アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』、その前後

この原稿はユリイカ 『涼宮ハルヒの憂鬱』 特集号のために執筆したものです。2006年前後のアニメを取囲む状況の変化を中心に語っています。最後に内容についても触れていますが。

『涼宮ハルヒの憂鬱』は二〇〇六年四月から全14話が放送された。もとより人気の原作であったが、アニメ化されたことでその人気はさらに盛り上がることになった。たとえばグーグルトレンドで『涼宮ハルヒ』を検索すると、2006年の放送期間中だけ特に高い値がでている。これは、アニメ化を通じて『涼宮ハルヒ』がバズワードになっていたことがわかる。
 本稿はアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』がどのようなポジションをにいるかを概観するのが主題だが、そのためにはまず一九九〇年代半ばから二〇〇六年に至るまでの簡単なアニメの歩みを振り返る必要がある。

 一九八五年にアニメブームが終わった後、TVアニメはファミリーものと少年ジャンプ原作ものが中心となり、中高生以上をターゲットとしたマニアックな企画の主戦場はOVAに動いていた。
 しかし一九九三年ごろから、TVアニメにまたハイターゲットを狙った作品が増えてくる。その流れの中で、それまでであればOVAでリリースされたであろう企画がTVアニメとして放送されるようになる。この時に原作として採用されたのが、従来の少年漫画ではなくマニア系マンガ誌掲載作品や、ライトノベルだった。『無責任艦長タイラー』(九三)や『BLUESEED』(九四)がそれに当たる。これらは従来の玩具、文具メーカーなどがスポンサーになるのではなく、ビデオメーカーが主導となって企画を推進、パッケージメディアの販売で投資をリクープする新しいビジネスモデルで制作された。

 余談だが、現在のアニメが独特のマニアックさを身にまとっている源流を探すと、この一九九三年・一九九四年をその分水嶺と考えることができる。
 この流れの中でメガヒットが出る。『新世紀エヴァンゲリオン』(九五)である。実態はなかったとはいえ、ビデオメーカーを中心とする製作委員会方式を採用した極初期の作品である本作は、エンターテインメント性十分の前半と登場人物の自意識に切り込む後半のテンションの高さで人気を集め、社会現象にまでなった。

 以上の流れを受けて一九九六年から本格的に深夜枠でのアニメ放送が始まる。パッケージでのリクープが中心であれば、放送料の安い深夜枠、テレビ東京系でも十分効果があることから、二〇〇〇年までの五年間はテレビ東京が深夜アニメをリードしていく。
 深夜枠の定着の中で、一九九八年には地方UHF局発の深夜アニメとして『LEGEND OF BASARA』が初めて放送されたり、あるいは『Night Walker -真夜中の探偵-』(九八)のように「年齢制限のあるエロゲームを原作に、全年齢向けのアニメが制作される」ケースなども登場し、深夜アニメの裾野はどんどん広がっていく。

 アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の企画が成立するには以上のようなアニメビジネス上の背景があった。
 以前、二〇〇六年のアニメシーンを総覧する原稿を依頼された際、筆者はその中で『涼宮ハルヒの憂鬱』に触れて、そのポイントを3つ上げた。 1、ライトノベル原作であること。2、UHF局放送であること。3、ネットで話題が大きく広がったこと。

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