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【SS】控えおろう

 大文字長治郎の勤める会社には経営戦略企画室という部署がある。
 ちょっと大きな会社には、どこにでもこれに類した部署があるのではないか。ここに異動されるまで、ぜんぜん気にしたこともなかったけれど。
 ものを売るわけでもない。作るわけでもない。組織を管理するわけでも、誰かを接待するわけでもない。
「会社の未来を考えて」
 と言われて、長治郎は茫然としたのだった。
 異動三日目、茫然としたまま、長治郎は会議室に入っていった。
 ブレーンストーミングということで、好き勝手に喋っていいということだったが、まだ様子のわからない彼は黙ってみんなの話を聞いていた。
 が、気がついたら、口を開いてしまっていた。
「あの、未来のこともいいんですが、いまの問題はどうするんですか」
「いまの問題って?」
「相談役は90歳で、会長は80歳で、社長は70歳ですよ。それで未来を捕まえるって、無理でしょう」
「創業の頃からいる人たちだからなあ。辞めさせられないよ」
「死にそうもないですしね」
「そういう時はお元気ですしねっていうんだ」
「すみません」
「で、君になにかアイデアはあるのか」
「水戸黄門になっていただくのはどうでしょう」
「なんだそれは」
「今までさんざん会社のために尽くしていただいたので、これからは日本のために働いていただきたい。ついては、相談役を黄門様に、会長を助さんに、社長を格さんに任命する、ということで、社外に出ていただく」
「そんなことが通ると思っているのか」
 通ってしまった。
 会社のロゴの入った印籠を持った三人は全国で大暴れ。国会にも乱入して気を吐き、全国的な人気になってしまった。若返った新相談役、新会長、新社長も大喜びである。
 問題はただひとつ。日本全国にご老公一行様が溢れかえってしまったことだ。どこの会社も困っていたんだなあ。

(了)

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