見出し画像

「ねじの豆知識」ねじ商社の仕事―規格品編

数ある規格品「ねじ」からお客様に最適なファスナーをご提供するには、知識と経験、コミュニケーションが欠かせません。エンジニアリングから販売・ロジスティクスまで、ファスナーにかかわるすべてを扱うねじの総合商社「藤本産業株式会社」が普段心がけていることを簡単にご紹介します。


お客様に「最適」を提供するために

「ねじ」は様々な分野で用いられ、それぞれの業界の必要に応じた特徴があります。自動車やスマートフォンと、道路・橋梁・ビルなどを比較していただければ、求められる形状やスケール、性能の違いをご理解いただけると思います。

実は、六角ボルト・ナットやなべ小ねじをはじめ、一般流通規格品(スタンダード品)だけでも膨大な種類があります。形状やサイズ、素材、仕上げといった要素を含めると無限とも思えるバリエーションが存在します。それらの中からベストのもの、お客様(完成品メーカー様)の必要を満たして利益を最大化する“最適なファスナー”をご提供するべく、私たちは奮闘しています。

“最適”のためのファーストステップ

お客様に“最適”を提供するための一丁目一番地は『お客様の最終製品に求められる要件を把握する』ことです。
お客様が作る製品がどんな用途で使われ、どんな所に気をつけているかを理解することに最優先で努めます。例えば「軽くしたい」、「振動が多い場所で使用する」、「腐食してはいけない」、「安全性が大切」等です。ファスナーへの性能要求は時に相反しますから、お客様の要求の、あるいは実現したい事柄の優先順位を理解する、これが最重要ポイントです。これを押さえて初めて、私たちの知識や経験がお客様への有益な提案に結び付きます。

お客様の最終製品に求められる要件とその優先順位を把握できたら、次の各要素について考慮しファスナーの仕様を決定します。

検討する要素

材料

左上から時計回りに 黒色酸化被膜/素材鋼 三価クロメート/素材鋼 ステンレス鋼 チタン

鉄・ステンレス・チタンと一口に言っても、強度・耐熱・耐食性などについて様々な特徴を持った沢山の鋼種があります。

ファスナーで一般的に“鉄”と呼ばれる素材は、純鉄ではなく炭素を含む“鋼”です。広く用いられているのはSWCH材【冷間圧造用炭素鋼線】やS-C材【機械構造用炭素鋼鋼材 例S45C】です。またクロムモリブテン鋼鋼材【炭素鋼の機械的性質をクロム(Cr)やモリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)などの元素を添加してさらに強度や靭性等を向上させた合金鋼 例SCM435】も頻繁に用いられます。

ステンレス鋼は英語で“Stainless steel”です。「錆びない(英 stainless)」からその名は来ており、炭素含有量1.2%以下、クロム含有量10.5%以上の合金鋼です。添加されたクロムが空気中の酸素と反応して不働態膜を形成することが錆びにくさの正体です。
ファスナーに頻繁に用いられるのは、約13%のクロムを含んだマルテンサイト系のSUS410、18%のクロムにさらに8%のニッケルを含んだオーステナイト系のSUS304やSUSXM-7などです。

チタンは強度がありながら軽い使いやすい素材です。また、金属アレルギーを引き起こしにくいので装飾品や医療分野で用いられています。皆さんの体内にも“チタンねじ”が埋め込まれているかもしれません。
純チタンはファスナーにはもちろん、耐食性を生かした用途に使われます。純チタンは酸素と鉄などの含有量により4種類(1種成形性良好~4種比較的高強度)があり、酸素と鉄の量が増えるほど、強度が高くなり加工しにくくなります。ファスナーに使われる頻度が高いのは純チタン1種や2種です。
チタン合金で有名なのは、アルミニウム6%、バナジウム4%を含有するTi-6Al-4V、通称64チタン(JIS60種)です。純チタンに比べ高強度・高延性で引張強度が高く、高温下でも安定しているため航空機部品などにも使われています。

