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漫才論| ²⁰相槌分析 「夢路いとし・喜味こいし‬」

「漫才のうまさは相槌で決まる」と言っても過言ではありません。うまい漫才師の「相槌」に注目して学ぶなら,確実に漫才がうまくなります。普段の会話でも相槌を入れるのは普通ですが,漫才には「独特の相槌」があります。普段の相槌とどう違うのかにぜひ注目してみてください

今回は,昭和の伝説の漫才師「夢路いとし・喜味こいし」のお二人の「ジンギスカン料理」というネタの相槌をみてみましょう


漫才独特の相槌

ポイントとなる漫才独特の相槌に3種類の矢印をつけてみました

⬅︎¹ 「はい」や「はぁ」や「え?」といった相槌:普段の会話では,相手の言っていることが聞き取りないときに「え?」と聞き返しますが,台本のある漫才では相手が何を言うのか分かっているので,聞き取れないということはありません。それでもあえて「え?」などの相槌を入れているところに注目できます

⬅︎² 相手や自分の言葉を繰り返す相槌:こちらも普段の会話では,よく聞き取れなかったときなどに相手が言ったことを繰り返すことがありますが,漫才ではあえてこの相槌を入れることがよくあります

⬇︎ ⬅︎²の相手の言葉を繰り返す相槌の質問形:これによって相手にパスを出し,スムーズな話の流れを作ることができます

「ジンギスカン料理」
夢路いとし・喜味こいし

い:あのう考えたらなんやね
こ:はい⬅︎¹
い:歳を取ったらこの,食いもんにうるさいんですわ
こ:食いもんうるさいか⬅︎²
い:食べる物ね⬅︎²
こ:食べる物な⬅︎²食べるもん別にうるそう言わんでもやな。好きなもん食べとったらええねん
い:好きなものいうてもおんなじもの10日間も食われへんで
こ:そんなことないよ。好きなものやったらあんた,1年中食うてられるよ
い:君は好きなものやったら,1年中食べんの?⬅︎²
こ:ほうらぁ食うてますなあ。1年中おんなしもんを
い:君一体何が好きや
こ:私?⬅︎¹
い:はぁ⬅︎¹
こ:好きなもん?⬅︎²
い:はい⬅︎¹
こ:鍋
い:え?⬅︎¹
こ:鍋!⬅︎²
い:・・・・・・
こ:まぁ鍋が好きでね。もう1年中鍋ばっかり食うてるな
い:・・・あんた,鍋食べてんの?
────────────
い:代表的な鍋は?
こ:まぁいちばん簡単にやれるのはとり鍋でしょう
い:とり鍋いうのは鍋の中へ鳥が入ってるわけ?
こ:鳥を入れるからとり鍋⬅︎²
い:どんな鳥が入ってるの?
こ:まあ一応鳥を入れれば?
い:カラスなんかは?
こ:へへっ
い:トンビにカササギとか
こ:食える鳥入れえ,食える鳥を
い:食える鳥言うたら?⬇︎
こ:あれや。とり鍋に入れる鳥,決まっとるやろ
い:とり鍋の鳥は?⬇︎
こ:かしわ。かしわを入れてとり鍋
い:とり鍋に入ってる鳥はかしわか
こ:かしわや
い:かしわて,どんな鳥やねん
────────────
こ:ニワトリや
い:ニワトリくらいわかってるがな
こ:わかってたら言うなや
い:かしわがわからんから聞いてんねん。かしわてどんな鳥やねん
こ:かしわもニワトリも一緒
い:え?⬅︎¹
こ:かしわもニワトリも一緒⬅︎²
い:かしわとニワトリ⬅︎² あいつ二つも名前があんの?
こ:・・・・・・生きてる間の名前がニワトリ。死んだら戒名がかしわ
い:葬式屋か!君は。僕はそういう戒名鍋きらいや
こ:戒名鍋て
────────────
こ:ジンギスカン。これやってごらん。美味しいよ
い:え?⬅︎¹
こ:ジンギスカン⬅︎²
い:君は僕に好かん物を食えっちゅうのか
こ:ちゃう。ジンギスカンいう料理があんねん
い:それは牛の牛肉をやっぱり
こ:いやこれは牛やなしに羊でやるからあっさりしてる
い:なんでやる?⬇︎
こ:羊⬅︎²
い:羊いうたら?⬇︎
こ:羊や!⬅︎²
い:だから羊いうたら!⬇︎
こ:ヒゲ生やしてメーメー鳴いとるやろ。見てこいヒゲ生やしてメーメー鳴いとるから
い:羊がヒゲ生やしてメーメー鳴くか!
こ:鳴いとるやないか

