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自らの悩みに具体的に向き合うーエルサルバドルの生活改善普及員研修

「会話を増やしたい」最初の一歩は?

プロモーター研修 (3 - 60)

 日本の生活改善は、農業技術の指導と異なり、日々の生活をいかによくするかを農村女性たちが考え実践するサークル活動だった。その手法を国際協力機構(JICA)が中米諸国に紹介し、エルサルバドルではモラサン県などの貧しい農村を中心に21自治体約300家族が参加している(2017年現在)。
 2017年5月、モラサン県の中心都市サンフランシスコ・ゴテラで開かれた普及員の研修を見学した。
 参加者9人が3人ずつのグループにわかれて、それぞれの課題を模造紙にまとめて発表し、議論する。
 議論は空中戦にならないように、自分の人生をふりかえり、今の自分に足りない部分を明らかにし、次の一歩として具体的に何ができるのかを考える。
 たとえばある女性は、忙しくて家族が理解しあえないことが悩みだと語った。
「会話を増やしたい」と彼女が言うと、助言者のアルヘンティーナ・トレッホ(51歳)は「具体的に何月何日から?」「どうやって会話を増やすの?」と突っ込む。
「わからない……」と言って女性は泣き出した。
「ほんの小さな行動でいいんだよ。それが心を安定させてくれるの」
 1日5分、朝起きたときに瞑想して家族のことを考えることに決めた。
「そのためには5分早く寝ないといけないね。その時間をつくる工夫をしないと……」と、アルヘンティーナは生活のなかに課題を位置づけることも求めた。
「家族関係を大事にする」と言いながら具体的な一歩を語れないメンバーには
「口で言うことと行動の間には格差が大きいでしょ? 自分がそれをわかっていなければ、コミュニティの人たちに助言なんてできないよ」
「稼いだカネが生活費に消えてしまって、勉強などにお金をまわせない」という男性は「今月から計画をつくる」と言った。
「具体的に、いつまでに何をするの?」
「まずノートを買うためにお金をためる」
「いつ買うの?」
「来週の月曜日」
「普及員が自らの課題について行動できずに、みんなが信頼してくれると思う? まず具体的に何をするべきか、自分で把握しないとだめよ」

悩みの共有からはじまる

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 別の男性は、忙しすぎて妻との関係がうまくいかない……と涙を流した。
「夫婦の関係はフィフティーフィフティーだからあなただけで解決できるものではない。でも……まず何ができると思う?」
 気持ちを落ちつかせるために毎朝10分間瞑想することにした。
「2年前、彼はみんなと自分の悩みを共有することはできなかった。今は互いの信頼感があるから、涙を流して語れるようになったのよ」とアルヘンティーナは言った。
 表現しあうことでお互いの理解が深まる。さらに具体的な行動を重ねることで、それぞれが成長する。普及員は客観的な助言者ではなく、サークルのメンバーと共に成長する存在であることを自覚していく。
 生活改善運動による絆づくりには、メンバーの心をいやし、行動を促す力がある。個々人がバラバラに対処される「自己啓発」とは、似て異なるものなのだ。

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