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[漫才] 靴屋は靴を履かない(当て書き:麒麟)

#オチの直前まで無料

#オチを予想してお楽しみください (6文字)

川島明:最近,田村さんが色気づいてましてね

田村裕:なんですか急に

川:色気づいてるでしょ

田:色気づいてないですよ。なんのことを言ってるんですか

川:靴ですよ

田:靴?これ普通の靴やろ

川:この人色気づいてね,おとといあたりから急に靴履き始めたんですよ

田:いやいいや。「急に靴履き始めた」っておかしいやろ。3日前まで靴履いてなかったみたいに言うな

川:なんでそうやって見栄張って ,「昔から靴履いてましたよ」みたいな顔するんですか

田:顔関係ないやろ。実際に昔から履いてますからね

川:いつから?

田:「いつから」って…,覚えてないくらい昔からですよ

川:覚えてないだけですよ。「昔」って言ってもせいぜい2,3か月前からでしょうね。色気づいて急に靴履き始めてね

田:あのなぁ,前から思ってたんやけど,お前の靴に対する考え方おかしない?

川:「靴に対する考え方」ってなんやねん

田:おかしいやろ?

川:おかしくないよ

田:お前,普段靴履いてないやん

川:…履いてないですよ

田:40近いおっさんが,裸足で東京の街ウロウロしてるなんてどう考えてもおかしいやろ

川:40近いおっさんが靴履いて東京の街ウロウロしていたら,「あの人色気づいてるな」って思われるじゃないですか

田:その考え方が「おかしい」言うてんねん

川:自然体でいたいんですよ,僕は

田:「自然」っていうより「野生」やそれは

川:「野生」って(笑) 僕はそもそも靴を履く側の人間じゃないですからね

田:「靴を履く側の人間じゃない」ってどういうことやねん

川:靴を売る側の人間ってことですよ

田:靴屋ってこと?

川:僕は根っからの靴屋ですから

田:靴屋に「根っから」とかあります?

川:靴を売る側の人間が靴履いてたらおかしいやろ?

田:おかしくないわ。裸足の靴屋のほうがよっぽどおかしいやろ

川:だったらお尋ねしますけれども,寿司を握る側の人間が,寿司を食べながら寿司を握っていたら嫌じゃないんですか?

田:お寿司屋さんが?寿司を食べながら寿司を握るってこと?それは嫌やろ

川:同じことや

田:どこが同じやねん

川:だから…,寿司を握る側の人間が寿司を食べながら寿司を握っていたら嫌がられるのと同じように,靴を売る側の人間が靴を履きながら靴を売っていたらお客さんが嫌がるだろうと思って,裸足で靴を売ってるんですよ

田:裸足で靴売ってるほうが違和感あるやろ

川:違和感はないよ。お客さんだって裸足で靴買いに来ますから

田:お客さん靴履いてるわ

川:何言うてんねん。靴がないから靴を買いに来るんですよ。裸足で買いに来るしか選択肢ないじゃないですか

田:そんなわけないやろ。みんな靴履いて来ますからね

川:それは二足目の靴を買うときの話をしてるんでしょ?

田:何足目かは知らんけどもやなぁ…,二足目ってことはないやろ。みんなもっと靴持ってんねん

川:確かにね。最近は靴を履いて靴を買いに来るお客さんが増えてるんですよ

田:前からや

川:ということは,靴を持ってるのにさらに靴を買おうとしてるわけじゃないですか

田:普通やろ

川:完全に色気づいてますよね

田:お前,自分の店に靴買いに来るお客さんのことそんな目で見てたん?

川:見てましたよ

田:最低な靴屋ですよこの人。そんなやつがなんで靴屋やってんねん

川:それは…,世のため人のために決まってるじゃないですか

田:世のため人のため?

川:僕は昔から靴なんてもんは大嫌いですけどね,みんな靴好きなんでしょ?

