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演劇を使った企業とのコラボの可能性

OMソーラー株式会社さん(以下OM)という建材メーカーから、全国の会員工務店の経営者が一堂に会す、“全国経営者会議”で、演劇を創作してほしいという依頼があり、短編の演劇作品発表しました。
こういった形でクライアントワークで演劇創作の依頼をいただいたのが初めてだったので、せっかくなので簡単な記録を残しておきたい思います。

OMの今年のテーマが《伝え方改革》ということで、基調講演や新しい技術のプロモーションのセッションがある中に、“演劇作品を上演する”という切り口で会員工務店と営業について考えると良いのでは、という経緯での依頼でした。

わたしが一番燃えたのは、全国から集まる会員工務店の経営者の方のほとんどが男性で、40〜60歳ぐらいの方が多く……つまり、【観客のほとんどが、これまで一度も演劇を観たことのないおっちゃん!】ということ。

人生で最初(そして最後かもしれない)観劇体験を作れるなんて、ゾクゾクするわい!そんなおっちゃんの心を揺らしたい!という気持ちに燃え、引受けました。

■創作過程
わたしは、温度の変化に身体が弱く、鼻炎持ち、夏でも冬でもエアコンの風が苦手なのですが(これを書いてる今もクーラーつけたり消したりしてます。)、初めてOMさんのモデルハウスに行ったときにとても身体が心地よく、取材を重ねるごとに、“できるだけ太陽熱の力を使いながら、身体に優しい家を造る”というコンセプトが好きになったことは、創作の大きなエンジンでした。(理念が肌にあわなかったらかなり辛い。というかそれは受けるべきではないですね。)

OMさんとの打ち合わせの末、今回は、オープニングアクト的な位置づけで、経営者会議の冒頭10分ほどのコンパクトなショー的なものと、工務店の若手社員オオタがある夫婦に営業トークをする20分ほどの演劇作品、この2つを創作することになりました。

出演は、妻の役をmizhenの佐藤蕗子、夫役にmizhen『小町花伝』に出演してくれた鈴木しゆうさん、そして、演劇界で“工務店の営業っぽい人”を考えたとき一番に頭に浮かんだ、さいとう篤史さんに営業のオオタ役をお願いしました。

クライアントの今回のオーダーとしては、昨年出た“OMX”という新しいシステムを、ぜひとも会員工務店さんにたくさん売って欲しい、というところが狙いだったので、OMさんや工務店に取材をし、OMさんの入れてほしい情報などを組み込みながら物語に仕上げていったのですが、

途中で、ふと、
(なんだかこれは、ちょっとコマーシャルっぽくなってやしないか…?)

というひっかかりがありました。ちょっと手の混んだ営業のロールプレイみたいな台本になってないか?と。これ、わたしがわざわざ入ってやる意味があるか?と。

少し悩みながら、打ち合わせに参加したとき、たまたま会議に同席していた会員工務店の経営者の方に、脚本について忌憚ない感想をもらうことに。

「現場の最前線は、もっとヒリヒリしてるんです」

彼の言葉に、ハッとしました。
工務店は、OMの会員とはいえ、OMの設備を入れなくても家が建てれてしまう。決して安くない設備をお客さんにすすめる、そのリアルな現場の緊張感、姉ちゃん、あんた分かってへんやろう、なめてんのちゃうの、ぬるい仕事やってんちゃうぞ、という(そこまで言われてないけれども)メッセージを受け取り、気づいたのです。

設備を作る人(OM)がいて、それを売る人(工務店)がある。
最終的に今回の仕事でわたしが作るのは
この作る人と売る人の“間”の働きを良くするため、
その、“間に置くもの”だ。

“間に置くもの”を作るのだ、と考え始めると、工務店側の葛藤や、不安ももっと盛り込んだ方がいい。ガラッと方向性を変えたくなり、
これまでの脚本を改め、ほとんど書き直すことにしました。

実は、OMさんの会社設立年は、わたしの生まれた年、1987年。
今回はそういうご縁も感じていたのですが、資料のOM創立の30年史の創立までにいたった歴史や、創立してからこれまでのストーリーを読み、作る人と、売る人の“間”がどう生まれ、どう変化してきたのだろう、ということを想像しました。

30年史にはOMソーラーの開発者、と言われる建築家・故 奥村昭雄さんについて詳しく書かれていましたが、よくよく読むと、その周りには妻の建築家・故 奥村まことさんがいて、システムの開発のために勉強会に集まった建築家、工務店の方、新しい家造りを目指して試行錯誤を繰り返した人たちがたくさんいて、
より良いものにアップデートするため、そしてそれをより広めるため、作る人と売る人が手を組み前進してきた歴史の熱、を感じました。

この、間にあった熱と、今を繋げるような作品にしよう。
そうして、これまでの歴史を凝縮するようなシーンも急遽取り入れ、
俳優とも稽古でディスカッションを重ね、演劇の手法としても少し抽象度をあげたシーンを挿入し、結果的に当初よりも、納得のいくものに仕上がりました。(あの工務店の方の感想のおかげです。)


