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#4:よく訊かれることをつらつらと書いてみる。その3:使い方・使われ方に関する諸々

 「事例は“聞くもの”ではなく、自分が“なるもの”だ」と思いつきでかました言葉だが、最近気に入っているw

質問)DAはベストプラクティスですか?
回答)DAは、”あなたの”ベストプラクティスを探求する拠り所にはなるかもしれませんが、「これがベストプラクティスです」とお膳立てをしてくれているわけではありません。


そもそも“ベストプラクティス”ってなんだろう。いくつかありそうだ、ということで、DAとの関係を考えてみた。

  • 「誰がやってもほぼ間違いなく、最大の効果とベネフィットを享受出来るプラクティスのセット」だと考えている人にとって…
    …そんな夢のようなものがあれば、どんなにいいか。
     いつか「ベストプラクティス」なるものが世に出たときに、それを構成するプラクティスの中には、「既にDAのオプションに列挙されていた」と気づくものもあるだろう。しかし、DAは、「はい、このセットがベストプラクティスですよ」と見繕って提示しているわけではない。
     そんなセットメニューのようなものを期待しているとがっかりするだろう。

  • 「成功を約束するわけではないが、多くの人が採用して、それなりに実績のあるプラクティス集」だと考えている人…
    …まちがいなく有用だろう。DAでは、考慮に値するプラクティスの選択肢が列挙され提示されるが、「アジャイルとして高い効果が期待できる」とか「まず手始めにはこれから」みたいな表記上の工夫が施されているので、それらを参考にすれば、記載されているプラクティスの全部を理解していなくても、候補を絞り込むことができる。
     しかし、誤用もよく見られる。例えば、「アジャイルとして高い効果が期待できる」と印がつけられているプラクティスだけを選べば、「ベストプラクティス」っぽいリスト(”Best Hits USA“みたいな)を作ることはできるかもしれない。
     でも”それっぽい”だけだ。
     DAでは、「皆、置かれたコンテキストは違いコンテキストが違えば解決方法も異なる」という発想が底流に流れている。あなたの作った”それっぽい”リストは、あるコンテキストの人にとっては有効かもしれないが、違うコンテキストで効果があるかは別の話だ。
     「小林克也が好き」だからといって、「ザ・ナンバーワンバンド」を好きになるとはかぎらないということだ(知らないかw)。
    ※YouTubeの「ザ・ナンバーワンバンド」関連のリンクをここに貼ろうかと思ったが、内容確認の上、やめとく。

  • 「だれがやっても失敗しないプラクティス集」だと考えている人にとって…
    …PMBOKガイドの7版で言及されるまでもなく、不確実性が高く予見性が低い中で結果を出すためのアプローチとしてアジャイル開発が期待されているという面がある。そんな環境では、程度の差こそあれなんらかの失敗はつきものだ。いかなる理由があっても失敗が許されないのであれば、「何もしない」こそベストプラクティスだろう。
     しかし、失敗をある程度避けたり小さくすることはできる。
     前項でも紹介したように、DAの選択肢につけられた印をみることで、「あまり向いていないものが何か」を、最初に把握することができる。さらに、”トレードオフ”という属性があり、そのプラクティスを選択するにあたって考慮すべき点が列挙されている。
    (※”メリット/デメリット”ではないところが肝だ。デメリットになるかならないかはコンテキストに依存するからだ)。
    これらが、「転ばぬ先の杖」として機能する。

 ベストプラクティスという言葉は、「誰がやっても」という点がイメージされがちだ。DAは、「コンテキストはみな違うのだから、それに合わせた適応が必要だ」と考えている。その意味で「ベストプラクティス集」ではない。

質問)DAはいろんなアジャイル手法を包含したハイブリッドだと聞きました。DAを勉強すれば他の手法もすべて理解できますか?
回答)できません。断片的な知識は得られますが、他の手法もしっかり勉強することをお勧めします。

…「DAは様々な手法のハイブリッドだ」とは、提唱当初から主張されている。「ハイブリッド」が「異なるアジャイルの手法を組み合わせる」という意味であれば、質問のような期待を持つのも無理はない。

 DAに、意思決定を支援するツールキットとして、有効性が認められているプラクティスであれば、他の手法で提唱されているものでも、比較検討のテーブルに載せている。しかし、様々な手法の情報がミックスされているので、ある一つの手法のことを学びたいと思ったときには、読み解くのが難しい。

現在のDAにおける”ハイブリッド”は、「検討材料のネタ元の広さ」を表していると考えた方がより自然だ。「DAを読むだけでドメイン駆動開発ができるようになる」ということではない。

 余談だが、日本的アジャイル(要件を前半でガッツリ詰めて、構築だけ反復する)を標榜する人たちは、”ハイブリッド・アジャイル”ってよく言うけど、どうして“ハイブリッド・ウォーターフォール”って言わないのかね?
言葉の選択が、「詐欺的」だよね。

質問)DAブラウザの中にプラクティスがたくさんあるけど、アジャイル開発を何年もやってきた自分には、知ってるものが多くて、これのなにがいいのかがわかりません。
回答)その気持ちはよくわかります。ちなみに、あなたの周りは、「あなたみたいな人ばかり」ですか?

 …私たちは経験を通じていろんなことを学習し、あたまの中の引き出しに仕舞い込む。長年アジャイルに携わっていれば、アジャイル引き出しにいろんなネタが蓄積され、DAブラウザを見たときに「みたことのあるやつばかりだな」と思うのは自然だ。でも、それは当然だ。それがDA(の一部)だからだ。
 ここで「意思決定のツールキット」の意味が明確になる。筆者は、アジャイル(特にスクラム)のワークスタイルのイメージを持ってもらうために、
「スクラムは、3人よれば文殊の知恵+餅は餅屋」
という例えをよく使うが、スクラムに限らず、さまざまな知見を持った人が意見交換し相互に刺激を与え合うことが重要視される。あなたの引き出しの中は、DAブラウザ並みかもしれないが、隣の同僚、ユーザー、顧客はどうだろう?彼ら/彼女らが、議論のたたき台となるネタ帳を共有できれば、議論がより円滑に進むのではないだろうか?DAブラウザは、知識が蓄積された辞書のように思えるかもしれないが、「個人が知識を確認するためにたまに開く辞書」というよりも、「チームでの議論の口火を切り円滑に進めるためのネタ帳」というのが良い使い方だと思う。

え?そんなネタ帳を出しちゃったら、コンサルタントの仕事がなくなるって?
確かに。でもいいことじゃぁないか!
それで困るような“カタログ野郎”とは、おさらばさw

2022.09.10記

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