みつお

 おばあちゃんが亡くなって、遺産とともに、いろいろ不思議な遺品が送られてきた。
 一部屋を満杯にするくらいの量がある。
 毎日すこしずつ段ボールを開けている。
 今日の段ボールには書が詰まっていた。掛け軸である。

「まずいものでも
たべる。みつお」

 みつをにも不機嫌な時代があったのだなあと思ったが、よく見ると、みつをではなくみつおである。偽物かい!

「やまにのぼれば
おりなきゃいけない
おつお」

 そりゃそうだろ。

「しばかりきで
しばといっしょに
くさをかる
みつお」

 みつお、無精だな。雑草は、雨が降ったあとに、根本から抜かなきゃ意味ないだろ。

「きみがいないと
きがらく。
みつお」

 みつお、きっと一度や二度は離婚されていると思う。

「からすがなくので
ごみすてにいく
みつお」

 みつお、あまり時間を気にしない人なのね。まあ、ゴミ屋敷系の人でなくてよかった。

「まがりくねったみちは
かわのあと
てっぽうみずがくる
みつお」

 来ない来ない。妄想入ってる。晩年の作かもしれない。
 なんとなく、みつおに思い入れて読んでいると、ふと、ばあちゃんの名前が光子であったことに気づいた。みつこ、みつお。もしかして、みつおってばあちゃんのペンネームだったのかもしれない。いまさら確認しようもないが、書がうまい人であったとは聞いている。

「すごしにくいきせつのあとは
すごしやすいきせつ
みつお」

 もうすぐ秋だなあ。
 落ち着いたら、墓祭りにいこうと決めた。

(了)

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