オンライン化で失った「原始的な営業機会」

 まず、自分の本業はコンテンツ制作プロダクション(小規模法人)です。30年間やってきて、自分もしっかりシニアです。そういう前提です。

 で、現在、打ち合わせの8割がオンライン(Zoom)に変わりました。そこで、ひとつ起きたのが「原始的な営業機会」の消失です。

 「原始的な営業機会」とは? そもそも弊社はほとんど営業をしません。人に紹介をいただいたり、既存の取引先を辞めた人が別の取引先に移りアメーバのように仕事を依頼してくれたり、ブログや書籍を読んだ人から連絡を頂いたりなどで、自然に仕事を増やしてきました。

 その中で、意外にバカにならなかったのが、取引先に打ち合わせに行ったとき、“あ、ちょうどいいところに来た”と別の人から声がかかることです。あるいは、“本日弊社にいらしてA部と打ち合わせと聞きました。15時ごろに終わるのですか? だったらその後相談したいことがあるんです”など、「顔を出したついで」に仕事関係がふくらんでいくパターン。これを「原始的な営業機会」と思っています。すごい昭和な営業ですよね(笑)

 でも昨年末も、あるスタートアップにリアルで訪問して話していたら、「あれ? 御社(うちのこと)はひょっとしてこういう仕事もできるんじゃないですか?」という雑談になるうちに、「並行して、これもお願いするかも知れません」という話になりました。
 
 ところが、オンライン会議では、あんまりこういう会話は望めません。基本的に必要なことだけを話します。その打ち合わせがすめば「はい退出」で、余韻もあんまりありません。もしかして、ぼくがオンラインのやり取りになれていないからかもしれませんが。

 そもそも、人はなんで人(外注)にお金を払って仕事を頼むのでしょうか? その大きな要因のひとつは「めんどくさいことを何とかして欲しい」ということではないでしょうか? そのためには、「(頼みたい)相手が近くに来た時に会って相談する」というのが、発注元にとって一番めんどくさくなく、手っ取り早い方策なのだと考えます(業界によってまた違うと思いますが)。
 
 “いいやメールやメッセンジャーで十分に相手に仕事を頼めるはずですよ”と力説する人もいるでしょう。しかし、メールやメッセンジャーなどで人に仕事を頼むためには、自分自身がきっちり伝える内容を整理し、相手にわかるように整えないといけません。つまり、めんどくさい準備をしなくてはならない。もちろん、そうするのが当たり前な人もいますが、多くの人は複数仕事を抱えていてめんどくさいことだらけ。そうすると、人に仕事を頼むのに、またさらにめんどくさい準備をしたいかというと、それは怪しいですよね。

 それでもデジタルネイティブなみなさんは、“いやいや、会う方がよっぽどめんどくさいし、伝える内容を整理するなんて当たり前でしょ”というかもしれません。それはある意味正論で、今後それが当たり前になるかもしれません。つまり、ぼくの原始的な営業はOut of Date(時代遅れ)になっているということです。

 もちろん、今までのやり方で、オンラインに置き換えた方がいいところは置き換えられていくでしょう。でも、人(外注)にお金を払って頼むのが「めんどくさいことを何とかして欲しい」ということが大きな動機付けになる以上、いつかオンラインだけでのやり取りって、限界があるよね、会った方が速いよねという声があがるのを待っているのですが。

人によって幸せの基準はいろいろ違うと思いますが、「仕事が楽しい」というのはかなり幸せの中でも大切なところにあると思います。どうしたら仕事が楽しくなるかを毎日考えてきた小さな会社の代表です。