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田中君の夢

鎖骨が折れている痛みのせいか(詳細略)溜まった疲れのせいなのか、悪夢をよく見てうなされる。
起きてからもしばらく強い悲しみと怒りに引きずられて呼吸が乱れるぐらいの悪夢だ。

どんな夢だったの、とやさしく聞かれたので、隣で背中をさすってくれている人に夢のダイジェストを話すと、
「あの…ストーリーだけ聴くとめちゃくちゃコミカルなのに、ギリギリのところできっとシリアスなんだね」と笑いをこらえた声で言われた。

胸の痛みが取れない私は、何がコミカルなものかとぜいぜいしながら、未だ醒めやらぬ夢を反芻してみる。

ある日クラスメイトの田中君が行方不明になった。 そして突然、教室にロバみたいな体格のラクダがやってくる。
私にはそのラクダがいなくなった田中君だとわかっていて、ラクダも私が気づいたことに気がついた。

君が本当のことを喋ったら僕は殺されちゃうんだよとラクダに言われたので私は黙っているのだが、そのラクダは薄汚れている上に本当にばかで、みんなが気持ち悪くなるようなことばっかりするので、そのうちクラス内で、こんなラクダは殺処分にしようぜというムードが高まってゆく。

そのラクダは田中君なんだよって言ってもラクダの田中君は殺されちゃうし黙っていてもラクダは殺されちゃうし、どうしたらいいかわからず悩み苦しんだ挙句、私は決心して、
そのラクダは田中君なんだよ!と訴えた。するとクラスの誰もが、
ここには田中君なんていなかったよ、と言うのだった。
それで私は、全部諦めたような眼でコンビニの残飯を漁って食べているアホで臭いラクダを抱きしめておいおい泣いている。

という夢だった。

…ロバみたいなラクダってなんだよ。
誰に殺されるんだよ。
なんで教室にラクダが来るんだよ、おまえ誰だよ。
なんで夢のキャスト全員、四半世紀会ってない高校の時のクラスメイトなんだよ。

ごめん田中君(リアルな方)。
君は全然ラクダに似てもいなかったし少しの間だけバンド仲間だったけど彼氏でもなかったし、ギターの弾けるわりと人気者だった。
そして君は私よりもずっときちんと学校に通っていた。

悲劇っていうのはさあ、いつだってコミカルなもんなんだよと内心負け惜しみを言って起き上がった私は、肩をさすりながらちょっと笑っていた。

赤ちゃんはいつの間にか転がって床の上で気持ちよさそうに眠っている。

窓の外は台風一過の青空だった。
陽射しはぎらぎらに眩しかったけれど日陰に残暑はなく、ああもう秋なんだなあと思った。

#秋 #夢 #台風一過 #書く

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