田:好きとか嫌いとかそういう問題やなくて,ないと困りますから

川:でしょ?だから,僕は自分が靴を必要としていないにもかかわらず,みんなのためにわざわざ靴を作って売ってあげてるんですよ

田:なんでお客さんに対してそんな上から目線やねん。「売ってあげてる」とか

川:靴を履かない僕が,靴を切実に必要としているみなさんのためにわざわざ靴を作ってるんですから「売ってあげてる」でいいでしょ

田:お前は靴屋としての立場を完全に履き違えてる。靴屋だけに

川:なんで急にダジャレ入れてきたんだよ

田:たまには俺もボケたいなと思って

川:田村さんはダジャレ言うのやめてもらっていいですか

田:ええやろ別に,俺がダジャレ言うても。いや…そんなことどうでもええねん。靴屋に買いに来るお客さんの話や。なんでみんなお前の店に靴買いに行くか分かってないやろ?

川:「なんで」って…,それは靴がないと困るからやろ?

田:靴なんてなくても誰も困らへんねん。鍛えれば裸足でいけんねん

川:それは僕が一番よく知ってますよ

田:まぁまぁそれはそうやろうけど…

川:それやったらみんな裸足で生活したらええやないか。なんでみんなわざわざ靴を買いに来るんですか?

田:お前が困るからや

川:え?俺が?

田:誰も靴買いに来なかったら困るやろ

川:困りますよ。うちの靴屋つぶれちゃいますからね

田:そやろ?みんな川島の生活を支えるために,必要でもない靴をわざわざ買いに行ってんねん

川:え?ほんまに?

田:ほんまや。つまり,チャリティや

川:チャリティ!? みなさん僕に恵んでくださってたんですか?

田:そういうことや

川:でも,なんでみんな僕がお金に困ってるって知ってるんですか?

田:お前が普段から裸足で東京の街をウロウロしてるからや

川:あ〜

田:「あの人は靴も買えないほどお金に困ってるんやな」って思うやろ

川:それで,うちの店に必要もないのにわざわざ靴を買いに来てくださった…

田:そうや

川:それなのに僕は,お客さんを見下すような態度を取っていた…

田:そういうことや。やっと分かったか

川:これまで僕の店に靴を買いに来てくださったみなさん,本当に申し訳ありませんでした

田:分かればええねん

川:お前の言うとおりや。僕は靴屋としての立場を完全に履き違えてた。靴屋だけに

田:俺のダジャレ蒸し返えさんでええねん。恥ずい恥ずい

川:田村さんでも恥じらいとかあるんですか?

田:あるわそれくらい

川:まぁでもね,まさかみなさんがチャリティで僕のためにわざわざ靴を買いに来てくださっていたなんて知らなかったのでね,ものすごくお客さんをバカにして罵倒したりしてたんですけど…

田:あかんやろそれは。靴屋としてというより人として

川:今日から心を入れ替えまして,そういう態度はやめますので,また買いに来ていただけたらなと…

田:川島もこうして反省してますのでね,許してやってください。それから,靴に対する考え方も改めたほうがいいんじゃないですか?

川:あっそうですね。僕は,靴を履いている人はみんな色気づいていると思っていたので悪口とか言ってたんですけど,今後は絶対に悪口は言いません

田:あたりまえや。言うたらあかんやろ,お客さんの悪口なんて

川:本当に申し訳ありませんでした。みなさん靴なんて必要ないのに,僕の生活を支えるためにわざわざ靴を買いに来てくださってありがとうございます

田:それからねぇ…

川:まだあるんですか?

田:ありますよ

川:なんですか?

田:変な靴を作って売るのはやめたほうがいいんじゃないですか?

川:いやいや,ちょっと待って。これまでの接客態度に関しては田村さんのおっしゃる通りですけどね,変な靴は作ってないですよ

田:あれや

川:あれっ何?

田:みかんの皮でできた革靴

川:え?

田:みかんの皮でできた革靴や

川:みかんの皮でできた…革靴?

