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丹後のお酢屋さんの深〜い話#02

創業1893年、京都府北部丹後地方、日本海に面した天橋立で知られる宮津市で130年以上お酢を造り続ける蔵、飯尾醸造。“食”は人が生きていく上で、一番大切なこと。 だから「おいしくて、しかも安全な最高のお酢」を造りたい。それが飯尾醸造の基本方針。こうした考えから、お酢の原料となる無農薬のお米作りから手掛けています。そのお米を使って、自社の酒蔵で杜氏が“酢もともろみ”(酒)を仕込み、その酢もともろみ(酒)からお酢を造ります。実はこうしたお酢造りをしているメーカーはほとんどなく、米づくりからとなると他にはないのです。“日本一”という意味を込めた「富士酢」というブランド名でも知られています。

紅芋酢になるお酒造り


飯尾醸造 由良蔵

天橋立のある宮津市街地から東へ、舞鶴市へ向かう奈具海岸という切り立った海岸線の先、宮津市由良地区に飯尾醸造の酢もともろみ(酒)造りを担う「飯尾醸造 由良蔵」があります。

秋田酒造という酒蔵だったそうですが、すでに廃業していたこの施設を買い取ったのが1983年(昭和58年)のこと。舞鶴と宮津市の境に位置する「丹後富士」とも呼ばれる「由良が岳」からの良質な水を使うことができるこの環境が富士酢の品質を支えているのです。

由良蔵では酢の原料となる酢もともろみ(酒)の醸造の全ての作業を行なっています。メンバーは5名。杜氏(酒造りのリーダー)の藤本さん、副杜氏の今井さん、安田さん、三原さん、新人の三崎さんです。

(左から)三崎さん、今井さん、三原さん、安田さん、藤本さん

紅芋酒

秋から冬、そして春までの7ヶ月間が蔵が最も忙しなる時期。伺った12月は11月から始まった「紅芋酢」の原料となる紅芋のお酒造りがラストスパートに向かっていました。

・芋洗い
・芋のヘタ切り
・芋蒸し
・芋粉砕
・一次仕込み
・仕込み
・醪(もろみ)搾り
・酒粕はがし

という工程で進み10tもの紅芋を使います。紅芋は九州の鹿児島産のものを使っているそうで、理由は芋の品質と大きさ、必要な量が確保できることなのだそうです。


杜氏 藤本さん

京都市近郊で生まれ育ち、20代は大阪で駐車場の車両管制装置のメカニックの仕事をされていた藤本さん。しかし激務から身体を壊したことを契機に退職。新しい仕事を探していた時に転職フェアで飯尾醸造に出会ったのです。

「父が宮大工をしていたので“醸造”というものづくりに興味があった」という彼に先代当主はお酢について、そしてお酢を造るということについて1時間以上も滔々(とうとう)と語ってくれたのだと。それがすごく印象的で、後日改めて蔵を見学に。そして営業として入社した藤本さんでしたが、先輩の営業社員が事情があり程なくして退社されてしまい、営業のノウハウのないまま仕事を続けることの不安を上申されたところ、酒蔵の仕事への転籍が認められたのだとか。「当時たまたま空きがあったからなのだけれど、そこからはや25年」(笑)

その当時はどこの酒蔵でも冬場に専門職として「杜氏」を招くというのが慣しで飯尾醸造でも兵庫県の温泉町(現在の美方郡新温泉町)から「但馬杜氏」を招いて酒造りを行なっていたのでした。しかし蔵に入って6年ほどした時、年齢的なことから杜氏さんが辞められる事に。新しい杜氏を招くのはコスト的にも人的にも再考の流れ(杜氏の高齢化が進み後継者が減っていたことと、各地の酒蔵でも社内の人間や家族が杜氏を引き継ぐ流れが生まれていた)があり、「藤本くん、杜氏やってみないか?」と白羽の矢が立ったのだそうです。

それまでの6年間下働きがほとんどで(杜氏さんが仕事を抱え込む傾向があったため)不安を覚えた彼は「ちゃんと勉強させてほしい」と志願。東京の「日本醸造協会」の1ヶ月半のセミナーを上京して受講。知識を得た彼は数年遅れで蔵に入っていた今井さんと二人三脚での酒造りをスタートさせたのです。

副杜氏 今井さん


キャリア20年超の蔵人 安田さん

当時の蔵人さん達も年齢的な理由から辞められていく方も出てきて人員の確保には常に苦労をしていたと言います。「あの頃の“つくり”は泊まり込みの作業で続けていける人が少なかった」のだと。

新しい息吹

3年前に三原さんが入社。「酒造りがやりたい」と手を挙げてくれる人材が生まれたことで「やっとや!」と藤本さんは微笑む。

三原さんは酒造検定も取得。「搾りたてのお酒が飲めるのが楽しい」と語ってくれました。

「これから彼が自分のビジョンを持って酒造りを進めてくれたら」と藤本さんは目を細める。

取材中、蒸し上がって砕いた紅芋を仕込む時に、「蒸した紅芋ってすごく甘くて・・・」と、新人(入社1年目)の三崎さんが筆者に語りかけてくれました。

発酵の音がプチプチとすごいんですよ!自然の力、人が何にもしなくても・・・そこに感動しました。酢の発酵は静かなんですが醪の発酵は劇的で見ていて面白いんです!」

さまざまな発酵技術を用いてつくる酒、そしてお酢。有機的な変化の連続が人の気持ちを動かすことを感じたのです。

株式会社 飯尾醸造


〒626-0052 京都府宮津市小田宿野373
tel 0772-25-0015
url https://www.iio-jozo.co.jp/

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