「ピアノ弾けます」がモテるセリフである理由

私はピアノは弾けない。
というか譜面すらまともに読めたことはない。
音楽の授業はいつも友達にドレミを楽譜に振ってもらってなんとかやり過ごしていた。

だけどピアノを弾きたい。ピアノを弾いてみたい。

最近、街中でもよく見かけるようになったピアノ。

この間、ピアノの発表会帰りなのかな、という5歳くらいの女の子2人組が連弾で「となりのトトロ」を演奏している場面に遭遇した。

とってもとっても可愛らしかったし、なにより上手だった。

お金入れるところがあったら1000円は確実に払っていた。
「これでジュースでも買いな」とか言いながら。
(1000円のジュースなんて、どんだけいいジュース買えるんだよ。)
(私だって1000円のジュースなんか飲まないわ。)
(今日200円ちょっとのレモネード買っただけでもドキドキしちゃったわ。)

日曜日の暖かな雰囲気と、となりのトトロの陽気な雰囲気がピッタリあっていて、周りには何となく足を止める人がチラホラいた。

演奏が終わると、立ち止まって聴いていた人も、近くのカフェでお茶をしていた人も、みんな拍手を送っていた。

演奏を終えた少女たちも満足そうにニコニコしている。

「いや~、いいもん聴いたわ、解散解散。」と思っていたら、
ふたたび聴こえだすとなりのトトロ。

おそらく、周りの大人たちの温かい拍手がうれしくて、もう一回弾きたくなっちゃったんだと思う。

私は少し遠くから聴いていたのだが、二度目の演奏も無事に終え、再度拍手が送られる。
そして息つく間もなく奏でられ始めるとなりのトトロ the 3rd !!!!!

最初は温かい拍手を送っていた、カフェでお茶をしていた貴婦人も、さすがに吹き出していた。
そしてとなりのトトロは、計4~5回は演奏されていた記憶である。

こんな面白い芸当をサラリと披露できるなんて、ピアノが弾けるとは、なんと素晴らしいことなんだ!と私は感動した。

正直、悔しかった。
私もとなりのトトロ連続で5回弾くなんていう面白芸を披露してみたい。

ピアノを弾けることのメリットは、これだけじゃない。
「私ピアノ弾けますよ。」ってセリフ、私にはものすごくカッコイイものに感じる。言ってみたい。
どんなに仕事ができなくても、この一言だけで少し尊敬される気がしないだろうか?

例えば、いつも仕事のミスが多い鈴木さん(仮)がいるとしよう。

ピアノが弾けると知る前だったら、
「あ~鈴木さん、またやってる。怒られないといいな。でも何度言われてもミスする鈴木さんも、しょうがないしな。」
と思うことだろう。

しかしピアノが弾けると知った後だったら、
「あ~鈴木さん、またやってる。でもピアノ弾けるしなぁ。ピアノ弾けるんだもんなぁ。」
になる。

ほかにも、いつも無口で不愛想な佐々木くん(仮)がいるとしよう。

ピアノを弾けると知る前だったら、
「佐々木くん今日も話しかけづらいな。うわ~、迷うな、迷うけどやめとこ。」
だけど、

ピアノを弾けると知った後だったら、
「佐々木くん今日も寡黙だな。そうだよな、ピアノ弾けるんだもんな。そうだよな。」
になる。

ピアノを弾ける人が、実際に日常生活の中で関わる人に、ピアノを披露する場面はほとんどないだろう。

だから、「ピアノが弾けるだけでなんだよ。そんなの何の役にも立たないじゃないか。」と言う人もいるだろう。

さらに、「ピアノを披露する場面がないなら、ピアノ弾けますって嘘ついてもいいんじゃない?」と思う人もいるかもしれない。(これは3か月前の私。)

どちらもそういうことじゃない。

私は、
ピアノを弾けると公言すること=
“万が一ピアノを披露する時が突然来たとしても練習や経験が身に沁みついてるのでいつでも弾けますよと公言すること”
だと思う。

この余裕と自信がカッコイイのだ。

ピアノを小さい頃少し習っていて当時は弾けたけど今はもう弾けるか分かりません、という人は、
今、前文で示した内容と同じ言葉を発することだろう。

「ピアノ弾けます」は、今でも弾けるという事実なのだ。

え?練習したりしてるの?演奏会に参加したりしてるの?
と、プライベートまで気になってしまう。

プライベートまで想像してしまったら、もうほかのことも気になって気になってしょうがない。
いつもミスしていたとしても、不愛想だったとしても、気になって目で追ってしまうだろう。

そしていつの間にか私は、ピアノが弾ける鈴木さんや佐々木くんのことばかり考えてしまうのだ。

そう、この記事は“「ピアノ弾けます」がモテるセリフである理由”についてではない。
“私がピアノ弾ける人を好きになってしまう理由”である。
タイトルで詐欺してごめんなさい。

なお、私はまだ「ピアノ弾けます」と公言する一般人に、人生で一人しか出会ったことがないのであるが。

いつかピアノを弾ける彼とセッションするために、私もウクレレでも始めようかと思う。


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