田:あるやろ?お前の店に

川:ありますよ

田:ふざけて作ったんか,あれは

川:いや〜あの〜,みかんの皮でできた革靴は…,まだマシなほうやろ

田:確かにまだマシなほうや。ひどいのがあれやあれ。餃子の皮で作った革靴。あれはひどい

川:あ〜,餃子の皮で作った革靴ね

田:ふざけて作ったやろあれは

川:いや別に,ふざけて作ったというわけではないよ。何か問題あります?

田:大ありや。餃子の皮でできた革靴履いて出かけてやな,雨降ってきたらどないすんねん

川:あ〜雨が降ってきたときね

田:困るやろ

川:いや…まぁでも〜,餃子の皮でできた革靴履いて出かけて,突然雨が降ってきたらですね…,水餃子になりますから

田:雨に濡れて?

川:水餃子に。だから大丈夫です

田:どこが大丈夫やねん

川:役に立つじゃないですか,水餃子

田:役に立つ?水餃子が?どういうことや

川:あの〜…まぁ…雨の日に歩いていると,小腹がすくこともあるじゃないですか?

田:え?…「食べろ」言うてんのか。足に履いてる水餃子を

川:いやいやいや。「食べろ」とは言うてないよ。靴屋であるわたしが「食べてもいいですよ」なんて言うたら,あとでいろいろ問題になりますから

田:食中毒なったりしますからね

川:ただ…,「小腹がすいて飢え死にするくらいなら,足に履いてる水餃子だろうとなんだろうと食べたほうがいいんじゃないですか」ということをわたしは暗に申し上げているんですよ

田:「暗に」言うてんのかい

川:あたりまえや。こういうことは暗に言うしかないやないか。大ぴらに言うたら大変なことになるやろ

田:なんで逆ギレしてんねん。だいたいなぁ,小腹がすいたくらいで飢え死になんてせえへんやろ

川:そうなんですか?

田:「そうなんですか?」やないわ

川:小腹がすいたら…あとは飢え死にするのみですよねぇ…

田:そんなわけないやろ。そんな恐ろしいシステムちゃうわ。だいたい雨の日に餃子でできた革靴履いてやな,水餃子になんのかほんまに

川:それはあの〜…ごく稀に…

田:ならんやろ

川:なりませんよそりゃあ。なるわけがない

田:なんで嘘つくねん

川:「ふざけてるやろ」ってものすごく責めるから,つい強がりを言ってしまいまして…

田:実際ふざけてるやろ。変な靴ばっかり作って

川:ふざけてはいない。結果的に変な靴を作ってしまったことは認めますけど,決してふざけてはいない

田:「結果的に」ってどういうことやねん

川:僕は「お客様に喜ばれる靴を作りたい」という一心で,世界中のありとあらゆる革という革を試してたんですけどね,あるとき行き詰まり,ちょっと頭もおかしくなって,みかんの皮とか餃子の皮にまで手を出してしまいまして…

田:自覚はあるんやな,頭がおかしいという

川:ありますよ。だって「皮違い」じゃないですか

田:そうや。「皮違い」や。そっちの「皮」で靴は無理やろ

川:だからふざけてたわけじゃないんですよ。むしろ,真剣すぎて頭がおかしくなっただけで…

田:確かにお前はそういうとこあるな

川:僕が目指してるのは,健康的で,経済的で,雨にも強くて,履けば履くほど革が丈夫になって,一生履ける革靴。そういう革靴を作りたいと思っているんですよ

田:ええやんそれ。そんなんあったら俺絶対買うわ

川:そやろ?

田:で,できたんですか?

川:何が?

田:いやだから,健康的で,経済的で,雨にも強くて,履けば履くほど革が丈夫になって,一生履ける革靴や

川:できましたよ

田:だったらそれ売ったらええやん

川:いや〜,これはちょっと特殊な革でできた革靴なんでね,……売れないんですよ

田:「特殊な革」ってなんやねん。今度はワンタンの皮とかやないやろな

川:違いますよ。そんなふざけた皮じゃないですよ

田:だったらなんの革でできた革靴や

川:◯◯◯◯でできた革靴

田:あ〜◯◯ね

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