■発表
会場はつくばのホテル。
経営者会議開会の冒頭。ある会員工務店の経営者さんの挨拶に続く形で、架空の工務店(ミキマ建設)の若手営業マン・オオタとしてさいとうさんが登壇します。
挨拶を始めるが、途中で頭が真っ白になってしまう、という設定。


この日、経営者会議で演劇が上演されることは参加者の皆さんに知らされていなかったので、本当に工務店の若手営業が挨拶をしてとちっているように見え、「うわ、アイツしくじってる・・・」というニヤニヤと気まずい空気が会場に広がります。(これを狙っていた)

その後、突如変な二人が乱入。OMの初期からあるシステム“OMソーラー”と、“OMX”が擬人化された二人。そこでようやく、パフォーマンスだったんかーい。という仕掛けに。
OMXをどうやって売って行くか悩むオオタに、それぞれの立場からアドバイスするOMソーラーとOMXとのやりとり、そしてOMのテーマソングを歌ったりと(作曲はmizhen佐藤蕗子にお願いし、Perfume×Suchmos的なおしゃれソングに仕上げてくれました。)賑やかなオープニングでした。

オープニングは、オオタが登壇するという形なのでもともとしつらえてある席で遠くから見る方もたくさんいましたが、本編の演劇はできるだけ近い距離で見て欲しい、できるだけ囲む形で客席を作りたい!
ということで、OM関連の展示パネルや、設備のモデルが並ぶ中央に舞台を設置してもらいました。

本編。
オオタの夢の中、不思議な女が登場し、OMが過去に建てた建物の記憶、OM開発にまつわる建築家や工務店の言葉が断片的に、矢継ぎ早に語られます。

オオタが目が覚めると、そこにはモデルハウスの見学に訪れた鈴木夫妻が。
OMXの説明を切り出すかどうか、切り出したあと、どう話を続けていくか、オオタの葛藤が各所でモノローグで挟まれつつ、進んでいきます。


オオタの必死のトークの末、夫婦は「モデルハウスに、体験宿泊してみる」ことに決め、オオタのトークはひとまず成功、というところで終わります。

その後、時代は1987年に遡り、年号のカウントアップとともに、2019年までのOMの歴史のいくつかの象徴的なシーンが、断片的に立ち上がります。
2019年には、鈴木夫婦が登場。
そしてその後、さらに年号はカウントアップしていき、おそらくオオタのすすめで家を購入したらしい鈴木夫婦の未来のシーンが断片的に描かれ、時代は、2070年で幕を閉じます。


■終わって
演劇を見たことがない人にどう伝わるのか、という不安と期待と、
100%リアルに働いている人がお客さん、というまるで半沢直樹の作品を三菱東京UFJの人しか観ない、みたいな(笑)そんなハードル大丈夫かな、というプレッシャーがありましたが、
たくさんの工務店の方に、熱を帯びた感想をいただき、大変好評でホッとしました。

お父様から会社を受け継いた二代目の方から、
OMの立ち上げ当初の熱気について父から色々話は聞いていたけれども、
頭では知っていたことが、今日ようやく腹に落ちた、この仕事を選んで良かったと思えたので本当に来てよかった、という感想でした。(なんて嬉しい・・・)

もちろん、その当時の熱気を間近でみていた当事者のお父さんと、わたしとの情報量は雲泥の差だと思うのですが、そう感じてもらえたのは、

やっぱり、演劇、という身体が現前するメディアだったからじゃないかな、と思います。
同じものを映像で撮って上映しても、こうはならなかったはず。

過去にこちらにも書きましたが、


演劇は、俳優の身体を媒介に、歴史も人間関係も、様々なことを自分の身体でダイレクトに想像してしまうメディア。
今回の工務店の方の反応を見ながら、改めて演劇という身体のメディアが持つ影響の強さを感じました。(使い方を間違えば怖いほどに)

Youtubeで手軽に映像をシェアできる時代だし、映像の伝播力を羨ましく思うことも多いですが、その場にいる人の身体の、想像力を揺らす、という力は、演劇(広くは舞台芸術)ならではだと思います。そしてそれを体現する俳優という仕事はほんとに尊い存在なのです。

演劇が、企業とコラボレーションする可能性を、年々強く感じていますが、
これからの時代、“演劇”で面白い触発を産む機会が増えていくだろう、という手応えをさらに感じた仕事でした。

(そしてひとえに、上演するまでどうなるかわからない演劇という賭けに、信頼して柔軟にやりとりしてくださったOMの広報村田さんと企画のマルチプルの平藤さんのおかげです。ありがとうございました。)

“演劇”を使って、今度はどんなことができるだろう。
企む仲間を増やしたい。

(演劇が終わり、二日目は劇中の台詞を展示しました)

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