い:メーメー鳴いてんのはあれはヤギやないか
────────────
い:じゃあ,そのジンギスカンという料理は
こ:はい⬅︎¹
い:お店屋さんに行かんと食われへんの?
こ:家でやれる。私とこはしょっちゅうやっとる
い:僕でもやれる?⬇︎
こ:誰でもやれるがな⬅︎²
い:僕やったことないんで
こ:ほう⬅︎¹
い:やりかた教えて
こ:料理か?⬇︎
い:はい⬅︎¹
こ:おせたげるよ
────────────
い:ほな教えて⬇︎
こ:やり方教えよ
い:やり方⬅︎²
こ:油使うから
い:油使う⬅︎²
こ:畳が汚れんようにまず準備として先にこの新聞紙をひくわけや。畳の上へ
い:あ,新聞紙を⬅︎²
こ:まず新聞紙をひく⬅︎²
い:何新聞をひいたらええの?
────────────
こ:それを新聞紙の上にそのコンロを置いて
い:コンロを置いて⬅︎²
こ:で,その上に鉄板を置くわけや。やがて鉄板が熱くなったなぁと思うたら
い:ンやがて鉄板がァ⬅︎²
こ:声変えな!
い:熱くなったと思うたら⬅︎²
こ:食用油
い:食用油⬅︎²
こ:天ぷら油
い:はい⬅︎¹
こ:知ってるな⬇︎
い:知ってる⬅︎²
────────────
こ:しばらくするとこの油が踊るから
い:なんですか?⬅︎¹
こ:しばらくしたら油が踊るから⬅︎²
い:誰が歌うたうの
こ:ちがう!油がはねんの踊るちゅうにゃ
い:あ,跳ねるの踊るか
こ:踊りだしたら
い:踊りだしたら⬅︎²
こ:羊の戒名
い:はぁ⬅︎¹
こ:マトンの肉をのせて
い:えぇ⬅︎¹
こ:表が焼けたら裏を焼いて裏が焼けたら表を焼いて
い:あの〜羊の肉の裏表はどこで見分けんの
こ:知らん!ええ加減焼いてタレつけて食え
い:ええ加減焼いてタレつけて食うの?⬅︎²
こ:ジンギスカン
い:夕べ食べた
こ:もうええ
────────────
これらの相槌の部分でものすごくテンポが上がっているのを感じる取ることができたでしょうか?この「テンポの良さ」と「漫才のうまさ」は直結していると思います

このように,うまい漫才師の「相槌」に注目しながら聴いてみると,かなり参考になると思います

このテーマに関する質問・意見・反論などは
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みんなで作る漫才の教科書とは,テーマ別に分類した「漫才論」にみなさんから「質問」「意見」「反論」などをいただいて,それに答えるという形式で教科書を作っていこうというプロジェクトです

THE MANZAI magazine
❶「自分たちにしかできない漫才スタイル」を確立する方法 ❷しゃべくり漫才のうまさは「相槌」で決まる ❸「漫才台本の書き方」と「オチのつけ方」 ➍ボケやツッコミってどのようにして思いつくものなの? ❺「言い訳-関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」は"現代漫才論"ではない-ナイツ塙さんが何を「言い訳」しているのかが分かれば,関東芸人がしゃべくり漫才でM-1王者になる道が見えてくる- ❻漫才詩集「38」

フィクション漫才『煮豆🌱』-いとこい師匠のテンポで-
作: 藤澤俊輔  出演: おせつときょうた

あらゆるオチを誰よりも先に小噺化するプロジェクト『令和醒睡笑』過去の創作小噺を何回も何回も回すと"古典小噺"になる・・・はず・・・【小噺はフリー台本】