耐震強度
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ひさしぶりに杉並区から回覧板メールが届いた。
「杉並区では、大規模地震を想定し、区内の住宅の耐震検査を実施することにいたしました。ご協力をよろしくお願いします。」
珍しくまじめな文面だ。
びすがなんだか悲痛な顔をしている。
「耐震検査っておまえがするの?」
「ねずみには無理でチュー」
チャイムが鳴った。
玄関を開けると、熊が立っていた。
右手を振り上げたので、一瞬、顔の半分が吹き飛んだ自分の姿を想像したが、野生の熊というわけではないようだ。
「よっ」
と言った。
「誰だおまえは」
「くまでクマー」
いやな予感がした。
「どこから来たんだ?」
「あっち」
「あっちじゃわからん」
「区役所方面でクマー」
やっぱり。
「この家は築何年でクマー?」
「えーと、築35年の中古を買って、もう何年住んでるんだっけな。とりあえず古いよ」
「では、耐震調査を実施するでクマー。危険なので、家から離れてほしいでクマー」
びすをポケットに入れてあわてて家を出た。
「行くでクマー」
熊は五十メートルほど離れて全力で突進してきた。そのまま我が家にぶつかる。
家は木っ端みじんに吹っ飛んだ。
「ご愁傷様でクマー」
「こら。直していけ」
「耐震強度不足なので建て直すでクマー」
「そんなカネはねえ」
「ほんとにないでチュー」
そこだけ保証しなくてもよろしい。
「じゃ、これをあげるクマー」
熊はテントをくれて、のしのしと去っていった。
あらためて見回すと、櫛の歯が抜けるように、そこら中が更地になっていた。
(了)
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