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4話 どうしたらいいんだろう。


私は、どうしたらいいんだろう。

どう説明すればいいんだろう。

自分の今の状況がよくわからない。

医者にとりあえず身内の人を呼んでほしい。そう言われただけだ。


「あや…?!どうしたの?!何か、あったの!?」

由宇は息を切らしていた。普段見せることのない表情をしている。

でも私は、案外冷静だった。

淡々と医者の元へ案内してゆく。

「あや?ねぇ、本当にどうしたの?聞いてる?」

私は、返事をせずに淡々と由宇を連れていく。


私は恐怖を感じていた。

彩萌は私をずっと見ているが、その目の焦点が全く私と合わない。

目の瞳孔があちこちに動き回っている。絶え間なく、休むことなく。

そのままの表情で、彩萌は私を連れていく。

雰囲気は変わらないはずなのに、たったそれだけの違いでそいつが彩萌じゃないように感じて仕方がなかった。


私は一人だけ、別室に連れていかれた。

「あなたが、身内の方ですか?」

医者は私に不安そうな顔で尋ねてきた。私は「はい」と答える。

「彩萌さんのことですが…」

私は嫌な予感がした。こんなとき、次にくる言葉は決まっている。

「予想以上です。再起は難しいかもしれません」

そういうと医者は何かのグラフを見せてくれた。

「これは言葉による脳の働きを調べたものです。

普通は、言葉をかけられていないときは緊張具合が低いのです。

しかし彩萌さんの場合は、常に高いのです。

このことから、彩萌さんは一日の負担は我々より何倍も大きいです。」

私はそのグラフ自体はわかったが、医者の言う「普通」が信じられなかった。


それが相手に通じてしまったのか、医者は言った。

「…納得がいかないのであれば、貴方も測ってみましょうか。

お金はいりません。あなたは、彩萌さんの状態を知る必要がありますから」

医者はとても真剣な表情だった。


私は、頭に何か機械をつけられ、音や言葉を聞かされるだけだった。

そしてその言葉を忘れないように反芻するだけ。

そんな内容だった。

すぐに結果が出て、私は結果を見て呆然とする。

「由宇さん。あなたくらいが普通です。…これを見て、彩萌さんがどれだけ辛い状態かわかりませんか?」

医者はもう1つのグラフを取り出す。

「彩萌さんが言葉、音をかけられた時の脳の動きを可視化したグラフです。

ただでさえ高かった脳の緊張具合が、ほぼ90%以上埋め尽くされています。

はっきり言って、ここまで脳が使われているのは異常です。

また、音、言葉の種類問わず緊張具合が上がっていますね。

彩萌さんは、日常の音ですら苦痛に変わっているかと考えられます。

私たちの声も、彩萌さんにとっては辛いものになっているのかもしれません」

私は彩萌がおかしいと認めたくなかった。

そんな表情を察されたのか、医者は続けて言う。

「彩萌さんにとって貴方に話しかけられるのが「苦痛」な可能性があります。連れてきた、あの女の人も彩萌さんがどう思っているかわかりません。今は…そっとしてあげてください。」

私は、生返事だけして部屋の外へ出ていく。


――――私は、今どんな表情をしているんだろうか。

――――彩萌に会ったとき、どんな顔をすればいいのだろうか。

そんなことが頭の中をぐるぐるぐるぐる蠅のように飛び回っていた。




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