昔の話ですいません02

エロ本会社を辞め、退職金で「Mac」を買ったはいいものの、まだ「データ入稿」の時代ではなく、「Mac」に活躍の場はなかった。会社を辞めてしまった俺は「フリーランス」として、元いた会社や、その会社時代に知り合ったライターやカメラマンなどのつてで「仕事」を探した。仕事といってもエロ人脈から紹介された仕事なので、当然エロ。入稿データも、相変わらすレイアウト用紙に「本文12Q」「キャッチ、M100,Y100」なんて書き込む、いわゆるアナログ仕事で日々の生活をつないでいた。

そんな感じで紹介された中のひとりが、今も一緒にバンドを組んでいる、バンマスこと「○○さん」だった。依頼された仕事はもちろんエロ本系だったが、あるとき、

「藤江君、Mac持ってるんでしょ? なんかゲーム作ろうよ!」

「え? ゲ、ゲームですか……」

「Macならなんだってできるでしょう」

確かにこの時代、Macは「マルチメディア」と呼ばれる、CDに写真や動画を収録したものが再生できるということで、「これから時代はマルチメディアだ~」なんてムードもあるにはあった。また、「パソコンがあれば何でもできる」という誤解も……。しかし、実際はデータ入稿もできない現状……いや、待てよ。「本」を作ることにこだわっているからMacが使い物にならないと思っているわけで、ほかのジャンルなら……。

「ゲームですね。任天堂とかそういうの関係ない、パソコンで遊べるやつですよね」

「そうそう、ゲーム機用のだと、いろいろ契約とかあるでしょ。パソコンのエロゲーって結構売れてるらしいよ」

「え、エロゲーですか……」

俺はエロ本時代、「エロ」さえ入っていれば結構なんでもありを体験していたので、

「いいじゃないですか、エロゲー。作りましょう。作りますよ!」

……この時点で、俺にはゲームプログラムの知識など全くなかった。

「○○さん」は、ゲーム制作には時間がかかるだろうと、彼の事務所に俺のMacを持ち込み、半分社員のような形にして、給料のように金を払ってくれるという(制作期間は3ヶ月という約束はあったが)。

もう後戻りできない。俺はその日から「プログラム」関係の本を読みまくった。人間、けつに火がつくと呆れる集中力を発揮するものだ。責任感、プレッシャー、「作る」と言った言葉を「嘘」にしないため、俺は燃えた。Macも毎日触ると熱いくらいになってた……。

そして、RPGは無理だが「サウンドノベル」的な感じのものだったら作れそうな感触を得た。また、ほかの会社が作っているパソコン用のエロゲーも研究しまくった。

そんなある日、

「ところで、ゲームのタイトル何にする? 流通業者探したんで、タイトルだけでも伝えないとねえ」

「タイトルですか~」

この時点で、俺はどうにか「ゲームらしきものは作れそうだ」という感触を持っていただけで、内容はまったく考えていなかった。そこで、ふたりでロックのアルバムタイトルを(○○さんもロック好きなんで)次々あげていって、

「狂気なんてどう? ピンクフロイドの名盤、響きもかっこいいじゃん」

「ああ、狂気いいっすねえ。あのアルバムはサイケとポップがいい感じに融合してて……」

「じゃあ『狂気』ってタイトルにしよう」

こんな感じでタイトルだけが決まってしまった。ロックバンド、「ピンクフロイド」の名盤からつけたタイトルだ。こうなったらロックスピリッツで行くしかない。俺が研究した他社のエロゲーは、女子をまるでおもちゃのように扱ったり、レイプしてみたり、あるいは「お兄ちゃん」なんて呼ばせてゆるゆるやっているような内容のものばかりだった。男がとにかく、完全な「主導権」を握っているような、そして女子には感情がないかのような……。

俺がつくるのは「ロック」なエロゲーだ。全部真逆をいってやるぜ! と、「自己」というものをしっかりと持った活動的な女子を主人公にしようと決めた。

さらに無謀なチャレンジは続くのだが、それはまたの機会に……。

人生、ときには「できない」ことも「できる!」と言い切ってしまった方が、すごい推進力が生まれるということをなんとなく語りたかったんです………。

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