こうした多様な鋼種の中から、お客様の用途に最適なファスナー素材をご提案します。また特に絶縁性や耐食性が必要であれば樹脂ファスナーという選択肢もあります。

表面処理

表面処理も多種多様です。めっきであれば亜鉛めっき、ニッケルめっき、合金めっきや金めっき。その他コーティングならラスパート、ディスゴ、ジオメット、デルタプロテクトなどがあります。それぞれ性能や特徴が異なり、今でも新たな表面処理が開発されています。
製品の用途や使用環境を基に、付与したい機能は防食なのか、装飾なのか、環境性なのか等を考慮し、最適な表面処理をご提案します。

リセス形状

色々なリセス形状

十字穴、六角穴、すりわり(マイナス)などリセス(駆動溝)は、お客様の生産量(スピード)や求められる製造方法によって最適なものが変わります。
自動化によって高速のねじ締めを行うのであれば十字穴が最適でしょう。強い締め付けと作業性の両立を目指すなら六角穴や6ロブが適するかもしれません。6ロブなら専用工具が必要となるので、ユーザーによる勝手な改造の阻止にもある程度有効です。
特に製品の機密を守りたい場合や、公共の場所で使われる製品へは、悪意を持った第三者による危険から守る特殊なリセス形状のねじ(「いたずら防止ねじ」や「盗難防止ねじ」、「タンパープルーフねじ」と呼びます)をお勧めします。

強度

鋼製六角ボルトの一般的な強度クラス4.8で十分でしょうか、それとも8.8や高強度の12.9、それ以上のクラスが必要ですか。ステンレス製もA2-50なのか、より高強度のA4-80が必要なのかなどを検討し、お客様に最適な強度クラスを見極めます。
ファスナーを高強度にすればよりコンパクト・軽量な設計を実現でき、より強い締結力を得ることができますが、反面加速度的に高価になります。過剰なスペックのファスナーはコストを増加させ、製品の総合的な競争力を毀損する恐れがあります。
※強度区分についてもっと知りたい方はこちらのブログをご覧ください。

使用種類の低減

沢山の種類のねじを使うほどハンドリングもそれだけ大変になります。保管場所の確保、在庫数の把握、発注や荷受けは種類が増えるごとに負担が増加します。また、生産現場のオペレーションも複雑になります。これらは資源・エネルギーの無駄を排除するという側面でも好ましくありません。それで、頭部形状やリセス、呼び径や長さの統合により、ファスナーの種類を低減できないか検討します。
また、同じ用途に用いるのであれば、ねじを統一できるかもしれません。例えばフランジナットやUナット、ナイロンナットなどのゆるみ止めナットを、いずれかに統一することはできますか?

ゆるみ止め機能を持つナット 左上から時計回りに スカートナット SLナット GUナット ナイロンナット


また、ボルト・ワッシャー・ナットを組で使っているなら、フランジボルトやフランジナット、ワッシャーヘッドやセムス(座金組込みねじ)の利用をご検討ください。部品点数を減らして生産効率を向上させ、トータルコストダウンの可能性があります。

左上から時計回りに フランジボルト フランジナット なべ小ねじワッシャーヘッド ねべ小ねじセムス

図面品(特注品)の場合は?

お客様が規格品では実現できない形状や機能を必要とされるなら、ファスナーメーカー様と協力してカスタム品(図面品)を製作します。公差、細かな寸法、ロットや求められる材質に対して最適な製造方法(圧造、切削、プレス、ダイカスト等)を検討してご提案します。
※図面品についてはこちらのコラムでより詳しくお話ししています。


お客様にベストを提供するために、私たちはこのプロセスを大切にしています。
安全・安心を守る“最適”なファスナーがお客様に届くなら、地球にやさしく魅力的で末永く愛される製品やインフラが世に送り出される、と私たちは信じています。

これからも、お客様と共にスマートでサスティナブルに現場の課題を解決していきます。

地球上の全ての人の幸せと笑顔のために。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?