『朝、目が覚めたら』

朝、目が覚めたら隣に知り合いの女性が眠っていた。
ここはどこだ? 俺の部屋?
っていうか、俺って誰だっけ? 名前は?
ダメだ、思い出せない。何も覚えていない。
俺はパニックを起こしそうになるのを必死で堪えて、
ベッドの上で半身を起こした。
俺が大きく動いたからか、隣で眠っていた女性……女が目を開いた。
女はものうげに周囲を見渡し、やがて俺と目が合った。
「うふふ」
女は微笑んだ。そういえば知り合いと思っていたこの女のことも
頭の中にない。変だぞ。誰だっけ?
「あの、変なこと聞くようですけど、あなた誰でしたっけ?」
女は大きな笑みを浮かべた。
「私のこと忘れちゃったの?」
女はなぜ笑っているんだ? どういうことなんだ?
俺はだんだん不気味な気持ちになってきた。
早くここから出なくては。
俺はドアの方に走った。
ドアノブを回してみるが鍵がかかっているようだ。
その時、俺の背中の方から女の声が聞こえた。

「藤江くん、どう? 『記憶喪失ルーム』を実際に体験してみて」

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