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ベテラン俳優に聞いた70歳からの仕事のやり方

先週末は、長年通うバーで常連の俳優さんの誕生日を祝った。

もう35年も通っているバーなので仲が良い常連さんも多いのだけど、その中でも一緒に旅行に行ったりしている方で、72歳の誕生日だった。

一昔前ならば、70歳を超えている役者さんといえばおじいさんだったが、今でも現役で舞台に立ち、普段は演出や振り付けの仕事をしている彼には、とてもその年齢には見えない若々しさと覇気がある。

かつて大学時代に演劇サークルにいた頃、私は図書館で演劇雑誌を読むのが好きだった。今はない「新劇」まだ発行されている「テアトロ」「悲劇喜劇」そうした雑誌のグラビアには、その月に上演された舞台の写真が掲載され、公演情報などを知ることができた。

その頃、憧れた一人が、この役者さんだった。

学生時代の自分に、のちに一緒に海外旅行に行ったり、下町散策ツアーをしたりすると教えたらば、絶対に信じないと思う。

そんな役者さんに、最近考えていることを聞いた。

70歳を迎えたときに、どう思いましたか?

彼は、何も思わなかったな。と答えた。

70歳だからどうという風には考えないから。今入っている仕事の予定に対して明日はどうしよう、来週のあの仕事はどうしようと考えるので精一杯だよ。

そんな彼にとっての転機は、東日本大震災だった。

あの時は、一人で家にいられなかった。昼間は仕事があったからいいけど、夜は一人の家に帰るのが嫌で、毎晩ここで飲んでたよね。

確かに、同じように毎日のように通っていた私は、毎晩会っていた。

あれで、いつまでも生きているのが当たり前じゃないということがわかったし、より、今与えられている仕事をちゃんと全うしようと思うようになったね。それまでもいい加減にしたことはないけど、これが最後かもしれないから、キチンとやらなきゃといつも思うようになった。

以前、プロとはなんだと思いますか、と尋ねたときには、こう答えた。

依頼があるのは専門家として最低限。その仕事が次の仕事を産むのがプロ。また来年もお願いしますと言われるように、毎年、工夫をするのが僕のやり方かな。同じ芝居でも配役が変われば演出が同じで良いとはならないし、時代が変われば、同じセリフでも同じ言い方で良いとは限らない。
そこを先に掴んで、先に変えて行けるかどうか。変えるのは難しい。でも、それがプロのやり方だよね。
僕の誇りは、一度きりの仕事がすごかったと言われるよりも、一度頼まれた仕事が長く続いていることなんだよね。

最近は、知人が亡くなって、あとを任される仕事も増えてきたという。長生きはするものだよね、と笑うけど、実際は寂しいことの方が多いだろう。長年一緒に舞台に立った友が亡くなり、信頼する演出家が亡くなり、最近は、どこの現場に行っても最年長なんだよなあ、と嘆くでもなく呟く。

一方で、俳優志望、声優志望の学生を教える仕事では、上に立つのではなく横に居てあげること、寄り添うよりも突き放すように褒めてあげることを心がけているという。

何が正しいかなんて、今だって僕にはわからない。なのに、若い子たちに正解を示すなんて無理だよ。でも、今は自信がない子が多い。先生は先に生まれただけだけど、みんなよりはいろんなものを見てきたし、経験したから、その範囲で良いものはわかる。みんなよりは偉い。その僕が褒めるんだから大丈夫って言ってあげないと、方向性が生まれない。だから、その子がやったことにイエスを言う。いいんじゃない、と言って肩を叩いて褒めてあげる。それくらいかな、気をつけているのは。

毎週末に同じバーで会って、いろんなことを話してきたけど、いつも勉強になる。こういう大人の付き合いって、いいなと思う。私のサードプレイスがそこにある。

サポートの意味や意図がまだわかってない感じがありますが、サポートしていただくと、きっと、また次を頑張るだろうと思います。