵抗性が見られる患者さんについては採用を検討すべきであると結論づけています。SNMまたはPNMの前に、低侵襲性のPTNSとTTNSを試みるのがいいとされています。現時点では長期的な追跡調査が限られていますが、今後、より規模の大きな試験の結果が蓄積されていくものと思われます。

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