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GABAが膵臓β細胞の回復と炎症の抑制に有効 1型糖尿病治療の研究最前線

1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓ランゲルハンス島のβ細胞に損傷が起こる自己免疫疾患です。病気の進行を止めるのは難しく、インスリン注射によって血糖値をコントロールしていく必要があるとされています。一方で、2022年には、米国FDAで新たな免疫療法薬が承認されました。近年では、1型糖尿病に対するガンマアミノ酪酸(GABA)の効果についても研究が進められています。

膵臓のホルモン分泌に関わるGABA

学術顧問の望月です。今回の記事では、『Frontiers In Endocrinology』という学術誌に2023年に掲載された「GABA signalling in human pancreatic islets」をご紹介します。本レビューでは、主に1型糖尿病に対するGABAの効果などが検証されています。

高血糖が慢性的に続く糖尿病には、1型糖尿病と2型糖尿病があります。2型糖尿病は、肥満などが原因で血液中の糖を取り込むために必要なインスリンというホルモンに対する反応が悪くなったり、インスリンが分泌されなくなったりして起こる病気です。一方の1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓ランゲルハンス島のβ細胞に損傷が起こる自己免疫疾患に分類されています。

1型糖尿病の治療法の中心は、外因性インスリン療法です。インスリン療法は、インスリン注射によって血糖値をコントロールするものですが、病気の進行を止めることはできません。2022年には、テプリズマブ(モノクローナル抗体)という薬が米国FDAに承認されました。テプリズマブは免疫療法薬の一種で、β細胞を攻撃対象とするキラーT細胞の活性を弱め、1型糖尿病の発症を遅らせたり、病気そのものを治療したりする効果が期待されています。

現在、免疫療法薬以外の治療法についても研究が進められています。その一つが本レビューでフォーカスされているGABAです。グルタミン酸を材料として作られるGABAは、主に中枢神経系の神経伝達物質として研究されています。広く知られている機能性としては、「血圧」「ストレス」「疲労」「睡眠」などに対する効果が挙げられます。よろしければ、以前の記事もご参照ください。

GABAのシグナル伝達は、中枢神経系だけでなく、膵臓のランゲルハンス島のホルモン分泌機能にも関係しています。また、GABAがランゲルハンス島の再生に関わっていることも最近の研究で明らかになりつつあります。

GABAが膵臓の細胞の炎症を抑制

動物実験では、GABAが膵臓のβ細胞を再生させ、免疫細胞の働きを抑制することが実証されました。GABAを動物の腹腔内に投与する実験では、β細胞の増殖が誘導される結果も得られています。さらに、膵臓のβ細胞に対する毒性を持つ薬剤や数種類のサイトカインによって誘発されたアポトーシスの速度を、GABAが抑えることが明らかになっています。

本レビューの著者らの研究では、GABAの投与によってIL-1B、TNF-α、IFN-γなどの炎症誘発性サイトカインは減少するが、同時に抗炎症性サイトカインのレベルは変化しないという結果が得られています。これらの実験では、GABAが2種類の1型糖尿病マウスモデルにおいて、β 細胞の保護効果や免疫調節効果を発揮し、血糖値を正常化することが明らかになりました。

GABAの経口投与の安全性は、数々の研究で確認されています。通常の濃度では血液脳関門を通過しないため、末梢組織のGABA受容体のみを活性化することもわかっています。これらを受けて、1型糖尿病の患者さんを対象とする臨床試験も実施されています。

1型糖尿病に伴うβ 細胞量の減少は、膵島における免疫応答の局所制御を弱めます。1型糖尿病の患者さんを対象とする試験では、GABAの投与によって全身のGABA濃度は変化しないものの、常在免疫細胞の働きに重要な役割を果たしており、免疫応答の局所制御を弱めてしまう膵島のGABAレベルに影響を与えていることがわかりました。一例となりますが、GABA濃度とIL-1B、IL-12、IL-15といった炎症誘発性サイトカインには負の相関があることなどが明らかになっているのです。

現在は、ベンゾジアゼピン、麻酔薬といったGABAシグナル伝達調節薬、エキセンディン−4、リラグルチドGLP−1といった受容体アゴニストなど、β細胞を活性化し最終的にβ細胞に存在するGABAA受容体(インスリン放出に関わる受容体)の感受性を上げる物質とGABAを組み合わせることで治療効果が高まる可能性について、検証が進められています。持続性の高いGABA製剤、GABA類似体、あるいは併用療法については、さらなる臨床試験で有効性が明らかになっていくはずです。

先述のとおり、現在の1型糖尿病の治療の中心は外因性インスリン療法です。米国FDAで承認されたテプリズマブのほかにも、将来的に治療の選択肢は広がっていくものと思われます。不二バイオファームで製造している発芽そば発酵エキスにも、GABAは含まれています。糖尿病に関するエビデンスも蓄積していきたいと考えています。

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