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#2:よく訊かれることをつらつらと書いてみる。その1:位置づけに関する諸々

 日本でもPMI後援なるディシプリンド・アジャイル(以降DA)のコミュニティーが立ち上がり、私も浮世の義理で関わっている。新しく接する方が増えるに伴い、これまでいろんな人から受けた質問(私の側からすると、何度も繰り返し答えてきた質問)をまたされることは十分に予想されるので、先んじて代表的なものをこちらに書いておくこととする。ここの内容について深掘りしたものは、(もしかしたら)別投稿するとして、まずは「質問と、それに対する一次回答」というレベルであることを、あらかじめご了解いただきたく。

質問)スクラムはフレームワーク、DAはツールキットだと聞きました。フレームワークとツールキットの違いが今一つわかりません。
回答)「枠組み」と「ネタ帳」の違いです(少々乱暴だけど)。

…人が集まって共同作業をするためには、仕事の進め方について、共有された認識が必要になる(それがなければ単なる烏合の衆になってしまう)。あまり厳密な定義ではないが、“フレームワーク”と呼ぶときは、仕事の進め方の枠組みを指すとしても大きな間違いではないだろう。
 フレームワークでは、手法によって名称は違うが、
・共有するべき価値観や哲学
・役割のモデル
・意思疎通のために必要な、会議体や作成物 等々
が提唱されており、これによって、いつ誰がどんなことをやるかの共通認識をチームとして持つことができる。

 さらに(程度の差こそあれ)、現場チームの“裁量”を重視し、状況の変化を捉え、自分たちでそれにスピーディーに適応する自己管理/自己組織化に重きを置いている。フレームワークの中で、「細かい作業レベル」まで規定すると、チームがそれに縛られて自由度を失ったり、中には「それをやればOKなんでしょ」とばかりに、その背景や狙い・真意を理解せず実践する人が増え、結果として状況に合わせて自ら判断し適応する能力が育たず、効果が実現できないというリスクを問題視してもいる。

その一方で、枠組だけ提示され裁量を委ねられても、「何が適切なアクションか?」を判断できるようになるのか?という問題もある。私たちは、学習や経験を通して頭の中の引き出しに「判断の材料(ネタ)」を蓄積し、それをもとにいろんな判断を日々下していく。しかし、アジャイルに関する経験がなければ、そもそも頭の中の引き出しに「アジャイル向けのネタ」は溜まらない。

 よく、「アジャイルをやろうと試してみるんだけど、すぐウォーターフォールに戻っちゃう」という悩みを漏らす方に出会うが、そもそも頭の中の引き出しに「ウォーターフォールで蓄積したネタしかない」のであれば、そこから引き出したネタを元の下した判断の蓄積としてウォーターフォールに戻っていくのは、半ば当然だ。
#私個人が教育に重きを置くのは、これが理由でもある。

 「現場チームで裁量を委ねられた人々が、日々判断を下すために、同じようなことに悩んでいるなら、その判断材料(=頭の中の引き出しネタ)を体系化すれば、より適切な判断が迅速に下しやすくなるんじゃないか?」…これがDAのそもそもの発想である。つまり、「判断をサポートするネタ帳」というのが今のDAの位置付けであり、机上にあるハサミやテープ、付箋紙といった道具のように、日々の判断を下していく中で、そのネタとして使って欲しい…そんな利用イメージから“ツールキット“という言葉が使われている。
…なんとなくわかったかな?

質問)では、DAはフレームワークとして単体では使えませんか?
回答)単体でも使えます。

…最初のDA(2012年ごろ)は、「スクラムやリーンをベースに、プロジェクト活動として足りない要素を補ったフレームワーク」として提示されており、その要素は現在のDAからも削除されてはいない。つまり、単品でも成立している。歴史的に見ると、提唱当時から「フレームワークの面」と「ツールキットの面」を併せ持っており、時間の経過とともに「ツールキットの面」により重きが置かれてきたと言えるだろう。

質問)プロジェクトでDA使うのに、何か費用がかかりますか?
回答)利用であれば、かからない

…本稿投稿時点(2022年8月末)では、有償のソフトウェア製品で課せられるライセンス料やサブスクリプション料のような費用はかからない。前述のネタ帳が形になった物として、インターネット上で公開されているDAブラウザがあるが、これも無償で利用することができる。もちろん公式のトレーニングや書籍は有償となる。
 冒頭言及したように、日本でもコミュニティが立ち上がったが、これへの参加も無償だ。

 ※ちなみに、DAブラウザやコミュニティについては、「#1:これからディシプリンド・アジャイルを勉強したいと思っている人へ」でもURL等紹介しているので、ご覧くだされ。

 PMIは、DAを推進するために、DAでビジネスする人たちのパートナーシッププログラムを最近立ち上げたが、その費用は「DAでビジネスをする人たちの閉じたコミュニティへの参加費」であり、DAそのものの利用が有償化された訳ではない。
…まぁ、でも世知辛い世の中、何がどうなるかはわからんよね。だから気になる人は、各自自分で確認してね。

質問)10年くらい前に「ディシプリンド・アジャイル・デリバリー」という書籍でDADを知りました。それがDAツールキットになったと聞きましたが、何が変わったいのでしょうか?DADの知識は役に立たないのでしょうか?
回答)DADを元に、さらに知識の適用領域が広がり、前述したように位置づけが変わったのが、現在のDAツールキットです。

…何が変わったと言って、一番顕著な違いは、「書籍のページ数が1/4 程度に減った」という点で、「押し花の重石」には使えなくなったことだろう(ちなみにこの目的に最も適合する最近の書籍は、オライリーの「Googleのソフトウェアエンジニアリング」であろうことは、衆目の一致するところだ)。

 10年前の書籍でのDAは、ソフトウェア開発に焦点が当てられた物であり、名称も「ディシプリンド・アジャイル・デリバリー(DAD)」となっていた。今のDAツールキットにもDADは1要素として含まれている。さらにその考え方を企業活動全般にまで拡大しているのが、今のDAツールキットだ。

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引用元:https://www.pmi.org/-/media/pmi/microsites/disciplined-agile/goals/da-toolkit-onion-chart.png?la=en&v=ce05da24-bda3-4f2d-a3a9-3a7af9d6b45c


 DAの提唱者であるScott Ambler氏は、以前はRUP(ラショナル統一プロセス)のコンサルタントとして名が知られており、UML関係の著作もあるが、反復型のソフトウェア開発プロセスフレームワークであるRUPを、企業活動全般に適用することを提案した「Enterprise Unified Process」という書籍を記している。

RUPからEnterprise Unified Processへ、
DADから、DAツールキットへ、

「やりたいことに、ブレがないなぁ」と思う次第である。


…と、とりあえずここまでで「その1」を公開することにしよう。中身に関しては、「その2」で追加していこうと思う。

皆さんの何らかの参考になれば。

2022.08.31記

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