おとなは、だれもはじめは子どもだった――『星の王子さま』について

 『星の王子さま』は1943年にアメリカで発表された物語だ。著者のサン=テグジュペリは、戦火のただ中にあったフランスからニューヨークへと亡命中だった。そのため『星の王子さま』の成立には、サン=テグジュペリのフランス(とそこにいる友人)への個人的な思いが作用しているのは間違いない。

 けれどもそれは『星の王子さま』を『聖書』や『資本論』に並ぶ世界的ベストセラーとなった理由では決してない。サン=テグジュペリが何者かを知らない人も引きつけるような、別びなにかこそ『星の王子さま』が読まれる理由に違いない。そしてその理由の一つにはきっと「自分が自分であることの根拠」の問題があるんじゃないだろうか。

 自分はほかの誰でもなく自分である。そんなことは人から言われなくても百も承知。とはわかっていても、それでもふと不安になることはある。ここで働いている自分や、ここで恋人と過ごしている自分が、ほかの誰かだったらどうか。それでもきっと世間は困らない。自分は別に自分でなくてもいいのではないか――。

 物語の前半、カリカチュアされた大人たちに対するいわば“ツッコミ”としてゆるぎない地位にいる王子さまは、しかし7番目の星、地球を訪れた途端、「自分はほかの誰でもなく自分である」ことに対して自信を失ってしまう。

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