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街頭アンケート

 街頭でいきなり「話、聞いてあげてもいいですよ」と言われ、「はあ?」と聞き返した。
「いや、だから」と若いもんは言った。「僕いま仕事がなくてヒマですから、あなたの無駄話に付き合ってあげられますよ」
「第一に」と私は言った。「話す前から人の話を無駄と決めつけるな」
「ここで僕とあなたが話をしてもあとにはなにも残らないからまあ無駄ですよ」
「無駄に付き合っているヒマはないよ。仕事が溜まっているんだ」
「じゃあ、分けてください」
「小分けにできない」
「そんなわけないでしょう」
「本を書いているんだよ。どうやって分けるんだ」
「どんな本です?」
「永久について。君、永久についてなにか書けるか」
「いやあとくに。興味ないし」
「な。分けられない仕事だってあるんだよ」
「でも、それ、あなたが勝手に考えているんでしょう。独りよがりになりませんか」
「なるかもしれないけど。いいじゃないか」
「マーケティング的にはよくないですよ。ぼくがここでいろいろな人に聞いてあげます。あなたのほしい「永久○○ってなんですか」って」
「いや、そういう本じゃないんだが」
「他人の意見も大切ですよ」
 こうして私は、常日頃からうさんくさいと思っていた街頭アンケートを実施する張本人となってしまった。
 数日後、ぶらっと散歩に出ると、あの若いやつが手を振っている。ほんとにアンケートをとりまくっていたらしい。
「けっこう聞けましたよ。永久について聞かれると、答える人って多いですねー」
「な、けっこういけそうだろ。永久ってテーマ」
「じゃ、回答の一例」
「質問なんだっけ」
「あなたの欲しい永久○○」
「そんなこと聞いたかな」
「永久パンツ」
「なんだそりゃ」
「着替えるのが面倒なんでしょ」
「バカじゃないか」
「永久トイレットペーパー」
「これはわかるな」
「できるんですか」
「できない」
「なんだ。次、永久六輔。わけわかんないな」
「永六輔のファンだろ」
「誰ですか、それ。次、永久ラーメン」
「これは難しいな」
「ずっと食べていたいんですかね」
「なんだろうね」
「永久睡眠」
「永眠でいいんじゃないか」
「どうです、いま書いてる本の役に立ちますか」
「ぜんぜん立たない」

(了)

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