昔の話ですいません(○○ゲーへの道)04

……そろそろ飽きられてるはずwww

ひょんなことから「エロゲー」を作ることになった俺。プログラムを一から学び、「サウンドノベル」形式のものなら作れそうな感触を得た。「狂気」というタイトルも決まった。あとはシナリオだ。「サウンドノベル」形式だから、選択肢の側の話も書かねばならず、長編小説なみにテキストがなくてはならない。そこで、俺はまず、主人公の女の子を、出版社ではなく、その下請けである「編集プロダクション」で働いている人物という設定にした(処女作というか、はじめて大作を書くときは、自分の知っている世界を舞台にした方が有利だという計算もあった)。

主人公の女子が、編集長の命令で、「幽霊の目撃談がたえないある旅館があるんだがそこに取材に言ってくれないか」と頼まれ、単身、その旅館へと。しかしその旅館は「幽霊」どころではなく、「狂気」うずまく怪しい世界……おっと、ゲームの内容はどうでもいい。とにかく、人生初めて、結構な分量の文章を書いた。ちなみに選択肢が出てくる場所では、間違った方を選択すると「エロシーン」になるという、エロゲー的に正しいのか分からなかったが「とりあえずエロも入れたぜ!」と、プログラミングしたひな形に文章を流し込んで、ほぼ完成……と思ったあるとき、例の流通業者がやってきて、見せてくれという。俺は自信満々で彼をMacの前に座らせた。

「……あの、これ、サウンドノベルなんでしょ?」

「そうですよ」

「サウンドがないじゃない」

「え? BGMがなってるじゃないですか」

「そういうことじゃなくて。女の子の声がないじゃない。こういうゲームは女の子がしゃべって、喘いで、それが魅力なんだから」

「でもほとんど完成してるし……」

「だめ! 女の子の声を入れて。そうしないとうちでは扱わないよ。あと、これ、今Macで動いてるでしょ? 発売するときはWindowsにしてね。そうしないと売れないから」

おいおい、待ってくれよ。声入れろってか? 声優とか面識ないし、「事務所」とか通すといい額取られるだろうしなあ……。

それは「○○さん」も同じ考えだった(まあ、彼が金を出してるわけだし)。

そこで我々は、エロ本体質だからか、つて、つて、つてと、声優を知っている人間を探しまくった。事務所を通さず「直」で交渉することはエロ業界にはままある。その手法を使おうというわけだ。そして、「アキバ」のパソコンジャンク屋でバイトしている少年が声優を知っているという情報をつかんだ。彼に会い、その声優との会合をセッティングしてくれないかと話を持ち込んだ。

会合は実現、で、やってきた声優は……、え~! あの超有名なゲームの声を担当された方?

「そうよ、アニメとかの声も担当してるの」

会合は、彼女の指名で、とある「バー」で行われた。彼女はすでにかなり酔っている様子で、吸っているタバコの煙を、俺の顔に吹きかけた。

「つまり、あなたのところはエロゲーを作っていて、女子の喘ぎ声とかが欲しいんでしょ?」

「……ま、まあ、そういうことなんですけど、さすがにちょっと問題ありますよね。あの有名キャラのボイスやってる方がエロゲーで、あは~ん、なんていってしまっては……」

「それは大丈夫、声優はいろんな声がだせるから、ばれやしないの。それにね、有名なテレビアニメで声あててるような声優でも、バイト感覚でエロゲーの仕事してるのなんて当たり前よ~」

「そ、そうなんですか? じゃあ、引き受けていただける?」

彼女はまた、タバコの煙を俺の顔に吹きかけ、

「あんた何者? プロデューサー? ディレクター?」

「いや、その、なんというか、初めてエロゲーなるものを作っているものでして……」

「ちっ、素人かよ。まあ、対したギャラも出せないから、私に直接交渉ってわけでしょ?」

「まったくその通りでございまして……、あの~、相場価格を知らないんで、いったいいくらなら引き受けてくれるんでしょう?」

「あなたバカ? 声優を何日拘束するくらいの声の量が必要なのか、声優は何人必要なのか、それによって変わってくるでしょう? 今、あなたが抱えてるのがシナリオでしょ? ちょっと見せてごらん」

俺は、渾身のキータッチで書き倒した「狂気」のシナリオをプリントアウトして持っていた。厚さは3センチくらいはあった……。

「密室劇みたいな感じなんで登場人物は少なく、女子2人、男2人って感じでして……まあ、男の声は……エロゲーだし……」

「いいから、ちょっと黙って!」

声優は、俺がプリントアウトした、「狂気」のテキストを、すごい早さで読み始めた……。

「あ~、これだから素人はダメなのよ。なにこれ、誰がどの台詞をいうのか分かりにくいじゃない。普通はね、○子『あたしのことのすきにしていいのよ~』 ×子『御主人さま~』とか、そういうテキストもらわないと、いつ台詞いうのか分からないでしょ!」

「いや、実は当初、声優さんにお願いする予定がなかったものですから……」

彼女は、彼女の前にあったグラス、おそらくウイスキーかなにかだろう、それをグビグビと一気飲みすると、

「言い訳しないの! ……この話の感じから行くと、男の声優も必要ね。声優は4人。テキストの分量に対して台詞はそれほど多くなさそうだから、1日で録音できるわね。ほかの声優にも声かける『キャスティングマネージャー』を私がやるから、グロスで20でどう?」

「そ、そんなんでいいんですか?」

「バカねえ。最初だからバーゲン価格で受けるんじゃないの。もし、このゲームがヒットしたら、次からはふっかけるからね、ふふふ」

彼女は最期に、いかにも声優といった声で笑った。さらに声優的な声で

「うふ、じゃあ、録音の日にちを決めましょう~!!!」

お、俺のエロゲーに声優の声が入るのかよ! いったいどんな感じになるんだ? この時点ではまったく想像できなかった。しかし、問題のひとつはクリアできそうだ……。

「あのさあ……」

彼女は地声に戻って

「このプリントアウトした用紙、持って帰っていい? 分かりやすいようにいろいろ手直ししなくちゃいけないし……」

「どうぞ、どうぞ」

「……最近、こういうの少ないんだよね……」

彼女が小声でつぶやいた。

「え? こういうのって?」

「ストーリーがちゃんと分かる台本的なものを用意してくれるところ。たいていのエロゲー会社は、台詞部分しか書いてない紙を渡されて、さあ、しゃべれっていうんだけどさあ、どんな世界感なのか、どんなキャラクターなのかわからないのに、どうしゃべれっていうのよねえ」

「は、はあ……」

「あのね、この話、意外に面白いよ、キャラクターの造形も分かりやすい。もう、私の頭の中には、この人はあの声優さん、この人は……って、イメージできあがってるもの、他の声優も演じやすいんじゃないかな?」

ほ、ほめられてしまった……待てよ、そういえば、シナリオを渡したときから、彼女の挑発的な態度は消えていたな……。

あ、そうだ、Windowsにコンバートしなければならないという問題が残っていた。しかし、俺の頭の中は「声の録音」のことでいっぱいだった。声優さんたちはどんな段取りで声を録音してゆくのだろう……。

そして、録音当日となった………。

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