平成の終わりと『ゲームセンターCX Symphony』

 昨日(平成31年4月29日)、東京オペラシティで、『ゲームセンターCX Symphony』の昼の回を観てきた。
 開演当初は司会の岐部さんの緊張が伝染したように、どう聴いたら良いのだろう、と観客側もおそるおそる、という感じだったのだけれど、有野課長の登場で、会場は一気に温まり、退屈するのではないかと心配だった長男も楽しんでいるようだった。
 後で感想を聞いたら、「音楽だけだったら、眠くなったかもしれないけど、課長がいたからだいじょうぶだった!」とのこと。

 これがきっかけで、オーケストラや生音の魅力を知ってくれればいいなあ、と思う。「音圧」みたいなものは、スピーカー越しには、なかなか味わえないものなので。

 個人的には、平成があと今日と明日、という日に、こうして立派なホールでオーケストラによるゲーム音楽の演奏を聴くというのは、とても感慨深いものだった。『魔界村』のBGMをオーケストラで聴いていたら、家のファミコンで友だちと遊んでいて、「なんて難しいゲームなんだ……」と唖然としていた日のことが頭に浮かんできて。

 中学校時代に、レッドアリーマーにやられまくったせいで、何度も聴いた(聴かされた)BGMを、こうして東京オペラシティで聴いている自分が、なんだかとても不思議でもある。
 あの頃は、ゲームの音楽というのは「ゲーム好きのマニアだけが好んで聴くもの」であって、僕はレコード(CD)ショップで、『ゼビウス』や『アウトラン/スペースハリアー』のCDを、なるべく人目につかないように買っていた。「ふつうの音楽ファン」に見られたら、ちょっと恥ずかしいな、と思っていたのだ。30年前に「ふつうじゃなくて恥ずかしい」と、僕が考えていたものの多くが、この30年間で、「ごくふつうのもの」になっていった。

「どんな音楽が好き?」って言われたら、「ゲームミュージック!」とは答えづらい。『ドラゴンクエスト』のCDが大ヒットするまで、ゲーム音楽というのは、そういうジャンルだったのだ。
それが、こうして東京のど真ん中の立派な会場で、オーケストラによって演奏され、多くの観客がそれを楽しんでいる、というのは、本当に隔世の感がある。
 ゲーム音楽もここまで来たのか、というのと、僕もこんなに年を取ってしまったなあ、というのと。

 有野課長は、おそらく、予定されていたよりも長い時間ステージに立っていたのだけれど、あそこに課長がいる、というだけで、慣れないコンサートホールが、挑戦部屋になったようにも感じた。

 本来出番じゃなところにも有野さんが出てきてくれたのは、そういう「場を読む力」があったから、ではなかろうか。クラシックのコンサート「らしさ」と「ゲームセンターCXらしさ」。ステージがはじまるまでは、前者への遠慮があったのを、有野さんの存在が、見事に調和させてくれたように思う。

 昼の部だけしか見られなかったので、『生オーケストラでの挑戦』に関しては、もうちょっと見たかった、とも思うし、最初のプレイで、分身をとった時点で、クリアできたのを、「さすがに初回クリアは……」と課長が「忖度」してしまったような気もするのだけれど。「長時間プレイの末の奇跡」には、「そこまでクリアしない」という前提が必要でもあるし。

「恥ずかしながら、夜の部は若干席が余ってまして」と言っていた課長をみて、そっけなく見えることもあるけれど、自分の仕事を責任をもってやる人なのだよなあ、とも思った。僕も時間さえあれば、夜の部も見届けたかった。あの場にいた多くの人も、同じだったはずだ。

 『忍者龍剣伝』のオーケストラバージョンはカッコよかったし、アンコールの選曲には涙が出そうだった。
 長生きして、めんどくさいな、と思うことは少なくないのだけれど、それなりの時間生きてきたことによって味わえる感慨、みたいなものもあるのだな、少なくとも僕は、「ゲーム」が、「PTAに嫌われる、不良がやるもの」「子供が『盛り場』でやっていると補導されるもの」から、「文化」になっていく過程を見届けてきたわけだ。

 正直言うと、夜のゲームセンターで、「警察が来た!」とみんなが騒ぎ出して、友人と一緒にゲーセンのトイレのドアから脱出した頃のゲームの「ワクワク感」が、僕は大好きだったのだ。あの日、本当に警察は来ていたのだろうか。

 あとひとつ、今回のコンサートで気になったのは、『ゲームセンターCX』の「代表作」とされている回のほとんどが、かなり昔に放送されたものだ、ということだ。

 もちろん、こんなに長く続くとは思ってもいなかったので、より面白くなりそうなゲームから挑戦していった、という面はあるにせよ、番組のこれからを考えると、ちょっと不安でもある。コンサートとしては初回だから、なるべくベスト盤的な選曲にしたのかな。

 僕にとっての「平成」は、ゲームの進化を見届けてきた時間であり、この時代のBGMは『ファイナルファンタジー7』だったり、『ダービースタリオン』の調教の音楽だったりするのだ。

 「平成」の最後に、僕の人生が走馬灯のように流れていった。そんなコンサートだった。

 もう少しだけ、この先を見届けてみたいな、と思っている。


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