昔の話ですいません(○○ゲーへの道)05

まさか、こんなに長いものになると思ってませんでしたwww

もう、みんな飽きているでしょう!


全くの「一」から始めたエロゲー制作、声優さんも確保したし、これで流通業者も文句言わんでしょう……あ、Windows用にコンバートしなければならないという「お題」があったな。しかし、俺はなんかうまくいえないが「何とかなる」という強気な気分になっていた。エロい絵だって用意できたし、声優さんがボイスを吹き込んでくれることも実現したし、コンバートもなんとかなるだろうと……。

声の録音の前々日だったと思う。例の声優さんから「打ち合わせ」がしたいという話がきた。今度は「バー」とかではない、普通の喫茶店だった。向こうも「本気モード」だったのだろう。彼女はMD(だったと思う)プレイヤーを俺の前に差し出した。

「まず主人公の女の子ね。この子は活発で、旅館でのピンチから、もうひとりの女の子を救う勝ち気な性格だから、私が担当するね」

うーん、確かにこの声優さん、初めての会合の時、俺にタバコの煙を吹きかけたり、勝ち気な性格っぽいからいいんじゃないか……ぐらいしか頭に浮かばない。プロの声優がどういうものかまるでイメージが湧かないからだ……。

「で、旅館に幽閉されている女優のタマゴの女の子ね、この子は暗い過去を持ってるって設定だから、○○ちゃんがいいと思って……」

「え? ○○さんって、今まさに放映中の人気アニメのセカンドポジションくらいの人じゃないですか! テレビ見ない俺ですら何となく名前聞いたことありますよ!」

「彼女は少年の声を出すのがうまいから人気アニメで少年系の声を担当してるの。でも当たり前だけど女子の声もだせるのよ。ちょっとトーンの低い感じが、この暗い過去の女性にもあってるんじゃないかと思って」

彼女は、MDプレーヤーに繋がったイヤフォンを俺に渡した。

「彼女が、あなたの書いたシナリオの台詞をしゃべっているのを録音してきたの。ちょっと聞いてみて」

イヤフォンから聞こえてきたのは、確かに俺が書いた台詞だった。やや陰りのある声、俺がイメージしていたキャラにぴったりじゃねーか! 正直驚いた。「音声」をまったく意識しないで書いた台詞が、生き物のようにしゃべっている! さらに聞いて行くと、耳に喘ぎ声が飛び込んできた! もはや、どう返答していいか分からなくなってしまった……。

「ん? イメージ違う? だったらほかの子に変えてもいいんだけど」

「え? 録音はあさってですよ」

「だから、バイトしたがってる声優は五万といるんだって」

「いや、あの、じゃあ、お、恐れ多い気はしますが……、この方で」

「妥協はだめよ。この話、あなたが作ったんでしょ? あなたが一番イメージを持ってるはずなんだから、違うと思ったら違うっていってもいいのよ」

「い、いや、なんというか、自分が書き散らかした『人間』たちが肉体をもったような感じで、なんといっていいのか……」

「じゃあ、女優のタマゴは彼女で決まりね。で、男の人なんだけど、最期に狂ってしまう編集長はこの人がいいと思うんだけど、どう?」

イヤフォンから流れてくる声優の声は、最初は非常にジェントル、狂ったあとの暴走する感じもばっちりだった。声優ってすげー!

