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小説「真夜中に目が覚めた」

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「真夜中に目が覚めた」で始まる、結婚とは、夫婦とは、家族とは、幸せとはを綴った短編連作。
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#育児

【第三夜】ごちそうさま

【第三夜】ごちそうさま

 真夜中に目が覚めた。

 枕元の時計を見ると午前2時。ここ数週間、毎日夜泣きが続いている。そして先に目が覚めるのは必ず自分の方だった。隣で寝ている結花理は相変わらず起きる気配がない。

 仕方なくベッドから這い出しベビーベッドに向かう。泣いている娘を抱き上げてあやす。もちろんすぐに泣き止む気配はない。

 ベビーベッドにはもう一人スヤスヤ眠っている娘がいる。2人同時に泣かれたら埒があ

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【第四夜】計算違い

 真夜中に目が覚めた。

 隣にいるはずの忠幸さんがいない。耳を済ますと泣き声が聞こえてきた。

 また、美優の夜泣きか……毎晩、毎晩なんであんなにあの子は泣くんだろう。美幸の方は夜泣きもせず朝までぐっすりなのに。

 子供がこんなにも面倒なものだとは思わなかった。

 あたしはただ『専業主婦』になりたかった。相手は誰でもよかった。経済力さえあれば誰でも……そう、本気で思っていた。

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【第十二夜】泣き笑い

【第十二夜】泣き笑い

 真夜中に目が覚めた。

 手を伸ばすとそこには温かい小さな手がある。私は暗闇の中その先にある小さな塊を優しく抱きしめ、また眠りについた。

「ようじぃ、今日くる?」

「さあ、どうかなあ?」

「ねえ、ようじぃ、まだ?」

「幸子は、ほんとにようじぃが好きだねえ」

 日曜の朝、目を覚ました瞬間から、幸子はようじぃはまだかとうるさい。確かにようじぃは毎週日曜にやってきて、

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【第十四夜】幸せの温度

【第十四夜】幸せの温度

真夜中に目が覚めた。

暗闇の中で、ママの手を探してぎゅってしたら、ママがぎゅって握り返してくれた。ママは体温が低い。いつも触られるとヒヤッとする。サチコは体温が高いから、冬はいつもママがサチコにくっついてあったまって、夏はサチコがママでひんやりする。サチコとママの手のひらの体温が一緒になる頃にはまた眠りについていた。

「いってきます!今日は絶対7時には帰るからね!」

ママはいつもお仕事が忙し

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【第十五夜】涙の理由

【第十五夜】涙の理由

真夜中に目が覚めた。

夢を見ていた。佐知子に振られて、開かないドアの前に立ち尽くす若い頃の自分。

一瞬、現実に意識が戻り、夢うつつを彷徨いながら、再び眠りに落ちると、今度は家路につく途中、美幸ちゃんとさっちゃんに会って、一緒にスーパーに買い物に行く年老いた今の自分がいた。

目が覚めたとき、また泣いていた。年をとると涙もろくなる。

昨日も勝手に涙が溢れてきた。4年ぶりに食べたマイキーのチーズ

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