昔の話ですいません(○○ゲーへの道)06

もうさすがに山場もなく、つまらないと思いますが……www

さて、声優さんの声の録音も終わり、あとはその音声ファイルをMacに読み込んで、台詞ひとつひとつごとにファイル化し、ほぼ完成している「狂気」のプログラムにぶちこめばいいだけだ……。しかし、思ってもいなかったことに気づいた。声優さんの声をどのタイミングで出す? テキストを読む早さは人によって違う。また、声優さんがしゃべっているのと同じことがテキストとしても表示されているわけで、人によっては音声が先走ったりしてしまう可能性もあるわけだ……。しかし、この問題の対処方法はすぐに思いついた。

「つまり、台詞の部分を画面表示上、一番最初に来るように『改行』していけばいいだけじゃないか。そして、台詞の出てくるページが表示されたら、すぐに声優の声を流せばいいのだ……。やべえ、俺って天才プログラマーかも……」

無理な改行をすることで、ファイルのページ数が増え、その結果ファイルの容量が増大したが、実はこの時点ではそのことに気づいていなかった。とにかく、音声ファイルを淡々と適材低所に配置していった。

会話のシーンになった。録音現場ではまったく「会話」せずに録音した台詞だったが、組み合わせてみると、ものすごく自然に会話しているようにきこえる! やっぱプロ声優はすげーや。

そして、現時点ではMac上でしか動かないものの、「狂気」は完成した。エロゲーってことで適当なものでいいだろうと、当初は考えていたが、CGアプリをかなり研究できたことで、女の子たちは「かわいい」といえるレベルに達していた。しかもしゃべってくれる。なんか知らないが、こりゃ、結構本格的になったんじゃねーか。おっと、Windowsへのコンバートか~。ま、また人脈作戦でいけば、誰かサクッとできる人が見つかるだろう……。

俺は「狂気」の全データが入ったフォルダをCDに焼こうとした(DVDはまだなかった時代の話だ)。

え? え? フォルダのサイズが「2GB」だと? CDに焼けないじゃん……っていうか、Winにコンバートするにしろ、CDで売るわけで、これじゃだめじゃん……。

そもそもゲームなんて作るノウハウもない俺が「作りましょう!」といって、このゲームを作り始めてから、ずっとテンション高く、「勢い」だけをバネにやってきたが、フォルダサイズの表示を見て、俺は初めて「倦怠感」を味わった。もう、打つ手が考えられなかった……。

……こんな容量デカイんじゃ、「商品」にならねーじゃん。……終わったな。何人に頭下げればいいんだ? いくら賠償金的なものを払えばいいんだ……。

疲れきった俺は、「○○さん」の事務所で、ひとり放心していた。そこに、声優さんを紹介してくれた「アキバ」のジャンクパソコン屋でバイトしている少年が訪ねてきた。

「どうも。声優さんたち、どんな感じでした? なんか興味あってきちゃいました」

「おお、君か、その節はどうも。君のおかげで非常にありがたかったというか、困っちゃったというか……」

「困っちゃった? 何がですか?」

「ゲームの容量が2GB近くになっちゃったんだよ。こんなデカいもの、配る方法ないよ……」

「どんな感じでプログラムしてるんです? ちょっと見せてもらっていいですか?」

「見てわかるのかよ?」

「一応、パソコン屋でバイトしてるんですよ。それにプログラムに興味あるんで、独学ですが、結構理解しているつもりです」

少年は俺のMacのマウスをつかむと、「狂気」を起動させるのではなく、「フォルダ」中身のチェックを始めた。

「ああ、やっぱりそうか。音声ファイルが容量食ってんですね。これ「Aiff」形式でしょ? 音声を「mp3」に変換すれば、かなり容量減ると思いますよ」

「それなに?」

当時は「mp3」なんて言葉すら一般的ではなかった。

「え~と、mp3というのは『MPEG』の……とにかく、音声を『圧縮』できるんです。このオリジナルファイルの10分の1くらいまで容量小さくできると思いますよ」

「何? じゃあ、もしかして……」

「2GBどころか、かなり軽くなるんじゃないんですかね。ただ、この形式にすると圧縮するので、解凍して音声を出す形になるんです。まだ、一般的じゃないので、ゲームのCD内に、mp3を解凍できるソフトを同梱するといいかも知れません。まず、これを入れてねっていう注意書きのテキストを添えて。フリーでいろんなソフトがありますから」

「君、詳しいねえ……。ねえ、もしかして、このゲーム、Windowsで動くようにできたりしちゃう?」

「ゲームの内容、見てもいいですか?」

そうか、本来、まだ世の中に出ていないゲームなんだから、関係者以外に勝手に見せてはいけないんだな。しかし、そのことをわきまえている少年に、俺はある「期待」をもった。

「なるほど~、プログラミングしたアプリは『ディレクター』ですね。C言語っぽい命令で書かれてて……。ああ、これなら3日もあればできますよ」

「3日、マジかよ!」

「ただちょっと気になる点が……。表示されているテキスト、本当にテキストデータでしょ? 遅いマシンだと、こういうの重くなっちゃうんで、ビットマップ、つまり『画像』にしちゃうんです。MacとWinではフォントも違うでしょ? Macのフォントを画像化することで、テキストデザイン的にも『凝っている』イメージも出ると思うんですよね」

し、少年、君は声優を紹介してくれただけでなく、ファイル容量の圧縮、さらにWindowsへのコンバートもやってしまえるというのか……。俺がこのゲームを作り始めて出会った人々の中で、君が一番スーパーマンだよ!!

少年の活躍により、ゲーム全体の容量がCDに焼けるサイズになり、さらにWindowsで動く「狂気」が完成した。この時点で、約束の納期は一ヶ月遅れていたのだが、例の流通業者が、進行状況から「一ヶ月」遅れた発売日を設定してくれていた。流通業者は「Windows版だけで十分」と、Macで動く「狂気」は商品として存在しないことになった。つまり、「Mac版狂気」は俺のMacの中だけにある……。

発売後、「狂気」は、我々の予想を超える売り上げをたたきだし、自分でも戸惑いを覚えたが、とにかく俺は「エロゲー」を作った。勢いだけでつくった。当時33くらいだっただろうか、今、こんな冒険は絶対にできないだろう。まだ、若く、熱いシーズンだからできたのだ。実は、今、手元にそのゲームはない。とくに愛着がなかったからだ。俺が愛着のあるもの、それは「これから作るもの」、そんな感じでやってきてしまった……。

下手に売れたもんで、「○○さん」や流通業者は「これのパート2」を作ろうといってきた。まあ、そうなるだろうなとは思っていた。しかし、俺は拒んだ。どうせなら新しいことがしてみたかった。

「近未来が舞台で、『ニキータ』みたいに、謎の組織に殺人を命令される女主人公の話をちょっと思いついてるんですけど……」

で、結局「狂気」の続編含め、5本ぐらいはエロゲーを作っただろうか……。すべて、手元にはない。

35になった。「節目感」だ。俺は「○○さん」の事務所を去った。とくになにか新しい仕事を探したわけでもなかったが、簡単にいえば「飽きて」しまったのだ。もう、いいものは作れないだろう。そんな気がして……。

思い出話がことのほか長くなってしまったが、50を超えると、なんとなく昔が懐かしくなる。自分の作ったゲームも見返してみたいような気がしている。それができない代わりに、きっと、こんなものを書いたのだろう……。

終わり

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