声優4人は、彼女のセレクトした人たちでOKだった。問題は録音スタジオだった。彼女が提示してきたスタジオは時間単位が高額だった。

「あの、あのですね。今ゲーム作っている事務所の近くに『音楽スタジオ』があって、狭いですけど、録音用の部屋もあるんですよ。そこを使いたいなと……」

せこさに対しては妥協しない俺がいた。

「え~、ここ、予約入れちゃったのに……。まあ、知り合いだから、今キャンセルしても多分大丈夫だと思うけど、その音楽スタジオとやら、ちゃんと録音できるんでしょうね」

「ギターとかボーカルとか録音したことあるんで問題ないと思います」

「あ、あのねえ。こっちは演技している『声』を録音するのよ。ギター? ふん、うまく録れなくてもギャラはもらいますからね!」

「わ、わかってます!」

とにかく、初めて作るエロゲーだ。市場の空気も分からないし、売れる保証はまったくない。とにかく制作コストをおさえなくては……。

録音当日がやってきた。音楽スタジオに声優さんたちがやってきた。4人の声優さんが、鞄の中からいっせいに分厚いコピー用紙のようなものを取り出した。あ、これって最初にあの声優さんに会ったときに俺が渡したシナリオのプリントアウトじゃないか……。付箋がいくつもついている。各声優さんが持っているシナリオのコピー、その人の台詞の部分だけ、ラインマーカーが引いてある……。彼女が全部やってくれたんだ……。声優さんたちはプリントアウトのコピーをもって、みんなして俺の方によってきて、

「このシーンだけどさあ、まだあんまり狂ってない方がいいよね?」

「この女優が過去を打ち明けるシーンって、むしろ明るく語った方がいいように思ってるんだけど……」

ちょ、ちょっと待ってくれよ、知らねーよ。俺に聞くなよ。俺は「エロゲー」のシナリオってことで適当に書き倒したんで、そこまで人間を深く掘り下げてねーよ……。

「すいません、なにぶん初めてなもんで、つまり不慣れなんで、みなさんの解釈に任せます!」

俺がそう叫ぶと、仕切ってくれている声優さんが、俺のところに駆け寄ってきて、

「あのね、これはあなたが作った話でしょ? だったらあなたが責任もってディレクションしなきゃだめじゃない!」

ディレクションだと? そっちはプロフェッショナルだろ? 俺は勢いで、間違ってエロゲー作ってるど素人だぜ。よし、わかったよ、ディレクションしてやろうじゃねーか。台詞に「ロック感」が、「グルーヴ」が感じられなかったら容赦しねーからな。

もはや俺は、わけのわからない緊張で半分壊れかけていた……。

録音が始まった。一応、録音用マイクがある部屋、つまり声優さんたちが入る部屋と、録音機材のある部屋、つまり俺がいる部屋は鏡で仕切られていたが、「マイク」でやりとりができた。最初は主人公を努める、かの声優さんだ。ひとつ台詞を読むたびにこっちの反応を伺ってくる。さすがプロだ。上手い!

ディレクターである俺が返す言葉はひとつ、

「パーフェクト!」

「パーフェクト!」

「パーフェクト!」

このパーフェクトは、その後、声優さんたちの間で短い期間であっただろうが「流行語」になったそうだ。

さて、彼女の台詞も物語の佳境となり、もうひとりの女優のタマゴの女の子との台詞のやりとりの場面を迎えた。しかし、彼女は自分の台詞の部分だけを淡々と読み上げる。おっと、ここはディレクションってやつの登場でしょ。

「すいませーん。ここは会話の部分なんで、おふたりでブースに入って、実際に会話した方がリアリティが出ると思うんですけど………」

「あのねえ、いっとくけどプロの声優よ。相手がどんな感じで会話してくるかなんて、わかってやってるんだから、時間だってもったいないし、このスタイルで行くの!」

……ディレクションしろって……。まあ、いいか、「パーフェクト」だけいってればいいや、もう……。

喘ぎ声のシーンになった。彼女は鏡越しに姿が見えているにもかかわらず、胸を揉んでみたり、股間に手を当ててみたり、「入り込んで」いるのだ。これには驚いたが、山田康夫が、「声優とは俳優である」と、劇団を立ち上げ、若い声優希望者に、まず「演技」を指導していたという話を思い出した。30をちょっと出たばかり、刺激に弱い年頃だっただろうが、彼女の入れ込みには、「ムラムラ」ではなく、素直に感動を覚えた。

声優さんたちの声はハードディスクレコーダーに無事収録された。あとはこれをMacに読み込み、ぶつぎりにして、適材適所に配置するだけじゃん。……ところが、思ってもみないアクシデントが………。

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